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海を渡る風  作者: 風羽洸海
二章 オラーフェン皇国
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ハルタシュとの出会い



 アトゥリナの予想に反して、小さなお客様達は翌日も、その翌日も通ってきた。もちろん全員ではなく、物語の筋を追える年齢の子だけだが、それでも四、五人ほどが同じ時間に集まるのだ。しかも驚いたことに、代金を用意してくる子までいた。銅貨一枚だとか、胡桃が数個だとか、そんな程度ではあったが。

 必ず来るとわかっているものを無視するわけにもいかないので、アトゥリナは他の時間帯にはよそで歌い、昼下がりになるといつもの場所に戻るようにした。

 子供達は異国の英雄譚に夢中で、遠慮容赦のない批評や疑問をぶつけてくれた。おかげでアトゥリナは、元の詩にはない、派手で面白おかしい挿話を勝手にでっち上げたり、悪役にはどんどん魔物や魔法を使わせたりと、嘘つき修行をするはめになった。

 カウロンに腰を据えて、早くもひと月。

 いつの間にやら彼もすっかり馴染みの歌い手となり、子供達はエンリルやラウシールの名を覚え、ごっこ遊びまで始めている。

「こんなに物語を変えてしまって、パッサケスが知ったら驚きと衝撃のあまり卒倒しそうだね。あるいは城壁から飛び降りるかも。異国で良かったよ」

 教育係の名を出して、アトゥリナはしみじみ言った。外は雨。薄暗い室内で寝台に腰かけ、五弦琴を丁寧に拭いている。

 そんなアトゥリナを見て、ビードは複雑な顔で別種の感慨に耽った。

「私はむしろ、殿下が思いのほか逞しくていらっしゃったことに驚いております」

「え、そうかい? つい一昨日まで不浄の虜だったのに」

 自分で言って、アトゥリナは苦笑いした。何がいけなかったのかひどく腹を壊してしまい、ほとんど丸二日、湯冷まししか飲めず便器に座りっぱなしだったのだ。同じものを食べたビードは平気だったので、彼の胃腸が弱いせいだろう。

 だがビードが言いたいのはそういうことではなかった。首を振り、真面目に続ける。

「あの時は注意が足らず、申し訳ありませんでした。……逞しいと申し上げたのは、お体のことではありません。殿下はこれまで一度も、状況を悲観して絶望なさいませんでしたね。それに、言葉は魔術で通じるにしても、何もかもデニスとは違いすぎるこの国で、怖気づきもされない。私は殿下をお守りすると誓っておりますが、正直に申し上げて、このひと月はむしろ逆に、殿下の明るさに守り助けられるばかりでした」

「ビード……」

 アトゥリナはそっと手を伸ばし、彼女の肩をさすってやった。

「すまない、君がつらい思いをしているなんて、今この時まで考えもしなかった」

 聞きようによっては冷たい言葉だが、ビードは無表情の顔を上げただけだった。アトゥリナはそれを予想していたので、小首を傾げて言い足す。

「だって、私はこうして君と一緒にいるだろう?」

 ここが何処で状況がどうであれ、二人一緒にいる、それだけで何もつらくはない――そうじゃないのかい、とまなざしで問いかける。ビードはふと微笑み、うなずいた。

「ええ、つらいことなどありません。異国だろうと異世だろうと、殿下のおそばにいられさえすれば、私は満足です。しかし先のことを考えると……私一人では力が足りないのではと、それが恐ろしくなるのです」

「先のこと、か」

 アトゥリナはぼんやりと繰り返し、なだめるようにビードの肩をぽんぽんと叩く。確かにそろそろ、先のことを考えなければならない時期だった。

 収入はほとんど横ばいながら、わずかずつ増えている。切りつめて暮らしている成果もあって、それなりの金額は貯まっていた。

「案内人を雇うのにどのくらいかかるか、それが問題だね。でも多分、きっと何とかなるよ。旅立ちこそ散々だったけれど、私も君も、生きてここにいる。ヒスティアよりも遥かに遠くて聞いたこともない国で、ラウシール様のことやデニスのことを伝えられているんだ。結果としては上々じゃないか。これからも大丈夫だよ」

