第35話 志願者
平穏な移動を退屈に感じてきた頃、馬車がいきなり停止した。
ノルフが振り返って声をかけてくる。
「リアさん、少しよろしいでしょうか」
「ん、どうした?」
「前方をご覧ください」
私は言われた通りに前方を見る。
行く手を阻むように街道に立つ者がいる。
それは私が決闘で戦った騎士、バジルだった。
私は鉈を握って馬車を降りる。
バジルは気さくな態度で話しかけてきた。
「どーも、数日ぶりすね」
「なんだよ。任務を邪魔するように命令されたのか」
「いやいやまさか。オイラは任務を手伝うために参上しやした」
バジルはへらへらとした笑みで言う。
すかさず御者席のノルフが厳しい声音で指摘した。
「騎士バジル。あなたは決闘での敗北が原因でルードン家に責任を問われているそうですね。任務を手伝うと言いながら、リアさんに報復するのが目的では?」
「冗談はよしてくだせえ。オイラが報復を企てても敵うわけありやせんよ」
「では何のために待ち伏せしていたのですか?」
「まあ有り体に言うと、匿ってもらうのが目的です」
バジルは笑顔のまま再会の意図を明かした。
それから彼は、少し困った様子で己の事情を説明する。
「実はオイラ、ルードン家から命を狙われてましてね? 逃げ続けるのも限界がありやすし、それならいっそエルスワーズ家の配下に加わるのが利口ってもんでしょう」
「なるほど。つまり配下になって守ってもらいたいから、手始めに任務を手伝うってわけか」
「ご理解が早くて助かりやす」
バジルが揉み手をしながら近づいてくる。
確かに敵意は感じられなかった。
あまりにも無防備な姿は、本当に配下になりたいだけということを言外に主張している。
バジルは探るような目つきで私に提案をする。
「それで、どうでしょう? お嬢にはあっさり負けちまいましたが、そこそこお役に立てると思いやすがね。この憐れな男を雇ってくれやせんか」
「いいよ。雇ってやる」
「ず、随分とあっさり決めやしたね」
「駄目だったか?」
「いや、即決すぎて驚いちまっただけです。でも、本当にいいんですかい? ちょっと前まで敵だったのに」
バジルは目を丸くしていた。
彼の中では、もう何度か問答する想定だったのだろう。
私は平然とバジルに告げる。
「優秀な駒はいくらあっても足りないくらいだ。ただし裏切ったら殺す。覚悟をしとけよ」
「ご安心くだせえ。オイラはこう見えて一途なんでね。主を裏切るような真似は決してしやせん」
「でも決闘で降参しただろ。あれは裏切りじゃねえか?」
私の言葉に対し、バジルは目を逸らして口笛を吹き始めた。




