最後の戦い1
「とうとうここまで来てしまったのか……」
十八階でゲートに吸い込まれた圭たちは、ゲートから吐き出された。
勢いよく吐き出されたために多少体は痛む。
しかしただちょっと体を打ちつけただけで済んだ。
体を起こしてみると、そこは知らない場所だった。
広いプラネタリウムのように空が半球状だとなんとなく分かる。
ただ空に広がっているのは宇宙ではなく、目であった。
大小様々な目が圭たちのことを見下ろし、見つめている。
下は真っ白な地面がどこまでも伸びている。
そしてそこに一人の男が立っていた。
「北条勝利……!」
「なんでこんなところに?」
摩訶不思議な世界に佇んでいたのは北条勝利だった。
人類の裏切り者。
嫌疑がかけられて行方不明になっていたはずの北条がこんなところにいて、圭たちは驚きを隠せない。
「そのセリフはこちらも同じものを言いたいものだ……このゲームを終わらせようとしているのが、まさか君たちだとはね」
感情の読めない顔をした北条は少し眉をひそめる。
「いや、言われてみればそうかもしれないな。出会った時の君たちは確かに弱いはずだった。神の恩寵少なくてレベルも才能低い覚醒者だと思っていた。だが太羽島のゲート攻略にも参加するほどに強くなっていた……よく考えればおかしい」
小さな声でのつぶやきだが、周りは音もなく静かなので圭たちにも北条の声はよく聞こえていた。
「俺の方も色々と切羽詰まっていたから……気づかなかった。気づいていたら…………早めに潰していたものを」
「……あんたは一体、どっち側なんだ?」
圭は北条のことを睨みつける。
北条が人類の裏切り者として、ゲームにおいて敵対する神の側についているとは聞いた。
ただそれを北条の口から直接聞いたことはない。
北条が人を襲っているかのような疑いもあるが、疑いをかけられた直後に北条は姿を消してしまった。
いまだに塔の外では、北条の帰りを待っている人や北条が希望であると思っている人もいる。
何かの事情があって塔に逃げ込んだり、あるいは北条が塔を攻略しようとしていた可能性もほんのわずかだが残されている。
「…………もう知っているのだろう?」
「細かくは知らない……ただあんたがこの世界を裏切っていることは聞いた」
「そうか。なら少しだけ……昔話をしてやろう」
少し寂しげに北条は笑った。
「この世界にゲートとモンスターが現れた。当時若かった男は覚醒したのだが、その力は今でいえば……せいぜいE級といったところだろう」
まだ暗黒竜との戦いの疲労は残っている。
北条が何かを語ってくれるのなら多少は体を休めることができる。
空に広がる目は不満そうに細められたりしているが、北条は気にする様子もなかった。
「男には付き合っている彼女がいた。そして、モンスターが出始めた頃に……妊娠が発覚する」
男、と特定せずに言っているものの、それが誰なのかは圭にも分かった。
「E級程度の力では他の人どころか、彼女すら守ることはできない。避難所が襲われ、男は死にかけた。そんな時だった。声が聞こえたのだ」
ゆっくりと語る北条はどこか遠くを見ている。
隙だらけなのだけど、北条に敵意も感じられず攻撃する気にもならない。
とりあえず話を聞いてみようとは思った。
「力が欲しいか……なんてありきたりな誘い文句だが、男は彼女とお腹の子を守るために誘いに応じた。男は得た力で彼女を守り、そして他の人も守った。英雄と呼ばれることもあった。そして重たい期待をかけるようになった。けれど……力などタダで手に入られるものではない」
北条はグッと拳を握りしめる。
「男が得た力には代償があった。力のためには、神の才能が必要だった。神の才能を持つものから……才能を奪い取り、力にしてしまう必要があったのだ」
「だから、人を襲っていたんですね」
「力が尽きると、男は死んでしまう。それに力を得続けなければ発揮できる力にも限界が訪れる。男は…………化け物になるしかなかった」
北条が神に届く才能の持ち主を襲っていた理由は自らの力、そして命を維持するためだった。
「時折男に力を与えた神から、神の才能を持つ人間の情報が送られてくる。男は生きるため、そして英雄であり続けるために相手から才能を奪い去る……」
時に北条は失踪とまでいかなくも数日連絡が取れなくなることがあるという。
それは神に届く才能の持ち主を見つけ出し、殺していたのだった。
「だがそんな日も永遠には続かない。この戦いの、このゲームの終わりが見えてきてしまった。俺は選択を迫られた。この世界か、それとも……別の世界か」
北条に力を与えた神はこの世界を滅ぼそうとしている神だ。
ゲームが終わりに近づいて、何もしないはずがない。
北条は選択を迫られる。
これまで様々な世界の終末を圭たちは見てきた。
その中には自らの世界を捨てて、他の世界の神についた存在もいた。
少し前に倒した暗黒竜なんかがそうである。
こうした完全な裏切りの誘いを北条は受けていた。




