汝、何を願うか1
「……みんなは…………」
動いているのは圭しかいない。
みんな北条にやられてしまった。
「まだ……間に合うかもしれない……」
圭は亜空間の収納袋を取り出す。
その中から瓶を一つ手に取る。
薄いブルーの液体が入った瓶は、圭の懐中時計と同じく十一階で手に入れたものだった。
「これなら……」
瓶の中に入っているのは時の加護が込められたポーション。
普通のポーションではなく、時を戻して怪我を治してくれるという代物だ。
人を死から戻してくれるかは分からない。
しかしまだ希望はある。
「カレン……」
圭の近くに転がっているのはカレンだった。
高い防御力と再生力を持つカレンですら北条の攻撃には耐えきれなかった。
「なっ……」
ポーションの蓋を開ける圭の上では目が次々と消えていく。
まばゆい光を感じて振り向くとそこにゲートがあった。
ゲートといえば青白く光るものがほとんどである。
しかし圭の後ろに現れた巨大なゲートは真っ白な色をしていた。
「まずはみんなが優先だ……」
ゲートはともかく、みんなのことが先である。
圭はポーションを慎重にカレンに振りかける。
「効果は……ありそうだな」
ポーションをかけられたカレンの体が淡く光る。
治ってるのかどうかは見た目には分かりにくいものの、何かの効果を発揮していることは間違いなかった。
「他のみんなにも……あれ?」
効果がありそうなら他のみんなにも早くポーションを、と思った圭は気がついた。
「ゲートが小さくなってる……」
ゲートが徐々に縮んでいる。
割とペースが早く、呆然と眺める間にもゲートは確実に小さくなっていた。
「時間制限がある……のか?」
血が足りなくてうまく回らない頭で圭は考える。
このゲートは何のゲートなのか。
次へのゲートだろうか、それとも十八階や外へのゲートか。
このまま小さくなっていくと閉じてしまうのだろうか、あるいは普通のサイズになったら止まるのかもしれない。
小さくなっていって消えたらどうなる。
次に行けなくなる、帰れなくなるということがあるのか。
圭のみなら行ける。
だがそうするとみんなはどうなる。
みんなにポーションを振りかけて、治るのを待てるか。
せめてポーションだけでもかけられるのか。
「くそっ……!」
考えがまとまらない。
そうしている間にゲートはもう半分ほどの大きさになってしまった。
『ゲートに入れ。チャンスはもう来ない』
迷う圭の目の前に表示が現れる。
ゲートに入ることを促す短い文言が書いてある。
「進まなきゃ……いけないんだな」
何者が寄越したメッセージかは知らないが、このゲートは消えたら二度と戻らないのだと圭は感じた。
「……頼む…………来てくれ、キューちゃん!」
圭はキューちゃんを呼び出そうとする。
決して忘れていたわけではない。
北条との戦いの中でも、薫に治療されている間にキューちゃんを呼ぼうとした。
しかしキューちゃんを呼び出すことはできなかったのだ。
『だららららーん!』
「キューちゃん!」
戦闘中は何回か試しても呼び出せなかったが、今回はキューちゃんが呼び出せた。
ある種の賭けだった。
だけどキューちゃんを呼び出すことができて、圭はほんの少し安心する。
『どわーっ!? みんな!? えっ!? どういうこと!?』
ようやく出番かと呼び出されてみたら圭以外が全滅している。
キューちゃんはどういうことなのだと困惑する。
「キューちゃん、聞いてくれ。俺はあのゲートの先に行かなきゃいけない」
『み、みんなは……?』
「カレンがそのうち目を覚ますと思う」
カレンの指先がピクリと動いたのを圭は見逃さなかった。
多分近いうちに目を覚ます。
「カレンが起きたらこれをみんなにかけるように言ってくれ」
『う、うん』
本当なら圭がかけて回りたいが、ゲートの収縮が早い。
カレンが目を覚ますことに希望を託して、圭は先に進むことにした。
何をしたらいいのかも分からないだろうからキューちゃんに伝言を頼む。
「俺は戻ってくるから……頼んだぞ」
悲壮な決意にも見えて、キューちゃんは何も言えなかった。
圭は血が足りない体を引きずって白いゲートに向かう。
ゲートの目の前に立つ。
巨大なゲートだったのに、いつの間にか普通のゲートほどの大きさしかなくなっている。
『絶対……絶対帰ってきてよ!』
背中にキューちゃんの泣きそうな声が聞こえてくるが、圭は振り返らない。
手を伸ばし、白いゲートに触れようとする。
指先がゲートの中に飲み込まれていく。
「いくぞ……」
圭は一度大きく息を吐き出す。
白いゲートの中に足を踏み出す。
圭を飲み込んだ白いゲートは、圭が入ってから程なくして小さくなって消えてしまった。
『アオーーーーン!』
キューちゃんは吠える。
圭の無事を祈って。
何となく、しばらく会えないんじゃないかという気もしていたのだった。
「ん……あれ? 何が……」
『カレン! 起きた?』
「キューちゃん? 何が起きてるんだ……?」
『早く起きて!』
カレンが目を覚ました。
しかしもうそこには圭はいないのであった。
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