別れ2
「シャリンならあるいは……いや、魔界ならともかくここでは厳しいかもしれんな」
調停者が振り下ろした剣から衝撃が発されて地面が割れ、後ろにあったビルが大きく崩壊する。
完全にシャリンの方が押されている。
シャリンの魔界での姿はちゃんと大人の姿をしていた。
なぜかこちらにきて子供の姿になってしまっている。
子供の姿でもシャリンは強い。
しかしそれは本来の力ではないのである。
「どうにかできないのか?」
「無理だな……私が本体でここの世界に来ようものなら、それこそ世界が崩壊するような戦いになる。ただもう少し頑張ればあるいは……」
「何かあるのか?」
「ゲヘナへのゲートが不安定になってきている」
肉のようなゲヘナへのゲートがまたボコボコと膨らみ始めている。
「もうすぐゲートが消える。その時にゲートから出てきた存在は因果の力によって魔界に引き戻される。ゲートが消えるまで耐え抜けば調停者も魔界に引き戻されることだろう。それまで耐えれば……チャンスはある」
「……シャリン、頑張れ」
周りにいた覚醒者たちはいつの間にか逃げている。
もはや圭たちしか戦いを見守っている者はいない。
「ピピピピ……」
大鎌ではダメだとフィーネは思った。
もっと一点突破で破壊力を高めねばならない。
大鎌の形が崩れていき、大きな槍に変化していく。
「魔界に帰るのだ」
「いやー!」
シャリンは魔力を撃ち出す。
黒い魔力がビームのように発射されて、調停者は剣の腹でビームを殴り飛ばす。
シャリンのビームで銀行が爆発する中で、フィーネが槍で調停者に突っ込む。
「ほぅ……やるものだな」
フィーネの槍が調停者の肩を貫いた。
人と同じような赤い血が流れて、調停者が小さく呻き声をあげる。
「フィーネ!」
槍が抜けなくなった。
フィーネが作り出した槍はフィーネと繋がっているので、フィーネも動けなくなってしまった。
調停者の剣をフィーネがまともにくらった。
斬撃にフィーネが包まれて姿が見えなくなる。
おそらくフィーネだろう何かが高速でぶっ飛んでいくが、無事かどうかも確認できない。
「フィーネ……お前ー!」
フィーネがやられてシャリンが怒りをあらわにする。
「他者のために怒る……悪魔らしくもないな」
両手に黒い魔力を宿してシャリンが調停者に襲いかかる。
「シャリン……!」
シャリンの攻撃も虚しく、調停者の剣の一振りで吹き飛ばされる。
「そろそろ時間だな」
ゲヘナへのゲートはいつの間にか、かなり肥大していた。
ボコリと膨れ上がったところが割れて、中から皮膚でも剥がれたような肉の手が出てくる。
「うっ……」
ボロボロになったシャリンは床にうつ伏せに倒れている。
「お前の居場所はここではない」
調停者はシャリンの足を乱雑に掴むとゲヘナへのゲートへ向かう。
ゲヘナへのゲートからは何本もの肉の手が出てきていて、調停者に向かって伸びてきていた。
「……何か俺にできることは」
「何もない。死ぬわけではないのだ。本来あるべきではなかったねじれが元に戻るのだ」
「そんな……」
圭は引きずられていくシャリンと目があった。
自分のことを父親にも等しく慕ってくれていたシャリンに対して何もできない。
圭は必死に何かできないか考える。
「あっ、おい、圭!」
「シャリン!」
突如として圭が走り出す。
「圭……!」
シャリンが伸ばした手を圭が握る。
「またいつか会える……だから」
わずかに引っ張られて調停者が振り向く。
「圭!」
「お兄さん!」
「シャリン、また……」
羽虫でも払うように調停者が剣を振った。
剣の腹で殴られて圭がぶっ飛んでいく。
「けーーーーい!」
シャリンが叫ぶ。
調停者を睨みつける。
けれども調停者はそんなことも気にせずシャリンをゲヘナへのゲートの中に投げ入れた。
そして自らもゲートに入って帰っていく。
残されたのは無惨に破壊された現場と多くの死体。
「薫! 圭を!」
「は、はい!」
シャリンやフィーネですら受けきれなかった調停者の攻撃をまともにくらった。
一瞬早く正気に戻った夜滝が薫を引きずるように圭の元に向かう。
「……ふむ。向こうでのことは任せよ」
ルシファーは惨状を見ながらため息をつく。
「だが向こうでもまた……酷いことになりそうだ」




