2021年11月30日放送 フラワーラジオ ポストメリディアン火曜日 八巻和行の七転び八巻 妄想【愛の劇場】#12 夢
サクソフォン奏者八巻和行さんのラジオ番組
こうのすFM フラワーラジオ
フラワーラジオ ポストメリディアン火曜日(午後4時~午後6時)
八巻和行の七転び八巻
というラジオ番組の投稿コーナー
妄想【愛の劇場】
毎週パーソナリティ八巻さんから出題される【作品のテーマ】を小説風に書いた作品を投稿するコーナー。
小説の書き方を知らないシロウトが投稿コーナーに参加。
そのコーナーに投稿した作品をこちらに投稿しています。
妄想【愛の劇場】のコーナーで、絶賛!妄想仲間を募集中!!
こんな感じで大丈夫なので、コーナー投稿に興味がある人がいてくれると嬉しいです!
《番組への参加方法》
①フラワーラジオが聴けるように、ListenRadioのアプリをダウンロード
フラワーラジオを選局して、お気に入り登録
②パーソナリティ八巻さんのX(旧Twitter)をフォロー
③毎週日曜日の夜に、八巻さんのX(旧Twitter)から【作品のテーマ】が発表
④八巻さんのX(旧Twitter)のダイレクトメールから投稿
※番組放送当日の火曜日午後6時頃までに投稿できれば、コーナーの時間に間に合います。
※何故か八巻さんが初見で読むルールのようなので、漢字には「ふりがな」をふって下さい。
小説の書き方を意識しながら文字おこしをしています。
文章はできるだけ、投稿当時のままにしています。
言葉が二重になるのが気になるところは、手直しをしています。
サイト投稿回数 第13回目の今回は………
2021年11月30日放送。
妄想【愛の劇場】#12 夢
奏と八巻シリーズの第十二回目
八巻は国際空港の出口から駐車場へと歩みを進めていた。
一ヶ月振りの日本。ロサンゼルスへ仕事で飛んでいた八巻は、久し振りの日本の大地に懐かしさを覚えた。
ここ数日、恋人の奏とは連絡がとれなくなっていた。
メールは既読になるものの、返信速度と頻度が徐々に減り、その内返信さえなくなってしまった。
一体どうしたのだろうか。奏は無事なのか。
八巻はスマートフォンを取り出し、歩きながら奏へと電話をかける。しかし、出ない。
八巻はやきもきしながら、何度も奏へとコールを続ける。
車に乗り込むが八巻は自宅マンションへと向かわずに、奏のマンションへと向かう事にした。
車を運転しながら、八巻はハンドフリーフォンで、何度も何度も奏へのコールを忘れない。
海と陸を繋げる白く長い橋を渡りきった辺りで、奏が八巻のコールに応えた。
「奏っ!どうしたんだ?」
八巻の問いに、奏は静かに答えた。
「八巻くん、話があるの」
「俺もある!奏に話したい事がある!!」
奏と会える。話ができる。
その思いが先走り、受話口の奏の感情がいつもよりも落ち着きを持っている事に、八巻は気が付かなかった。
奏から指定された待ち合わせ場所は、都心にあるこじんまりとした喫茶店だった。
八巻は到着すると、店内に居るはずの奏の姿を探す。
いつもなら八巻の姿を見付けた奏は、満面の笑みで右手を大きく振りながら八巻を迎え入れてくれるのだが、今日は様子が違う。
喫茶店の入り口に対して背を向けている奏に、八巻は声をかけた。それと同時に奏の隣に居る男が目に入った。
八巻が奏に男の存在を問う前に、奏は椅子から立ち上がり、紹介を始めた。
「八巻くんこの方、五郎さん」
奏に五郎と呼ばれた男は、スラリとしていて手足が長く、慣れたようにスーツを着こなしている。髪は短く、男の清潔感を印象付ける。
五郎はスッと立ち上がった。
「初めまして。どうぞ、お座り下さい」
耳触りの良いバリトンの声音で、八巻をテーブルを挟むようにして自分の前に座るように促した。
八巻はその言葉に抗い、奏の前に腰をおろした。
八巻が座ったところを確認した奏は、目の前のオレンジジュースを一気に飲み干した。
そして、意を決したように話し始めた。
一ヶ月前。