 アトゥリナはにっこり笑い、さあ、と気合を入れて立ち上がった。

「そろそろ降りて、歌わないと。これからどうなるにしても、お金があって困ることはないからね」

 おどけて言い、五弦琴を持つ。ビードもうなずき、いつもの平静さで後に従った。

 階下の食堂に降りると常連客が何人か、待ってました、と声をかけてくれる。アトゥリナは笑って彼らに手を振り、壁際のいつもの場所に敷物を広げた。演奏を始める前に室内を見回し、客の顔ぶれを確認する。常連客の好みは既に覚えているので、いつも誰が来ているかを見てから演奏曲を決めるのだ。今日はその中に、初めての顔があった。

(いや、客じゃないのかな)

 年齢はおそらくアトゥリナと同じぐらいだろう。まだ少年だが、肩にかけた模様織の布でレクスデイル人だとわかる。落ち着いた雰囲気からは、何か用事があってこの場にいるのだと窺えた。

「王子様、いつものを頼むぜ、『夜明けの渚』!」

 常連客の一人が大声で一曲めを指定する。またそれかよ、と他の客が文句を言い、それよりあれだ、いやそれだ、と次々に題名を挙げ始めた。

「ご心配なく、今日はたくさん歌いますよ。それじゃとりあえず、いつもの曲から」

 アトゥリナは愛想よく笑い、弦を弾いた。体調を崩していたせいで、ここしばらく満足に歌えていなかったのだ。待っていてくれた客の要望には、なるたけ応えたかった。そうしておけば、馴染み客の足が遠のくことを防げて、宿の主への恩返しにもなる。

 一曲目を終え、拍手が鳴り止まない内にもう次の曲を始める。今ではすっかりアトゥリナも、大衆的な歌が得意になっていた。ところが、三曲目の前に指を休めたところで、思わぬ言葉が飛んできた。

「なあ、おまえの国の歌を聞かせてくれよ。エンリルって王様の出てくるやつ」

 ぎょっとなってアトゥリナが振り返ると、さきほど目に留まったあの少年だった。建国叙事詩は子供達にしか聞かせていないはずだが、どうして彼が知っているのだろうか。

 少年はざわつく食堂を横切ってアトゥリナの前まで来ると、すとんと床にしゃがんだ。

「面白そうな遊びをやってる子供がいたんで、誰から教わったのか訊いたんだ。西の果てから来た王子様だって?」

「王子ではないんですけどね」

 アトゥリナはすっかり定着してしまったあだ名に苦笑し、手を差し出した。

「はじめまして。私はアトゥリナです」

「ハルタシュだ。よろしくな」

 少年、ハルタシュは握手を返し、にやっとした。

「大事な右手を無用心に預けるなよ。今はおまえの歌が聞きたいから、何もしないけど」

 物騒なことを言われ、慌ててアトゥリナは手を振り払う。そういえばフェーレンが、レクスデイル人は気が荒いとか言っていなかったか。

 怯えたアトゥリナに、ハルタシュは小憎らしいほど朗らかに笑った。

「何もしないって言った後で慌てるなよ、遅いぞ。ほら、いいから、俺にもその偉い王様の話を聞かせてくれないか」

「長い歌ですし、ほかのお客さんには退屈じゃありませんか」

 むっとなってアトゥリナが反撃する。しかしハルタシュは軽く受け流した。

「子供が喜んで聞いてるんだぞ、大人が退屈なもんか。おまえだって御国自慢をしたいくせに。勿体つけないで、聞かせろって」

「……いいでしょう。後悔しますよ」

 アトゥリナは不吉に微笑み、五弦琴を改めて構え、姿勢をしゃんと正した。一呼吸で、すっと表情が消え、代わって遠い過去からの声を聞くかのように神がかった気配があらわれる。直前まで賑やかで陽気な曲を歌っていたのは別人か、と疑うほどの変化だった。

