初めての手がかり
ここは小さな町みたいだ。
冒険者ギルドはあるらしいけど、メイン通りは、端から端まで見通せるくらいしかない。
「登録証のご提示をお願いします」
初めての町、その冒険者ギルドで依頼を受けるには、冒険者登録証の検査が必ず必要だ。
この登録証は、名前とランクが印字されているだけの鉄のカードで、受付でこのカードを預け、血を一滴たらすと、受付の女性はそれらを持って裏に引っ込む。
そういえば、初めて登録する時も、今のように血を垂らしたっけ?
その血を使って本人かどうか照合する……なんてできるわけないか。
この登録証は簡単に偽造できそうなものだけど、幾人も挑んだあげく、すべて一発でバレたらしい。
偽造は死罪に値する大罪だし、今では誰も偽造しようとは考えなくなったそうだ。
「アルス様。登録証の確認が取れました」
登録証を受け取ると、受付の女性はさらに続けた。
「この町から西へと伸びる街道沿いでは、闇物関連の被害が頻発しておりますので、くれぐれもご注意くださいませ」
闇物の被害か。
ともあれ、これでこの町でも活動できる。
早速、ズラーと木版がかけられている掲示板をチェックする。
・街道の整備:Cランク
・行商の護衛:Cランク
・下水に出た闇物の退治:Dランク
・町外れで頻出する闇物の掃討:Aランク
などなど。
このAランクの依頼が闇物被害の中心地なのかな。
闇物の被害が頻発しているせいか、Eランクでもできそうな街道の整備が、Cランクまで跳ね上がっている。
となると、できそうなものは……町の中の清掃に、いつもの薬草採取くらい。
でも、そろそろ日が落ちてきそうだし、今からこなせる依頼はなさそうか。
今日は依頼を諦め、野宿場所を探そうと、町の西側ではなく東側へと向かった。
西側は闇物などで何やら物騒みたいだし。
町の東側、その辺縁近くまで行くと小さな牧場があった。
どこにも牛が見当たらないけど、夜に備えて牛舎に戻しているのかな?
それとも、この柵のせい?
牧場沿いに歩き、東に見える森を目指すものの、どうしても柵に目が行ってしまう。
これじゃダメだ。
縛りがゆるくて、今にも崩れそうな箇所もある。
気づけば立ち止まり、柵をチェックしている自分がいた。
「直せるのかね?」
柵を触っていると、ひとりの老人に声をかけられた。
「道具と材料があれば、直せますが……」
「よければ、直してもらえないかね。お代は今晩の食事でどうじゃ」
「いいですね。そのご依頼、引き受けましょう」
作業は明日でもいいと言われたけど、まだ日は落ちていない。
何が起こるかわからないんだ。
早めに直すに越したことはない。
と思い、早速作業に取りかかり、崩れかかっているところだけでなく、気になるところの修繕までしていたら、いつの間にかどっぷりと日が暮れていた。
その日の夜は、牧場主のご老人と一緒にテーブルを囲んだ。
柵を修理しただけにしては、ここ最近食べた中で一番豪華な食事だった。
「なぜ、見ず知らずの自分に声をかけてくれたんですか? しかも、食事まで」
食事を終え、皿を片付けながら聞いてみる。
自分で言うのもなんだけど、柵を触りながら、ぶつぶつと独り言をつぶやく人がいたら、どう見ても怪しいやつか、変人にしか見えないからね。
「食事は、柵を直してもらった礼として、当たり前のことをしただけじゃよ」
「なら、私に声をかけてくださった理由は?」
「君は冒険者じゃろ?」
「よくわかりましたね」
「そのボロボロの姿を見れば、それくらいわかるよ。しかも、ランクはDかEじゃろ」
「そこまでわかるとは、冒険者のお知り合いでもいるんですか?」
「君くらいの息子がおってな、こやつも冒険者なんじゃよ」
「息子さんは今どこに?」
「家を飛び出していったよ。とまあ、帰ってくることは、もうないじゃろうがな」
僕はまだ17歳。
彼はおそらく60は越えてる。
となれば、彼の息子さんと、今の時点で同い年とは考えにくい。
おそらく、息子さんが冒険者になった頃は、まだこの家にいて、
だけど、何かがあって、僕と同い年くらいの時に家を飛び出していき、
それっきり、一度も帰ってきてないんだろう。
「そうじゃ。もう夜も遅いし、今日はここに泊まっていくといい」
「それは申し訳ないですよ。元々、野宿する予定でしたので」
「ここいらは夜になると、闇物に野生動物まで出ることが多くてな。お前さんが野宿でもしたら、すぐにおっちんじまうわい」
結局、彼のご好意に甘え、今晩は牧場に泊まることになった。
案内されたのは、男物の服のある空き部屋。
その部屋が誰のものだったのかは、聞きづらかったし、聞くまでもないことだった。
昨晩は、久しぶりのちゃんとした部屋だったから、悪夢を見ることなくぐっすりと眠れた。
しかも、朝ごはん付き。
さすがにこれで、はいサヨナラ、は申し訳ないと思い、今は牧場の手伝いをしている。
「昨日は暗くてよく見えんかったが、柵が綺麗に直っとる。あの短期間でやるとは、惚れ惚れする腕前……」
「ところで、お聞きしたいことがあるんですが」
褒められる腕前なんかじゃないと、被せ気味に話し出してまった。
「なんじゃ?」
「これと似たペンダントをつけた、銀髪の少女を知りませんか。名前はルナリアと言います」
昨晩は、息子さんの話で切り出すタイミングを逸し、疲れていてすぐに寝てしまったせいで、すっかり本題を聞きそびれていた。
「銀髪の、少女なんじゃよな?」
「そうです。それと、瞳は白銀で、髪の長さは肩くらいです」
「ちょっと、手に取って見てもいいかな?」
この半年間の誰よりも、念入りにペンダントを見てくれている。
もしかしたら何か知ってるのかも。
それとも、ただ目が悪いだけか?
「このペンダントと同じ、とは断定できんが、似たものなら見たことがある」
「ホントですか!」
「実際はこんな木彫りじゃなくて、銀色ではないかね?」
「その通りです!」
「このペンダントをつけた少女なら、たしかに心当たりはある」
「ずっと彼女を捜してたんです! 彼女は! 彼女は今どこに!」
「話をちゃんと聞きなさい」
落ち着けというように、ゆっくりとペンダントを返された。




