もう一つのペンダント
ここはどこだ?
「……ゃん、……ちゃん」
振り向いた先にいたのは、人の形をした白い光。
私に助けを求めるように、私を招くように手を広げている。
「ルミナス、ルミナスなのか!」
そう叫び、追いかけるも、二人の距離は縮むことなく、ついには光が消えていく。
……………。
……………………。
……………………………またこの夢か。
ペンダントが白い光を放ってからというもの、毎日この夢を見る。
その夢の中で、私は叫び、走り、追いかけている。
相手は顔も何もない、ただの人型の光なのに。
なのになぜ、あの名前が出てくるのか。
これは罪の意識がそうさせているのか。
……………
と、夢で悩んでいたところで解決はしない。
気持ちを切り替え、朝食を済ませ、村長殿に挨拶に行こう。
「おはようございます、村長殿」
「ああ、おはよう、エテルナさん」
「巣穴の場所はもう少しで判明すると思いますので、わかり次第、ただちに討伐に向かいます」
「いやぁ、本当にすまない。その礼は何もできないというのに」
「いいえ。この村で拾ってくださった、その御恩に報いているだけですから」
村長殿と朝の挨拶を交わしていると、その息子フィリスがやってきた。
「そんな大口叩いていいのか? そうやって引き伸ばして、ずっとタダで住ませてもらおうっていう魂胆じゃねえのか?」
「こら、フィリス! 言葉に気をつけなさい!」
「ちぇっ! 親父もこいつの味方なんだな! 俺にだって考えはあるんだ……今に見てろよ……」
フィリスとの関係は、この村で拾ってもらった時はまだよかった。
だが、村長殿に力を買ってもらい、この村を守るリーダーに任命されてからというもの、どうにも馬が合わない。
だからと言って、別に不都合があるわけでもなく、無視しているだけなのだが。
「いつも、息子がすまない」
「いいんですよ。余所者の私がチヤホヤされているのが嫌なんでしょう」
「それをさらに刺激することになりそうなんだが、街の方にある牧場に牛乳を買いに行こうと思っていてね。今日は、護衛として付いて来てもらえないだろうか?」
「もちろん大丈夫ですよ」
「ありがとう。馬車の準備が出来次第出発するから、よろしく頼むよ」
それから数日後、巣穴の場所が判明し、家で討伐の準備をしていると、ノックもせずに入ってくる者がいた。
この村の者は、あのフィリスを除き、皆ノックしてから入ってくる。
すぐに挨拶もしてくる。
だが、今来た奴はなんだ?
フィリスでさえ、入ってきたらうるさく何か言うものの、こいつは一言も発しないじゃないか。
「何か用か?」
これでも何も言わない。
敵意は感じられない。
ただ、ふらっと入って来ただけなのか?
「何か用なのか?」
「ああ、いえ……」
「用がないなら帰ってくれ。準備に忙しいんだ」
なんなんだ、こいつは。
声からして村の者ではないらしいが。
「あの、実は、捜している人がいるんです。名前はルナリア。銀色の髪に、このペンダントをつけている少女です」
どうやら、人捜しをしているやつだったようだ。
だが、どう考えても私は別人だろうに。
「そうか。それなら私は別人だな」
「ですが、あなたもこのペンダントをつけていると聞きました」
私のペンダントを知っている?
金目当てか?
いいや、それならこうして訊ねてはこない。
そもそも、ペンダントが同じなはずがない。
それはあり得ない話なんだ。
だが、万が一ということもある。
そう思い、テーブルに置かれたペンダントをかっさらった。
それは木彫りではあったが、形状は私のつけているペンダントと瓜二つだ。
こいつは一体何者だ?
ペンダントが白い光を放ってから数日後、タイミングを合わせたようにやってきたこいつは。
もしや、追手か?!