八巻から理不尽な感情をぶつけられた奏は、車から降りたあと、雨が降る中をひとりで歩いていた。
頭の中でも、心の中でも整理しきれない、どうにもならない感情を押し出すように、溢れ出した涙を止める事もままならず、傘で顔を隠しながら、ただ雨の降る中を歩いていた。
「大丈夫ですか?」
その時、不意に声をかけてきたのが五郎だった。
上下濃紺のジャージ姿に、緑色のビニル傘。左手に持つコンビニ袋がいささか雨に濡れている。
「大丈夫ですッ!」
奏は、自分が涙を流しながら歩いている事が恥ずかしくなり、とっさに涙を手で拭いながら精一杯の笑顔を見せた。
奏のその様子に、五郎は微笑んだ。
「ラーメンが食べたいんだけど、良かったら付き合ってくれる?」
突然の誘いに訝しげながらも、奏は今の気持ちが晴れるなら、知らない男について行っても良い。どうなっても良い。そんな荒んだ気持ちで、五郎の誘いにのる事にした。
五郎が奏を連れて行ったのは、ファンシーなラーメンショップだった。
「さあ、中に入ろう!」
呆気にとられる奏を五郎は無邪気にエスコートする。
「このラーメン屋を見付けてから、ずっと気になっていたんだけど、オジサンひとりでは入りづらくてね」
満面の笑顔で話す五郎の姿が、奏には今までにない心地良さを感じた。
ふたりで温かいラーメンを食べながら、奏は今日あった八巻との事を五郎に話していた。
五郎はニコニコしながら奏の話を聞いている。
奏の話を聞き終えた五郎は、優しく微笑みながら言った。
「温かいラーメンってさあ、嫌な事があっても気持ちを癒やしてくれるよね」
奏には五郎の全てが、初めての感覚だった。
八巻といた時には、こういう包まれる様な感覚があっただろうか。
奏はまだ、この時には五郎の温かさに惹かれている自分に気が付いていなかった。
しかし、それに気が付く事に時間はかからなかった。
話を聞き終わり、八巻は深い嫉妬と落胆を覚えた。
奏の心に自分が存在しない現実に、目を向けたくなかった。
八巻は振られたのだ。
五郎にはあって、自分には無いものとは何なのか。
今の八巻には何も見付けることができない。
八巻には、自分が五郎よりも劣っているところが分からない。
「八巻くん、お仕事忙しいってよく言うでしょう?そういえば、私、八巻くんのお仕事ちゃんと知らないなって。教えてもらえてないなって……」
奏は悲しそうに八巻を見つめて、つぶやくように言った。
「サックス吹いてるのは、知っている。でも、作品は?八巻くんがサックスを演奏している色々なCDは出てるみたいだけど、八巻くんの名前をそういうCDで見たことがない……」
八巻は言葉を失った。
八巻には、自分名義の作品が無い。
いわゆる影武者の様な立場の演奏者だ。
つまり、サックスを吹いているのは自分だが自分ではない。他人なのだ。
「奏、それと奏への想いは別だろ?」
「パパに何て紹介したらいいの?」
八巻の目を真っ直ぐ見つめた奏は、ハッキリとした言葉で言った。
「八巻くんは、何者なの?」
八巻は目を覚ました。
頭の中がぼんやりする。
奏の言葉が脳裏から離れない。
「八巻くんは何者なの?……か」
八巻はスマートフォンを手にしようと、枕元に手をのばすが、いつもあるはずの枕元にスマートフォンがない。
八巻は慌てて飛び起きる。
視界に入る風景に違和感を感じた。
四畳半の畳部屋。
外干しもままならない、潰れた布団。
手元には握りしめた、二つ折りのiモード。
八巻は長い間、夢を見ていたのだろうか。
そして、ふと思った。
「俺は何者だ……?」
その問いには誰も答えない。
その答えを知っているのは、八巻自身だから。
ありがとうございました。
次回もラジオ番組の投稿コーナー
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妄想【愛の劇場】#14「絵本」
※2021年12月7日放送 #13「焼き芋」
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