遭遇 2
左に急旋回しGが体にのしかかる。高度はこちらがまだ上、速度も引き離されてはいない。急加速し、上からかぶりつく。
環一杯に、捕えた。
ダカカカカカカカカカカカカカカカカカ
エンジン操縦席主翼尾翼。まんべんなく弾丸は当たった。鉄片がぱらぱらと後ろに流れていく。
すれ違いざまに敵機を見る。火は出てない。防弾性能も、高い。
「くそっ」
降下によって重たくなった操縦桿を引き起こし、二撃目に備える。トニーは……、敵機の斜め上という絶好のポジションにいながら、後部銃座の妨害と目測のミスで弾道は敵機のケツを追っている。そして避けようと思ったのか、機体を翻してしまいエンジンに命中。発火・停止させてしまった。燃料タンクを抱いたまま、高度はみるみる下がる。
「ちゅ、中尉!操縦席内でお、オイルが!エンジンがとまっ、とまって……お、落ちるぅ!」
「落ち着け、トニー。名前は?出身地は?」語気強く、押した。視界の端で敵機を捕えながら。
「へっ、あ、い、ととととトニー、カークで、す。しっ、しん地はうぃ、ウィゴル村!」
「よく言えた。お前はもう冷静だ!よく聞け、エンジンは消火装置によって停止したんだ。わかるな。操縦席で散っているオイルは発火しねえ!保証する!パラシュートの使い方は分かるな?高度は十分だ!お前ならいける!」
気弱な返事からしばらくして、私のはるか下で真白な花が舞った。今日は天候がいい。これならトニーは無事救出されるだろう。
再び点に帰ろうとする敵機を視認すると、左手でレバーを操作。ごごん、という音とともにタンクが破棄され、機体が浮かび上がるような感覚を覚える。
ここからが、本番だ。
スロットルを全開にし、ターボの圧力を上げる。さきほどよりもより鋭く加速され、高度をとりつつ飛行しているにも関わらず距離は縮まり後背位、絶好の必中点に入った。四十五度の再び上から襲いかかる―
ダカカカカカカカッ
「ちっ」
当たったのは―いや、かすったのは羽根のはしだけ。軽やかに横滑りされて避けられた。加速はいいが重たい私の機位はまたヤツより下に。だが、今度はトロくはやらない。渾身の力で操縦桿を引き起こし、機首を上に向ける。今度は、逃がさない。エンジンの気筒計の針は真っ赤を指している。オバーヒート寸前、速度は六百近い。操縦席の正面に映る敵の姿はぶつかるかのように、大きく広がって見える。
―殺れる―照準環すらのぞかず、操縦桿の上についている赤いボタンを強く押す。十二・七ミリの六つの火線が敵を砕く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ごおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん
「なっ」
消えた。私が放った弾道は、もはや全くなにもない空間を裂いていた。反射的に右を向く、点になる機体を、いやもう消えたといっていいそれは、唐突に、爆ぜて消え墜ちた。
ぼうと追っていく私の視線とともに、墜ちていく機体の破片は、海青の大地に飲み込まれ消えていった。