そう考えた瞬間に手が剣にのび、振り返ると同時に立ち上がり、見ず知らずの男に剣を突きつけていた。
男は見るからに弱そうなやつだった。
腰には長剣と短剣を差しているが、長剣は新品のようで、短剣だけが使い込まれている。
それに、こちらを見て怯えている。
少し、震えてもいるな。
「お前は誰だ。訪ねて来た者から名乗るのが、礼儀というものだろう」
「え、えっと、僕は、アルス、です」
「アルス。このペンダントのことをどこで知った」
「どこで、というか、そのペンダントをつけてる人と……幼馴染だったんです」
「お前の狙いは」
「狙いなんて何も。ただ、その人を捜してるだけです」
震えながらもこちらを見るその表情に、嘘偽りはないと見える。
こいつは、このペンダントをつけた幼馴染を捜しているだけなのか。
いや、それよりもだ。
もう一つのペンダントが、この世界にあったとでもいうのか??
「いきなりすまなかった。非礼をお詫びする」
剣をしまいながら、頭を下げた。
「私はエテリアだ」
「エテリアさん……」
「そのペンダントについて話を聞きたい」
「それは僕も同じです」
「……ということがあり、あなたに辿り着いたんです」
「確認なのだが、そのルナリアとやらが消えたのは、今から約9ヶ月前、ということでいいんだな?」
「はい。そのはずです」
ペンダントは、このレプリカの特徴と、聞いた色味などからして、私のつけているものと同じようだが、実際は別物の可能性が高い。
主たる理由は、そのルナリアとやらの顔が、私と全く違うということだ。
ともかく現物を見られない今、ペンダントの同異は不明だが、ルナリアとやらが消えたのが約9ヶ月前。
私がこの世界で目覚めたのと同じタイミングか、少なくとも時期は被っている。
「それで、その死者の海だったか。そこにルナリアは落ちたのだな?」
「はい」
「だが、話を聞くに、海に落ちた者は帰ってこられないらしいが、それでも彼女を捜し続ける理由はなんだ?」
「……それは」
「それは?」
「分かっては……いるんです。
彼女がどこかで生きているんじゃないか。
これは、ただの独りよがりな願望に過ぎないことは……。
もしかしたら、捜し続けているのだって、彼女のためじゃないかもしれない。
僕のせいで彼女がいなくなってしまった。
その罪の意識を、少しでも和らげようと思っているだけかもしれない……」
叱られている子供のように俯いていたアルスが、私を真っ直ぐ見た。
見た目は貧弱だが、その瞳の奥には何か強いものを感じた。
それはなんだ?
なぜ私は、それに惹かれているんだ?
「それでも、
どう考えても彼女が消えたのが事実であっても、
一人くらい奇跡を信じたっていいと思うんです。
だって、町のみんなは諦めてしまった。
その上、僕まで諦めてしまったら、そこで彼女は本当に死んでしまう。
でも、僕が信じていさえすれば、
それが願望に過ぎなくても、
ただの希望であったとしても、
彼女は生き続けることができるんです」
その言葉を聞いてわかった。
愛する者が消えようとも、諦めずに捜し続けるその強き心。
その心をこの男は持っていると。
私がそれに惹かれるのは、その心を私が持っていなかったからだと。
そんな男に、このペンダントを介して出会った。
これもまた宿命か。
贖罪の機会を与えよう、という天からのお告げか。
ならば、言うことは一つに決まっている。
「話はわかった。私も、そのルナリア捜しを手伝おう」
「えっ?」
「えっ、とはなんだ。えっ、とは」
「いや……この半年間捜し続けてきて、誰も手伝うなんて言ってくれなかったもので」
「じゃあ、私が旅のお供第一号だな。これで、ルナリアが生きているという希望は二倍になったわけだ」
「ホントにいいんですか?」
「私はいいが、村長殿に相談は必要だ。彼にも、この村にも、随分と世話になったからな」
「それでは今から相談に?」
「いいや。その前に、やるべき大きな仕事が残っている」




