謁見と頼み事
「お話はおいおいということで、まずは謁見を」
文官さんに催促されて入った謁見の間。
さすが王城というだけあり、中は立派なものだった。
広さはマリナウスの中央広場がすっぽり入りそうなほど広く、
天井からは神々しいシャンデリアがぶら下がり、
踏むのがもったいないくらい、綺麗な刺繍がほどこされた赤い絨毯が、部屋の奥まで真っ直ぐに伸びている。
部屋の奥には数段の階段があり、
その高くなっている場所の中央に玉座、陛下がいた。
だけど、部屋にいるのは文官さんに、私とリビウス、国王陛下、そのそばで仕えている一人だけなのはどうしてだろう?
今回はあの時とは違って、扉がちゃんと閉まり、文官さんの案内で部屋の中央まで進んだ。
そういえば、国王陛下と会うなんてもちろん初めてで、礼儀作法も何もわからない。
舐め回すように部屋を見てたけど、これって大丈夫だったのかな。
文官さんが陛下に頭を下げ、脇にはけると、陛下が玉座から立ち上がった。
陛下は、あの小さな城で面会したフォルティアとは、雰囲気がまるで違った。
偉そうな所作は何一つないし、表情は硬くも穏やかなのに、すごい存在感。
これが国王たる器を持った人のオーラなのね。
「まずは、フォルティアの非礼をお詫びする」
陛下は私達の前までくると深々と頭を下げた。
えっと……。
陛下が私達に頭を下げてる。
こういう時はどうしたら……。
記憶を遡ると、町長であるお父さんが、今の陛下のように頭を下げて謝っている場面を思い出した。
そうだ。
こうされた相手の人は、確かこう言っていたはず。
「頭をお上げください、陛下」
これであってる?
横にいるリビウスを見ると、彼は私以上にガチガチに緊張してた。
位は全然違うけど、町長であるお父さんをそばで見てきた私の方が、少しはこういった場に慣れてるということね。
「お詫びの印として、何か授けようと思っているのだが、希望するものはないだろうか?」
「欲しいものですか?」
陛下からの突然の申し出。
そんなことを急に言われても、すぐに思いつくはずがない。
こうなると元々決まってたなら、文官さんが先に言ってくれればよかったのに。
「何があったのかはわかりませんが、こうして私達は生きております。今は、それだけで十分です」
ひとまずこう言ってみたけど、これって陛下の言葉を否定したことになってるような……。
と思い、どうですか?と確かめるように、ちらり文官さんを見ると、彼は苦い顔をしてた。
玉座のそばに立ってる人はさらに苦い顔をしてた。
これは、完全に間違えたみたい。
じゃあ、えっと、えっと……。
「え、えっと……私はこの世界には疎いものですので、こちらの世界のことを知ってから、それから希望を申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なるほど。確かにその通りだな」
何か希望が浮かんだら文官さんに伝える、ということでなんとかこの場は収まり、陛下は玉座へ戻っていった。
ふぅ……。
なんだかどっと疲れちゃった。
さあ、これで終わりかな、
と思いきや、まだまだ続きがあるみたいで、陛下は玉座に腰を下ろすなりこういった。
「今日、お二人をこちらに呼んだのには他にも理由がある。それは、フォルティアの城で何があったのか、それを直接聞きたいということ、そして、ルナリア殿、あなたに頼みたいことがあるのだよ」
「私に、ですか?」
「まずは、城でのことを彼に話してもらいたいのだが、なに、そんなに緊張することはない。ここからは友人のように気楽に話そうではないか」
「陛下……それはさすがに……」
と、陛下の横に立ってる人が止めに入ったけど、
「問題ない。そのために人ばらいしたのだからな」
と陛下は言い切った。
この部屋に人が少ないのは、大勢に見られると緊張するだろうと、話しにくいだろうという、陛下の心遣いだったみたい。
「リビウス殿。話してもらってもいいかな?」
名指しされた彼は、急に起こされたみたいにビクンとしてたけど、その後、ちゃんと語りだした事の顛末はこういうことだった。
あの時、真っ白な光に包まれたのは、少なくともあの場全体だったらしい。
その白い光が収まった時には、ボロボロだったリビウスの傷は完治し、アンデッドは元の人間に戻っていたそうだ。
護衛達にも変化があって、白い光の前後で、全くの別人みたいな振る舞いをするようになり、それは使者も同様だったという。
もちろん、その場にいた全員が、何が起こったのか分からず慌てふためくも、気を失って倒れていた私を見て、急ぎ魚車を出し、このウビフォンスまで来た、ということらしい。
けど……あれ?
私が気を失ってるなら、わざわざここまで来なくたって、あの城で看病すればよかったんじゃない?
「ねえ、リビウス。なんでわざわざ、私をここまで運んだの?」
「それは、あの白い光を放ったのが、君だったからさ」
「え!? 誰かが助けに来てくれたと思ってた」
「違うよ。君こそが俺達の命の恩人なんだ」
「私が? ホントに?」
「そんな君が倒れて目覚める気配がなかった。だから、心配になった俺達は、この国で一番の環境で容体をみてもらおうと、わざわざここまで君を運んだんだ」
ここで、陛下が文官に何やら合図すると、文官は扉を叩いた。
扉が開き護衛とともに入ってきたのはあのフォルティア。
彼は手枷をされ、捕らえられていた。
「本当に申し訳ありませんでした。あの頃は、何かに取り憑かれたように、どうしても抑えられない何かに突き動かされていたんです」
フォルティアは陛下の隣まで連れて行かれ、大きく頭を下げた。
「此奴も、本来は勇敢で、強く、正義感に溢れたやつなのだ。上の地位に就ついても、戦いの前線に出るくらいにな」
陛下は擁護するように続けたけど、この人は私にとってはトラウマなの。
どうしても怖くて、母親にすがる子供みたいにリビウスの手を握ってた。
「ルナリア殿、大丈夫だよ。この手枷がある限り、此奴も悪さはできない」
聞くと、その手枷は、今では作れなくなった特別な魔道具らしく、これをつけられた人は魔法が使えなくなるという。
それなら、まあ、少しは安心してもいいかもね。
「それでだな。此奴を含め、護衛達も使者も、何かに取り憑かれていたようだったと話している。ここ数年、魔物が活発になっていることもあるし、そのことと何らかの関連があるのか、ないのか……」
ふむふむ。
こちらの世界は元の世界よりも危険がいっぱいみたい、
と話を聞いていて、気がついた。
フォルティアがつけられている手枷に見覚えがあった。
あったというよりも、実際につけられたことがあったような。
「一つよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
「あの時、私がつけられた手枷は、それと同じものだったのでしょうか?」
陛下は、フォルティアに目配せした。
「はい。その通りでございます」
「ですが、その手枷は魔法が使えなくなると……」
「そうだ。つまり、その白い光とやらは、これでは抑え切れないほどの力だったのか、魔法とは別種のものだったのか、ということになる。そこで、その力を見込んで、ルナリア殿に頼みがあるのだよ」
ここまでの話の流れを整理すると、
フォルティア達が何かに取り憑かれていたこと、
魔物がここ数年活発になっていること、
これらに何らかの関連があるのではと、陛下が頭を悩ましていること。
この流れ的に、頼みごとはこれらの解決しかないでしょうけど、私にできるとは到底思えない。
「頼みというのは、国境にある透明な壁を壊すことだ」
「透明な壁を壊す?」
なんの話?
今までの話の流れは?
全く見当違いな方向から頼みが飛んできた。




