Bランクスタート
「大丈夫か、アルス」
尻餅をついているアルスに声をかけ、手を差し伸べる。
アルスはその手を見て黙っている。
果てして、彼はこの手を取ってくれるのだろうか。
「ありがとうございます、エテリアさん」
意外にもアルスはすんなりと私の手を取った。
「一応聞きたいんですが……さっきの、あれは?」
「魔法……だな」
「そうですか……魔法……ですか……」
アルスは魔法と聞いて驚いてはいたが、私から逃げることも、私を闇物だと罵倒することもなく、私の目の前に立っている。
「ルナリアがいたら、きっと喜んでいたでしょうね」
「喜ぶ?」
「僕に一度だけ漏らしたことがあるんですよ。魔法だって、あったらあったできっと便利だし、実は欲しいとさえ思っていると」
「変わったお嬢さんだな。魔法は悪なんだろ?」
「ルナリアは、なんとも思ってなかったみたいです」
「だが、それはルナリアの話だ。お前はこんな私でも、一緒に旅をしたいのか?」
アルスは一度口を閉ざし、再び口を開いた。
「確かに驚きはしましたが、気持ちは変わりません。あなたのような強い人がいれば安心ですし、行動範囲も広がりますから」
「そうか。お前がそういうのであれば」
「ただ、自分で言うのもなんですけど、僕はルナリアの影響を受けた変わり者ですので、他の人の前では使わない方が……」
「それは痛いほどわかっているよ」
こちらの世界で目覚め、最初に世話になった村。
そこで何の気なしに魔法を使ったら殺されかけた。
それ以来、こうして魔法は隠して生きてきたんだからな。
「村長殿。闇物の掃討、完了いたしました」
「ほう! やってくれたか! これでこの村も安心だ! さあ、宴の準備をしなければ!」
「その前に一つ、相談があるのですが」
アルスを紹介し、事の経緯、村を出ていくつもりであることを伝えた。
「なるほど……私としては寂しいが、エテルナさんを引き止める権利はないし、引き止めるつもりもないよ」
「ありがとうございます、村長殿」
「私達の他にも、あなたを必要としている人が大勢いるはずだ。彼らの力になってやりなさい」
「それでは明日、この村を立とうと思います」
「じゃあ、今晩の宴は、討伐の感謝と送別会も合わせた、盛大なものにしなくてはな」
その夜、宴が始まった。
この村では最後の晩餐だ。
皆は私のために、教会からの施しものも振る舞ってくれた。
だが、味が合わないと断った。
なにせ、以前食べた時、魔法の調子が悪くなったからな。
「巣穴、潰したんだってな……」
フィリスが珍しく、しおらしい雰囲気で話しかけてきた。
「ああ、そうだな」
「少しは見直してやってもいい……だが、俺も負けちゃいねえからな」
「じゃあ、もっと強くなれ」
「う、うるせえな! それよりもだ。明日、街にあるギルドに行くぞ! 報酬は全部お前のもんだ!」
私がいなくなるとわかっても、フィリスは相も変わらずだな。
それはそうと、明日、ギルドとやらに行く、と言っていたが。
「アルス。ギルドがなんとか、というのはなんだ?」
「えっ! ギルドを知らないんですか!」
「まあ、色々と疎いものでな」
翌日、村人達に見送られ、初めてフィリスと一緒に街へ行った。
「こいつがこの依頼を完了したから、報酬はこいつに渡してくれ」
フィリスは、
『町外れで頻出する闇物の掃討:Aランク』
の依頼が書かれた木版を受付に渡した。
「それでは、冒険者登録証を出していただけますか?」
「それがこいつ、ギルドを知らなかったらしくてな。今から登録してもいいか?」
フィリスが珍しく仲介役になり、冒険者として登録することになった。
名前を書き、血を一滴垂らす。
アルスによれば、新たなギルドに来た時も血をたらし、登録証の検査が行われるらしい。
魔法であれば血を介しての相手の判別は可能だろうが、こちらの世界では魔法は悪だし、そもそもないはずだ。
何をどうやって確認しているんだか不思議ではあるが、渡された登録証のランクを見て、アルスとフィリスは声を上げた。
「はぁ! いきなりBランクだって!」
「Aランクをこなした実力があるとのことで、特例でBランクと認定いたしました」
フィリスの声がやたらにでかく、ギルドにいた全員が私を見た。
いいや、二度見した。
まあ、注目が集まるのには慣れている。
この見た目的に、街に出ればどうしても視線が集まるんだ。
それは、魔法を隠し、普通に生きる分には邪魔だった。
たが、これからは違う。
「このペンダントをつけた、ルナリア、という銀髪の少女を知ってるやつはいるか!」
ペンダントを掲げながら、冒険者達に問いかけた。
皆、私を怖がっているのか、怯えた小動物みたいに小刻みに頭を横に振っている。
「どうやら、誰も知らないらしい」
「そ、そうですね!」
なんだ、アルスまで狼狽えているじゃないか。
「どうした? 聞き込みはこうやってきたんだろ?」
「いやぁ、僕はEランカーですので……お聞きする、といった感じでしたね……」
「Eっていうのは、Bよりも上なのか?」
「あぁ、えっと、一番下です……」
「半年もやっていたお前がEで、今日始めた私がBということか?」
うんうんと頷くこいつはやはり貧弱だったようだ。
あれだけしっかりとした決意がありながら、それに動きが伴っていない。
「これから僕とパーティーを組むんですか?」
「なんだそのパーティーとは?」
「一緒に依頼をこなす冒険者仲間、その集団のことですよ」
「なぜ、集まらないといけないんだ?」
「いやぁ、それはだって、何かあった時に助けあえますし」
「今、私がお前と組んだとして、お前が私を助けてくれると?」
「えっと……それは、保証しかねます……」
アルスは苦笑いしている。
「ならば、パーティーは組まない。その代わり、お前を鍛え直す」
「いやいや、大丈夫ですって。ここまでEランカーでやってきた僕が保証しますよ」
手を前でバタバタさせて、なんだみっともない。
そこを保証してもらっても意味がないんだよ。
全くもって、意志があるのかないのか、よくわからんやつだな。
「鍛え直すことは決定事項だ。もう、観念しろ」
「わ、わかりましたよ……」
こうして、ルナリア捜しの二人旅が始まった。
現状、やるべきことは大きく二つ。
一つ、アルスを鍛え直し、戦えるようにすること。
二つ、依頼をこなし、ランクを上げ、国中に名を轟かせること。
名前とともに、人捜しをしていることが広まれば、情報は自然と向こうからやってくるはずだ。
そして、ルナリアとやらに会えたら聞くんだ。
ペンダントのことを。
ルミナスのことを。




