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第1話 どん底の人生

 私は飢えていた。

 身体だけではなく、心も常に飢えていた。

 住む家を持たず、語れるほどの夢もなく、愛する家族さえいない。

 何もない私は、ただ生きるだけの存在だった。


 日の出と共に私は目覚める。

 瓦礫の山の僅かな隙間から這い出て散歩を始める。

 辺りには薄汚れた格好の人間がいた。

 彼らは互いを警戒しつつ、大抵は何事もなくすれ違う。

 道の端で周囲を観察する者は、今日の獲物を探しているのだろう。

 油断すると襲われるので近付いてはならない。


 貧民街ではどれも日常の光景だった。

 弱い者は強い者に奪われる。

 ここの住人なら赤ん坊の頃から知っている常識だ。

 だから誰も助けてくれないし、何をしても文句は言われない。


 十二歳の少女である私が独りで生きていられるのは、再生の魔術を使えるからだ。

 この魔術は絶えず肉体を癒やし、決して死ぬことを許さない。

 もはや呪いに等しい効力で私の命を無理やり繋いでいる。

 いっそ死ねた方がましという経験もしてきたが、こうして今も日々を過ごしている。


 散歩の途中、腹が空腹を訴えた。

 情けない音を聞いた私は、ゴミと死体だらけの道を見回す。

 食べられそうな物は落ちていない。

 私の力では脅して奪うのも難しいため、貧民街の外で盗むしかないだろう。


 そう考えて歩き出した時、前方の曲がり角から三人の男女が現れた。


 先頭を歩く男は白髪の老人だ。

 ただしその姿から弱々しさは感じられず、背筋も伸びて凛々しい。

 皺一つない黒い服を着て剣を握る様は、研ぎ澄まされた迫力を放っている。


 後ろの男女は夫婦のように見える。

 二人とも鮮やかな色の服に身を包み、高そうな指輪や首飾りを着けている。

 貧民街ではまず見かけない恰好であった。


 私は首を傾げてその三人を眺める。


(貴族か……?)


 もしそうなら関わるべきではない。

 貴族は危険だ。

 権力でなんでも思い通りにできるし、気まぐれに人を殺す。

 貧民街の悪党よりも厄介だと聞いたことがある。

 とにかくすぐに離れるべきだ。


 私が立ち去ろうとしたのと同時に、豪華な服の男が剣士の老人に尋ねる。


「優れた魔力反応だ。あれが噂の再生する少女か?」


「おそらくそうかと」


「捕縛しろ。手荒な方法でも構わんから逃がすな」


「仰せのままに」


 剣士の老人がこっちに近付いてくる。

 それだけで空気が張り詰めた。

 息をするのも苦しいほどの緊張に襲われる。

 老人は私の前で立ち止まると、落ち着いた声で告げる。


「無用な血は見たくありません。投降してください」


 私は返答せず、隠し持っていたナイフを構えて突進する。

 老人は自然な動きでナイフを躱すと、冷たい目で私を睨んだ。


「致し方ありませんな」


 首に衝撃。

 それと熱い痛み。

 視界が回って気持ち悪い。


 血を噴き出す私の胴体が見えた。

 ナイフを突き出した姿勢のまま、ゆっくりと倒れていく。

 剣を振り抜いた老人は、寂しげな目をしていた。


 そうか、首を斬られたのか。

 気付いた私は意識を手放した。

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