 ピィ……ン、ティン、シャラン……

 古めかしい和音が指先から零れ落ちる。微風に揺れる木の葉のように。――と思った瞬間、枝葉がざわめき、旋律の風が走り出した。草を揺らし、丘を登り下って、小川を越えて。遠く彼方まで、休む間もなく駆け抜けてゆく。

 ついに風は海へと飛び出し、歌の翼を乗せて大空へ舞い上がった。

 美しい古デニス語の響きが空気を震わせる。聴衆は度肝を抜かれ、呆然となった。

 一度として聞いたことのない言語であるのに、その詩は聞き手の心に直接、あらゆるものを送り込んできた。遠い異国の空気を、栄華を誇った帝国の輝きを、滅びゆく都の嘆きを。燃え上がる炎の熱さ、侵略者の手から滴る血の臭い、……そして、廃墟を照らす月光の寒々しさを。

 やがて分裂した帝国に、悪しき魔術師らの手が伸びる――、直前で、ぷつんと旋律が途切れた。はっと我に返ったハルタシュの前に、アトゥリナの微笑があった。

「まだ聴きたいですか?」

「おま……おまえ、今、何を」

 ハルタシュは咄嗟に言葉が出てこず、どもってしまう。アトゥリナは肩を竦めた。

「こんな場でお聞かせする歌ではないと、おわかり頂きたかっただけです」

「子供に聞かせる歌でもないだろう!」

 思わずハルタシュは噛み付くように怒鳴った。しかし相変わらずアトゥリナは愛想よくにこにこしたままだ。

「ええもちろん、子供達にはもっと短く簡単にしたものを聞かせていますよ。面白おかしく脚色して、言葉もわかりやすくして、ね」

「だったらそれを聞かせてくれりゃいいだろ!」

「嫌ですよ」

 柔らかな笑顔とは正反対の、取り付く島もない拒絶。まさかの対応にハルタシュが絶句する。そこへアトゥリナは追い討ちをかけた――やっぱり笑顔のままで。

「私の歌を楽しみにしてくれているご贔屓のお客様が大勢いるのに、なんだって今日会ったばかりのあなたを優先しなきゃならないんです? 握手しながら脅しをかけるような人を? 一昨日来やがれスットコドッコイですよ」

 ちなみに、一昨日云々のところは現地語である。酔漢の喧嘩を聞いて覚えたのだ。

 王子様の口から出るにはあまりに下品な罵倒語に、ビードが黙って眉間を押さえた。

 ハルタシュは何を言われたのか理解できず、しばし目を白黒させる。数呼吸してやっと彼が怒りを抱いた途端、見計らったように笑い声が飛んできた。

「あっはっは、だから言ったろ、ハルタシュ。王子様に失礼のないように、って」

「タハラハさん」

 おや、とアトゥリナは顔を上げて宿の戸口を見やった。雑貨屋の主は、客にちょいちょい挨拶しながら歩み寄り、爪先でハルタシュを小突いた。

「がさつな奴だが、悪気はないんだ。勘弁してやってくれな」

「お知り合いですか?」

「甥っ子だよ。時々、故郷から品物を届けに来るんだ。ちょうどいいから、あんたにも紹介しとこうと思って居場所を教えたんだが……おいハル、いつまで膨れてんだ」

「膨れてない」

 ハルタシュは不機嫌に言い返し、立ち上がった。タハラハは「馬鹿」とその頭をはたいて呆れる。

「そんな不貞腐れた態度で言うことか。悪かったな王子様。しかし、さっきの歌は凄かったじゃないか。通りにいても震えが来たぞ。初めてあんたの歌を聞いた時も驚いたが、ありゃまったく別格だな」

