見覚えのある顔
ここはどこだろう?
何かふかふかした温かいものに挟まれてる。
目を開けると、知らない天井が、いいえ、貴族が使っていそうなベッドの天蓋が見えた。
「おはよう、ルナリア」
横を見ると、リビウスがベッドそばの椅子に座ってた。
「おはよう、リビウス」
「心配させやがって。お目覚めが遅すぎるんだよ」
「寝てる間、ちゃんと見張っててくれたの?」
「ああ、当たり前だ。『見張っといてやるから、安心して寝ろ』と言ったのは俺だからな」
リビウスは今まで見せたことのない柔らかな表情を浮かべ、二人で小さく笑い合った。
「そうだった! ケガは! ケガは大丈夫なの!」
そうよ。
笑ってる場合じゃない。
あの時、彼はアンデッドに襲われて、私は何かの儀式をされそうになって。
それから、それから……。
「どこまで覚えてるんだ?」
「覚えてるのは、真っ白い光に包まれたことだけで、それからのことはさっぱり何も」
「やっぱり、そこまでしか覚えてないか」
「あの時、何があったの?」
「まあ、その話はおいおいするとして、怪我はあの瞬間に完治してたよ」
「あの瞬間って、真っ白い光に包まれた時?」
「まあ、落ち着けって。まずは、君が目覚めたことを伝えてくるから」
聞くと、私は四日間も寝てたみたい。
それくらい重症だったのかはわからないけど、寝るに寝たからか、食事がおいしかったからか、ベッドで安静にしてたら、目覚めた二日後にはすっかり元気になっていた。
「そうだった。それで、ここはどこなの? 立派なお城みたいなのはわかるけど」
話は元気になってからだと、ずっとお預けを食っていた疑問を早速ぶつけた。
「じゃあ、ちょっと立てるか? 見せた方が早いからな」
案内されたのは窓辺、そこから外に続くテラス。
ベッドから見える外の風景が青空だけだったから、もしや、とは思ってたけど、目の前に、いいえ、眼下に広がっていたのは大都市。
こっちの世界に来てから嫌なことばかりだったけど、そんなことを吹き飛ばしちゃうほど、この光景は圧巻だった。
青を基調とした屋根に、真っ白な壁の建物群。
今まで見たことのない大きな建物も何個もある。
それらが集まり大きな円を作り、その外には水の堀。
もちろん町の中にも至る所に水路が張り巡らされ、その中心地、高台にこのお城があるみたい。
「ここは立派な都市ね!」
元の世界でもこんな光景は見たことがない。
今すぐにでも下に降りて、街中を散策したい。
その気持ちを抑えるだけで精一杯なくらい、好奇心がはしゃいでる。
「ここは王都ウビフォンス。そこの城に、俺たちはいるってことさ」
「なら、このお城は王城ってこと?」
「そういうことだな」
リビウスも見るからに楽しげで、もうすっかり普通の青年の顔になってる。
「失礼いたします」
ノックされ、入ってきたのは細身のおじ様。
「お体の具合はいかがでしょうか?」
「おかげさまで、元気になりました」
「そうですか。それはよかった」
この人は誰だろう?
身なりと雰囲気からして、相当上の役職のようだけど。
「お目覚めのところ早速で申し訳ないのですが、国王陛下がお会いしたいとのことです」
「えっ、でも、こんな身なりじゃ」
「それは、ご心配には及びません」
というと、メイドさんが流れ込んできた。
それからは怒濤のごとく事が進んでいった。
風呂で頭の先から足の先まで洗われ、化粧をされ、上等なドレスで体を縛られた。
貴族が毎日こんなことをしてると思うと、貴族は私には向いてないみたいね。
それはリビウスも同様らしく、準備が終わって顔を合わせた時には、二人ともぐったりしてた。
身なりは整ったということで、文官だったらしい先程のおじ様の案内で、謁見の間へと向かった。
迷路みたいな廊下を進むに進み、やっと辿り着いたらしい謁見の間。
その扉の前、そこに続く廊下に、四人の衛兵らしき人が立っていた。
どこかで見たことあるような……。
でも、その彼らと対面するように立っている六人には、確実に見覚えがあった。
使者の護衛としてついてきた、私達にひどいことをしたあの護衛達だ。
「なんで、ここに……」
ここはまだあいつらの術中なの?
足が止まり、あの時のことが頭をよぎり、体が小刻みに震え出す。
「大丈夫だ。心配するな」
リビウスが私の肩に優しく手を置いた。
「あいつらがここまで君を運んだんだ。あんなことはもう金輪際しないし、なんなら、君に命を捧げる覚悟もあるんだとよ」
リビウスが「そうだよな?」と上から目線で訊ねると、どう考えてもリビウスよりも位の高そうな彼らが、「はい!」と答えるように敬礼した。
一体、これはどういう状況なの?
「あの六人の護衛以外にも、顔見知りがいるんじゃないか?」
「他の四人にも見覚えがあるような……でも、ホントに気がするっていう程度だけど」
「それは間違ってない。だってな、びっくりするかもしれないが、あいつらはあの時のアンデッドなんだよ」
びっくりするかもしれないが?
するに決まってる。
見た目はどこからどう見ても、こちらの世界でいう普通の人だし、あの血の気の引いた怪物が本当にこの人達なの?
そもそも、どうして人に戻ってるの?
頭の中がハテナだらけで、今すぐにでも爆発しそう。




