十九階へ
「生きてたら文句の一つでも言ったんだけどねぇ」
「死んだやつにキスすんなって言えないもんな」
みんなで空を見上げる。
圭へのキスという衝撃的なことはあったものの、死んでしまったら文句も言えないし怒れない。
若干の不満はあるけれど、飲み込むしかない。
「とりあえず……十八階は攻略できたな。次は十九階……また未知の世界か」
神の妨害もあるのか、一つの階の攻略がだいぶ長くなってしまっている。
事前の情報もなく、全く何も知らないところから攻略していかねばならないので負担も大きい。
十八階を攻略できたということは嬉しいものの、先を思えば気が重い。
エクリスのこともあるし、素直に喜びきれないところがある。
「ゲートの位置だけ確認して、一回外に出ようか」
暗黒竜との戦いで消耗している。
すぐに十九階に行きたい気持ちはあるが、ここはしっかりと休むべき。
次のゲートを探し回るのは面倒なので、先に探してしまおうと圭は考えた。
「いや、ゲートを探す必要はなさそうだ」
「んー、あっ、本当だ」
パッと見たところ山の頂上にゲートはない。
と思っていたら暗黒竜の死体の後ろに隠れていた。
十七階へのゲートから山は遠いが、わかりやすい場所に出てきてくれたのは助かった。
「じゃあ帰るか。暗黒竜……ドラゴンだもんな」
「高く売れそうだねぇ」
ドラゴンの死体なんて滅多に出回るものじゃない。
外に持って帰ればかなりの金額で売れるはず。
そのままじゃ亜空間の収納袋にも入らないので分解して持っていこうと思った。
「……ねぇ」
「ん? どうした?」
波瑠が圭の服をくいくいと引っ張る。
どう分解したらいいのかと悩んでいた圭は波瑠の方を振り返る。
「なんかさ……」
「なんか?」
「ゲート……でっかくなってない?」
「ゲートが……でっかく?」
波瑠の視線はゲートの方に向けられている。
圭もゲートを見る。
「…………確かに、一回りぐらい大きくなったか?」
最初は暗黒竜に完全に隠れてしまうぐらいの、至って普通の大きさのゲートだった。
それが大きくなっている。
今は暗黒竜の胴体に隠れるのにギリギリぐらいの大きさになっていた。
最初に見たゲートとチラッと確認した程度だったが、明らかに大きいと圭は眉をひそめる。
記憶違いではないはずだ。
「今も大きくなってませんか?」
思わずみんなでゲートのことを見つめてしまう。
大きくなった、というより進行形で大きくなっている。
「あれ……?」
波瑠の足元に落ちていた暗黒竜のウロコの破片がひらりと浮き上がり、飛んでいく。
向かう先は大きくなっていくゲート。
ウロコの破片がゲートに吸い込まれる。
「…………なんだかやばい?」
ゲートが大きくなっている以外の異変を圭たちは感じ始めていた。
体が引っ張られている。
ゲートが大きくなるに連れ、ゲートの方に体が引かれるような感覚が強くなっているのだ。
ウロコだけじゃない。
小石がゲートの方に転がり始め、地面に流れる暗黒竜の血もゆっくりとゲートに向かって流れていく。
「逃げろ!」
ゲートが圭たちを吸い込もうとしている。
そう気づいて逃げ出そうとした。
しかしゲートの巨大化と吸い込む力は加速度的に増していく。
ゲートに背を向けて走り出したのに、あっという間に走る速度が引っ張らられる力に負けて落ちていく。
せめて山の頂上から抜け出せればと思ったけれど、あと少しのところで圭は足が止まってしまう。
「ぐっ……なんだよこれ……」
「結構辛いねぇ……」
圭だけじゃなく、みんなも前に進めず踏ん張ってなんとか耐える状況になってしまった。
軽く後ろを振り向くとゲートは立ち上がったドラゴンと同じくらいの大きさにまでなっている。
重たい暗黒竜の死体すら引きずられ始め、圭もかなり前屈みになるようにして耐えていた。
「うぅ……!」
「薫君!」
圭やカレンなどの力が強いメンツはまだいい。
しかし引っ張る力が強くなって辛いのは夜滝や薫など力が弱い魔法使いタイプだ。
薫もなんとか耐えていたが限界を迎えた。
グッと体が引っ張られ始めたのを見て、圭は薫に飛びついた。
「手を伸ばして!」
圭は薫に向かって手を伸ばす。
「はっ!」
薫の手を掴み、圭は地面に剣を突き立てる。
「ぐっ……う……」
なんとか薫を助けることができたものの、状況は良くない。
なんの打開策もない。
ゲートは巨大化を続け、吸い込もうとする力を増していく。
このままでは圭やカレンの力でも耐えられなくなってしまう。
「け、圭さん……僕の手を放してください」
「薫君……」
「このままじゃ圭さんも……巻き添えに」
「そんなことできるかよ!」
ドラゴンの死体がゲートに吸い込まれて消えていく。
薫もこのままじゃただ圭の足手まといになると思った。
だが仲間を見捨てるつもりは圭にはない。
どの道、薫を手放したところで今の状況を脱する手段もない。
「……ゲートに飛び込もう!」
夜滝のことは波瑠とカレンで支えて、フィーネは鎌を地面に刺してなんとか耐えている。
ダンテの方も珍しくキツそうな顔をしている。
もうみんな限界だ。
それならゲートに飛び込んでしまえばいいと考えた。
体力を消耗するぐらいなら、体力を残してゲートの向こうに行ったほうがチャンスがあるかもしれない。
「いくよ、薫君!」
「えっ! あっ、僕は心の準備が……ああああっ!?」
圭は剣を地面から引き抜くと軽く飛び上がって引っ張られるままに任せる。
一瞬で景色が過ぎ去り、圭はゲートに飲み込まれていく。
「チッ……私たちもいくぞ!」
「うん!」
「やるしかないねぇ」
「フィーネも!」
夜滝たちも圭に続く。
圭が行ったなら怖くない。
「本当に大丈夫なのか……だが…………方法もないか」
ダンテは少しばかりためらっていた。
明らかに罠の気配がある。
だがどうすることもできずに体の力を抜いて引っ張られることにした。
「なっ!? ぐっ!」
夜滝たちがゲートに吸い込まれた。
その瞬間、ゲートが小さくなって消えてしまう。
少しだけタイミングの遅れたダンテはゲートに吸い込まれることなく、引っ張られる勢いで山の頂上からそのまま飛んでいく。
「やってしもうたな……」
ルシファーがため息をつく。
「判断が遅かった……」
こうして、圭たちはダンテを置いて強制的に十九階へのゲートへ進むことになってしまったのだった。




