汝、何を願うか2
「よく来たな」
白いゲートを通る時、あまりにも眩くて前が見えなくなった。
くらんだ目を何回かパチパチとまばたきして、ようやく慣れてくると目の前に巨大な目があった。
目だけでドラゴンよりも大きい。
十九階で空にあった目よりもさらに大きいのではないかと思うほどで、まるで自分がちっぽけな存在になってしまったかのようだと圭は感じた。
宇宙のような場所にいる。
黒くて暗いのだけど、うっすらと光があるように奥行きが見える。
キラキラと星があって、気づいてみたら地面に立っているような感覚もない。
「私は◽︎◽︎◽︎◽︎」
「……ん?」
何かを言った。
しかしそれなんと言ったのか圭には聞き取れなかった。
「私はこのゲームを始めた三体の神の一つ。いくつもの世界を保有する偉大な存在である」
不思議なもので、頭の中に声が響く。
巨大な瞳を見つめているとそのまま吸い込まれてしまいそうな気分になる。
「まさか、こんなふうにクリアする原住民が現れるとは思いもしなかった。だが、約束は約束。一つだけ願いを叶えてやろう」
そもそも塔を登ってもゲームのクリアではない。
塔を登っていって何ができるのかというと、願いを叶えてもらえるのだ。
その願いとしてゲームの終わりを願うと終わらせられるから塔を攻略していた。
「汝は何を望む? 世界の王になるか? お前が望めば何もかも手に入れることができる。金も女も、全てだ。あるいは神になるか? このゲームに参加することができる。気に入った者には力を与え、気に入らなければただ侵略してもいい」
目はわずかに目を細めた。
「神になれば死を恐れることはなくなる。気が乗らねばただゲームを見ていればいい。あるいは……世界の浄化を望むか? ゲームを終わりにして、お前たちは戦いのない生活を取り戻す」
ぼんやりとした頭に目の声が染み入るようだった。
「……ゲームを終わらせたらどうなる?」
ゲームを終わらせる。
ただそのことのみを願ってきた。
しかし、ふとゲームが終わった後のことが気になった。
「元の生活に戻る……のか?」
ゲームが終わってどうなるのか、よく分からない。
今まではゲームさえ終わったらゲームが始まる前のような生活になるのだと思っていた。
けれども、ゲームが始まる前の生活とはなんなのかと疑問が出てきた。
もはやゲームが始まって何十年も経っている。
圭はゲームのない時代の生活のことなんて体験したこともなく、誰かが語る話の中でしか聞いたことがない。
ゲームがなくなった後の世界とはなんだ。
「元とはなんだ? ただゲームはなくなる。ゲートも塔もモンスターもいなくなり、お前の新たな生活が始まる」
「ゲームで死んだ人は? 壊れた町や覚醒者はどうなる?」
「死人は生き返らない。壊れた町は元に戻らない。お前らが直すしかない。覚醒者……それもそのまま残る。ただゲームだけが無くなる」
「ゲームだけが……無くなる…………」
ゲームなき後の世界。
圭にはそれが想像できなかった。
モンスターがいなくなってゲートも出なくなり、世界はとりあえず前に進み出すのだろうか。
「キューちゃんや塔の住人、それにガルーたちはどうなるんだ?」
圭の周りにはこの世界の人以外にも異世界の存在がいる。
「消える。彼らは再びゲームの一員として我々を楽しませてくれるだろう」
「全部……記憶も消されて、また戦わされるのか?」
「そうだな」
「そんな……」
ゲームは終わらせなければならない。
じゃないと世界が滅ぶ。
これは確実なことだ。
しかしその先のことをあまりにも考えてこなかった。
モンスターがいなくなれば確かに世界は平和になるだろう。
だが死んだ人は帰ってこない。
力を持ったままの覚醒者はどうなっていく。
他にもすでに魔力というエネルギーは世界に対して新たな技術をもたらしている。
モンスターがいなくなって魔石が手に入らねばそうした技術は無意味なものとなってしまうのだろうか。
そして、今圭の心を揺らしているのは、異世界の存在たちだった。
エーランドを始めとしたガルーたちやカルキアンたち異世界人、クロノアやメルシリアたち、そしてキューちゃんなどの塔の住人、さらにはフィーネだってゲームによる異世界の存在である。
それだけじゃない。
人として関わることはなかったが、これまでクリアしてきたゲートや塔の世界で本来とは違う良い終わりを迎えたものだってある。
「ゲームが終わると……全部無くなる?」
フィーネも再びシークレットとして、誰にも見つからない場所でずっと石のメイド姿で待っていることになるかもしれない。
クロノアたち十一階の住人は終わらぬ滅びを繰り返し、クロノアはまた一人で苦悩する。
ガルーたちは吸血鬼に負け、カルキアンたちは体に宿した毒で吸血鬼を道連れにして全てが滅んでしまう。
キューちゃんはまた親と離れ離れになって違う階で助け求めを続ける。
「どうした? 汝の願いはなんだ? ゲームを終わらせることか?」
ゲームを終わらせることは圭たちの悲願である。
だが、その先にあるのものはみんなにとっての幸せなのだろうか。
「さあ、言え。お前の望みを。汝の願いはなんだ?」
圭は必死に考える。
誰にとっても良いエンディングとはなんなのか。
きっと、何かの方法があるはずだ。
これまでも、必死に考えて、どうにかしてきた。
「……………………俺の、願いは…………」




