表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/96

第3話 生まれつきの才能

 使用人の朝は早い。

 薄暗い時間帯に起きて、ひらひらしたメイド服に身を包むと、それからずっと掃除や洗濯をする。

 とにかく雑用ばかり任された。

 サボる隙はなく、休みだってほとんどない。

 働くのは初めてなのにまったく容赦がなかった。


 ちなみに料理は初日で禁止された。

 あまりにも下手なことに加え、何度も盗み食いをしたからだ。

 メイド長にはとにかく叱られた。

 あまりに鬱陶しいので殴りたくなったが、執事のノルフが見張っているので大人しくするしかなかった。

 強い人間に逆らってはいけないのは貧民街と同じだ。


 午後はノルフによる座学が始まる。

 一般教養や読み書き、計算などを徹底的に教え込まれた。

 ちなみに今日の内容はこの国の歴史だった。


 私がいるのはルスタイナ王国である。

 周辺諸国と比較して特に栄えた大国で、身分差別が激しいのが特徴である。

 貴族と平民の間には埋めがたい差があり、さらに平民の下に私のような貧民がいる。

 搾取に対する憂さ晴らしができるようにしてあるのだそうだ。

 単純だがよく出来た構造であった。


 私は貴族の所有物になったが、別に身分が変わったわけではない。

 敷地を出れば、何の力もない貧民なのだ。

 ただ、衣食住に困らなくなったのは良いかもしれない。

 そこだけは感謝している。


 ぼんやりと考え事をしていると、ノルフが指を向けて注意してきた。


「話に集中してください」


「痛っ」


 額に弾かれたような衝撃が走る。

 ノルフが固めた魔力を飛ばしてきたのだ。

 私を叱る時に使う得意技であった。

 地味に痛いが、彼が本気ならたぶん頭が吹き飛んでいるだろう。

 加減してくれるのは優しさだと思う、たぶん。


 歴史の説明を中断したノルフは、咳払いをして話を変える。


「リアさん、人間が魔術を扱う仕組みをご存じですか」


「知らねえよそんなもん」


「……言葉遣いが悪いですよ」


「はいはい」


 私が面倒そうに応じると、ノルフは静かに嘆息した。

 それから説明を続ける。


「魔術は心臓で生み出した魔力を糧に発現させます。魔術の内容——術式は魂に刻まれており、生涯において不変です」


「つまりどういうこと?」


「魔術師の力量は努力ではなく才能で決まります。もっとも、鍛錬によって魔力量は増やせますし、術も工夫次第で化けますがね」


「努力と才能が揃ったら最強になれんのか」


「その通りです」


 ノルフは真剣な顔で頷く。

 少し黙った後、ノルフは自分の胸に手を当てた。


「魂に術式が刻まれた人間は珍しく、割合で言うと百人に一人程度です。実際、私も術式を持っていません」


「えっ、さっき魔力を飛ばしてきたじゃん」


「あれは基礎的な魔力操作の応用ですね。ああいった小技や身体強化は誰でもできるのですよ」


 ノルフは少し寂しそうに言う。

 ひょっとすると魔術師に憧れでもあるのか。

 そこを訊く前にノルフが私の目を見た。


「しかしリアさんは違います。あなたに再生魔術がある。それはとてつもない才能です」


「お、おう」


「必要な知識は私は授けます。ですので可能性を捨てず、存分に学んでくださいね」


「……結局、それが言いたかっただけかよ」


「ふふ、どうでしょうね」


 ノルフは上品に笑う。

 いつもより優しい表情だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