金色の少女
「心当たりはあるのじゃが、髪の色も、瞳の色も、髪の長さも、全て違うんじゃよ」
「というと?」
「金色の髪に、黄金色の瞳、髪は背中まで届くほど長くてな」
体から力が抜けるとともに、はぁー、と大きなため息が漏れた。
一喜一憂するとはこのことみたいだ。
今はまさ憂の真っ只中というところか。
「それでも……ペンダントは、これで間違いないと思うんじゃが……」
自分があまりに落胆していたせいか、彼にまで悲しい顔をさせてしまった。
いけない、いけない。
ペンダントは同じかもしれないんだ。
これだって、今の今まで得られなかった特大情報。
その点だけでも喜ぶべきじゃないか。
「その少女は今どこに?」
「町から西へと伸びる街道沿い、そこを道なりに進むと村がある。彼女の名前は忘れたが、そこにいるはずじゃよ」
「あなたはなぜ、彼女のことを知ってるんですか?」
「牛乳のことで、その村と交流があってな。その際に、護衛として彼女がついてきたんじゃよ」
「護衛として?」
「悪くは言いたくないが、あんたよりよっぽど強そうじゃったな」
何もなかったこの半年間を取り戻すように、この短時間で、手掛かりの人物像にその居場所までわかった。
今すぐにでも彼女に会いに行きたかったけど、こんな有益な情報をくれたんだ。
できることならなんでもしますと言って、自ら仕事を増やし、それが終わったら、最後にもう一度柵をチェックした。
それから、お世話になったことの感謝を述べ、早速その村に向かおうとすると、彼に呼び止められた。
「最後に一ついいかな?」
彼は、自分の子供でも見るような優しい眼差しをこちらに向けていた。
「親御さんはいるのかい?」
「まあ……いますけど、今はいないというか……」
「なら、捜している彼女は、大切な人かい?」
「はい。何よりも」
ルナリアが誰よりも大切なのは、昔も今も変わらぬ想いだ。
だけど、この気持ちを本人に伝える勇気を、僕は持ち合わせていなかった。
「そうか……わかった……」
彼は何かを確かめるように、目を閉じて何度もうなずいた。
「それじゃあ、達者でな。その彼女のためにも、決して、決して、死ぬんじゃないぞ」
彼は最後は笑顔で見送ってくれた。
こちらから彼の姿が見えなくなるまで、彼は通りに立ち、僕の背中を見守ってくれていた。
町から西へと伸びる街道をしばらく歩き、道が下り坂になるところで、行先に村が見えた。
ここが目的の村かな。
と思い、街道に視線を戻すと、さっきまでいなかったものがそこにいた。
背中に矢を受けたイノシシだ。
見るからにいきりたっており、こちらを睨むように立ちはだかり、後ろ足で地面を蹴っている。
反射的に短剣を抜いて構えていた。
構えたけど、ちょっと待てよ。
突っ込んでくる相手に短剣で合わせるなんて、自分にできたっけか?
なんて悠長に考えている間に、イノシシが走り出した。
がしかし、それと同時にイノシシの目に矢が刺さり、イノシシは力尽きて地面を滑っていた。
「大丈夫かい?」
街道沿いの森から現れた男性。
腰には剣を差し、手には弓を持っている。
「助けていただきありがとうございます」
「いいや、こちらが獲物を取り逃したせいだ。悪かったね」
話を聞くと、闇物のせいで居場所をなくした野生動物たちが、最近森の外によく出てくるらしく、さっきのイノシシもその一匹だという。
「お強いんですね」
「いいや、村にいる彼女に比べたら、お子ちゃまレベルだよ」
この人にそう言わせるほどの女性が村にいる。
となれば、思いつくのは一人しかいない。
「もしかして、金色の髪に、黄金色の瞳の?」
「なんだ、知り合いか?」
「いいえ。このペンダントをつけてる人を捜して旅してるんです」
と、ペンダントのレプリカを見せる。
「たしかに彼女がつけてるものと似ているな」
「容姿が違うので、おそらく別人だとは思うんですけど、何か手掛かりになればと思い、会いにきたんです」
彼は事情をくんでくれたのか、村に着くなり、彼女の家の場所を教えてくれた。
その家というのは石積みの小屋だったけど、見た目以上に大きく感じるのはなぜだろう。
別人とわかっていても、初めて手にした情報がそこで待っていると思うと、いやが上にも緊張は高まり、気づけば、ノックも忘れて無言で中に入っていた。
「何か用か?」
テーブルの向こう。
聞いていた通り、金髪で長髪の少女が、こちらに背を向けて座り、何やら荷物の整理をしていた。
「何か用なのか?」
「ああ、いえ……」
「用がないなら帰ってくれ。準備に忙しいんだ」
テーブルの上には、水筒に火打ち石、矢尻など。
遠くに狩りにでも行くような品がずらっと並んでいる。
「あの、実は、捜している人がいるんです。名前はルナリア。銀色の髪に、このペンダントをつけている少女です」
彼女の男まさりな口調、迫力のあるオーラに気圧されつつも、ペンダントのレプリカをテーブルの上に置いた。
「そうか。それなら私は別人だな」
と、彼女はペンダントを無視していたけど、
「ですが、あなたもこのペンダントをつけていると聞きました」
というと、ここで反応があった。
彼女はピタリと手を止めた。
こちらに背を向けたまま、ペンダントを盗むように掴み取り、無言になった。
次の瞬間、彼女は振り向きざまに立ち上がった。
その胸元では、銀色のペンダントが揺れ、
真っ直ぐこちらを見る瞳は、深みのある黄金色に輝き、
そして、自分の喉元には、鈍く光る剣先が向けられていた。