 初めて聞いた時も、と言われて、アトゥリナはようやく、ああ、と思い出した。詩と声の力だけが理由ではないのだ。むろん語り部としての伎倆に自信はあるが、ここでは翻訳呪文を介するため、デニスで言葉の通じる相手に歌う場合よりも、強い作用を及ぼしてしまう。だがそのことを説明したら、アトゥリナの歌は呪歌だとして忌避されてしまうだろう。彼は微笑んで、ただ礼を言った。

「ありがとうございます。この叙事詩を歌うのが、私の本来の務めですから」

「そうなのか。けど、あれがあんたの国の話ってことは、もしかして滅んじまったのか? あんた、それでこっちに流れ着いたのかい」

「まさか!」

 思わずアトゥリナは目を丸くし、次いで失笑した。

「いいえ、あれは前の時代の話です。滅ぼされ、ばらばらになった帝国を、一人の英雄が再び統一した……そして今のデニス帝国があるんですよ。私が流れ着いたのは、純然たる事故です」

「そんなら良かった。いや、良くないが、良かった」

 タハラハはほっとしてから慌てて言い繕う。朴訥な温かさがアトゥリナの胸に沁みた。ハルタシュの方はまだ不機嫌なままだったが、それでも好奇心が勝ったようで、会話に加わってきた。

「なぁおい、子供向けに変えた奴でいいから聞かせてくれよ。それだったら、ここで歌っても構わないだろ? それとも、そんっ――なに、長いのか?」

 長さを強調して言ったハルタシュに、アトゥリナは苦笑を返した。

「うんと短くして歌っても、十日ほどかかりましたかね。まあ、一回に聞かせられる内容が少ないというのもありますけど。食事をしながら聞くのなら、長大な物語よりも、気楽で心地良くて、いつどこから聞いても大丈夫な普通の歌の方が適しているでしょう?」

 そこまで言って、相手が未練がましい顔をしているのに気付く。どうやら単に絡むための口実ではなく、本当に異国の物語を聞きたかったらしい。アトゥリナは茶目っ気を出した。

「是非にというなら、特別にお聞かせしても構いませんよ。代価さえ支払って下されば」

「代価、って……いくらだ?」

「さあ、いくらにしましょうか。何日もあなた一人の相手をすることになりますから、その間の稼ぎが補償されるぐらいは頂かないと」

 途端にハルタシュは露骨に絶望的な顔をして、もういい、と言い捨てるなり立ち上がった。慌ててアトゥリナは言葉をつないだ。どうやら彼は短気な性質らしい。

「冗談ですよ、無茶な要求をするつもりはありません。ただ本当に長い話なんです。お聞かせしたいのは山々ですが、あなたにも都合があるでしょう」

 即座にハルタシュはくるりと向き直り、再びアトゥリナの前に座り込んだ。

「何日かはここに泊まる予定なんだ。帰る前に色々、頼まれものを仕入れないといけないからな。空いた時間に聞かせてくれよ」

「相談は後にしろよ、他の客の迷惑だぞ」

 タハラハが注意を促したので、おっと、とハルタシュは立ち上がる。

「すみません!」

 彼はこちらを見ている客達に大声で謝ると、アトゥリナにはひそっと、後でな、と念を押してからその場を離れた。

 調子を狂わされてしまったが、アトゥリナはこほんと咳払いし、また大衆的な曲を歌いだした。しかし客の方は皆、さきほどの叙事詩の衝撃が大きすぎて、いつもの雰囲気に戻らない。結局、なんとなく曖昧で落ち着かないままに、アトゥリナは演奏を切り上げた。一度客が入れ替わるまで待たないと、疲れ損になってしまう。

 五弦琴を置いてカウンターへ水をもらいに行くと、待ちかねていたハルタシュが早速、どうする、いつが良い、と食いついてきた。横でタハラハが呆れて頭を振った。

「おまえは昔っから、その手の物語が好きだなぁ。英雄の冒険とか、魔物との戦いとか。よく飽きないもんだ」

「いいじゃないか、聞いたこともない国の話なんだから、興味を持って当然だろ。それに子供を寝かしつけるための作り話じゃない、本当にあった出来事なんだぞ」

「婆様の昔話だって、全部が全部、作り話ってんじゃねえだろうよ」

「どうだか。なあ、アツ……なんだっけ、おまえのあの歌、本当の話なんだろ?」

 確認するハルタシュは真顔だ。アトゥリナは安易に肯えず、小首を傾げた。

「史実だと教わりますが、本当かどうかは、もう誰にも確かめようがありませんね。百年以上昔の話ですし、歴史は勝った側にとって都合の良いように記されるものだ、とラウシール様も言っていますから」

「何だその、ラーだかルーだかってのは」

 きょとんとしたタハラハに、横からハルタシュが得意げに教える。

「ラウシール。英雄を助けた、善い魔法使いさ」

「はぁ?」

 途端にタハラハは胡散くさげに顔をしかめ、アトゥリナに疑惑の目を向ける。彼の心情を察したアトゥリナは、肩を竦めて答えた。

「この国の『魔法使い』がどういうものなのか、私はよく知りません。ですが私の国では……魔法使いではなく魔術師と呼んでいますが、彼らはいたってまっとうな人々ですよ。魔術自体も怪しいものではなく、きちんとした理論に基づいた、一種の学問なんです」

「……と言われてもな」

 タハラハは困惑顔で頭を掻く。そして、あまりこの方面には近付きたくないとばかり、露骨に話題を変えた。

「まあどうでもいいさ、どうせ物語の中のことだし。それより王子様、ハルを紹介しとこうと思ったのはな、あんたの今後のことがあるからなんだ」

 どうでもいい、と言われてアトゥリナは落胆したが、強いて話を戻しはしなかった。居住まいを正し、タハラハと向かい合う。

「ここからずっと南下して香料半島まで行き、故郷に帰る船を探すこと……ですね」

「そうだ。やっぱり俺はむちゃだと思うんだがなぁ。けど、あんたがまだそのつもりでいるのなら、こいつに途中まで道案内させりゃいいと思ってな」

 タハラハは言って、甥を小突く。ハルタシュはぽかんと口を開けた。

「半島まで、って、正気か!?」

「最近あんまり自信がありませんが、多分ね」

 アトゥリナはおどけて答えた。目的地を言えば呆れられ、歌う内容についても疑われ。しかも彼の身分立場を保証するのは自身の他にビードだけ、とくれば、いささか自己認識も危うくなるというものだ。

 ハルタシュは信じられない様子でつくづくとアトゥリナを見つめ、何を思ったかため息をついた。

「まあ……道案内しろってんなら、テペシュまでは連れてってやるけど」

「テペシュ?」

「俺達の村だよ。ここから五日ほど南に行ったとこにある」

「けち臭いことを言わずに、もちょいと先まで案内してやれよ。だいたいテペシュじゃ、南に行く奴を探すのが大変だろうが」

 タハラハが口を出す。ハルタシュは肩を竦めた。

「家で用事を頼まれなきゃ、連れてってやれるけどさ。まだなんとも言えないだろ」

 どうやら彼も彼なりに仕事があるらしい。アトゥリナは物分かり良く頭を下げた。

「都合の良い所までで構いません。お世話になります」

「あ、いや、世話とかってほどじゃないし。いいよ、そんな堅苦しくすんなよ。王子様にとっちゃ普通でも、こっちはやりにくくてしょうがねえや」

 ハルタシュは照れくさそうに頭を掻く。アトゥリナは浮かびかけた微笑を堪え、真顔でふむとうなずいた。

「では、さっきのような罵詈雑言をもっと覚えた方が良さそうですね」

「俺に向かって言うんじゃなければな」

 ハルタシュは胡乱げな目で応じ、すぐに失笑する。アトゥリナも堪えきれなくなり、二人は一緒になって笑った。


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