再び三つ巴の戦い4
「お疲れ様です。そちらはどうですか?」
「こちら怪我人もなく、まだ戦えます」
「ではそのまま戦いに参加してください。よければエルボザールのエルーガの方に向かえませんか?」
伊丹の声は冷静である。
状況としてはそれほど悪くなさそう。
「エルーガ? あの人は……えっと」
「なんたらさんはやられました」
「えっ?」
エルーガはウスキダイコが戦うはずだった。
向かってくれというからには苦戦しているのかと思ったら、それよりも悪い情報が伝えられた。
「エルーガと戦闘していたのですが、先ほど敗北しました。間一髪のところお仲間に救出されて離脱しています」
「なるほど……今エルーガはどうしているのですか?」
「いまは拝金教の片岡と戦っています」
「片岡……?」
「かつて刑務所にいたヴェルターを殺した覚醒者です」
「どこかで聞いたことあるような気がするね……」
片岡と聞いて波瑠はどこかに引っ掛かりを覚えていた。
別に聞くこともあるような名前なので、どこかで聞いてもおかしくない。
けれども覚醒者の片岡に聞き覚えがあるような気がしていた。
「以前、弥生さんに関わる事件でも保険会社の担当だったこともあります」
「あっ! あの時の細い目をした怪しい人!?」
圭たちの雰囲気を察したように伊丹が補足してくれた。
それで波瑠も思い出す。
波瑠の父親を死に追いやった保険会社の男が片岡という名前であった。
覚醒者であり、覚醒者協会が追いかけていた。
「どうやら拝金教に匿われていたようで、今では拝金教の幹部だと見られています」
覚醒者協会が捜査しても片岡は捕まらず、拝金教とエルボザールファミリーと覚醒者協会での戦いの後、逮捕されていた拝金教のヴェルターを殺した。
現在では拝金教の幹部として指名手配までされているが、ほとんど表に出てこなくて今回の戦いでも現れるかどうか分かっていなかった。
そんな片岡がエルーガと戦っているのだった。
「そんなに強い覚醒者だったっけ……?」
「覚醒者協会への登録はEクラスでしたね。ですが重監視刑務所の警備を潜り抜けてヴェルターを殺し、逃げ延びたのですから今の実力は分かりません」
「なるほど……」
「無理はなさらないでください。このままどちらか倒れるまで待っても……いいかもしれません。今の所拮抗しているようなので」
ようするにA級同士、しかもA級の中でも強い覚醒者同士の戦いとなっているようだ。
「様子を見てみます」
「お願いします。ただ怪我だけはないようにしてくださいね」
「分かりました。みんな、次は状況を見つつ、エルボザールファミリーのエルーガを狙う」
圭の簡潔な指示に夜滝たちは頷く。
カレンがスキル大地の力で壁を元の地面に戻すと周りの戦いの様子がよく見えるようになった。
「結構ひどい状態だな……」
覚醒者協会の覚醒者は相手を捕らえたいので手加減も考えるが、拝金教とエルボザールファミリーにそんな考えはない。
結局手加減なんかしていられずに相手を倒すしかない。
オルボットと戦っている間に死傷者はグッと増えて、あたりにはひどい血のにおいが漂っていた。
「みんなは無事……でもないのか?」
ガルーは相変わらず暴れている。
しかし十人いたはずが半分しかいない。
カルキアンたちは相変わらず十人まとまって戦っている。
もしかしたら死傷者が出たのかもしれないと不安はあるが、確認している暇もない。
「エルーガと片岡は……あっちか」
少し離れたところでエルーガと片岡が戦っている。
エルーガは特徴的な見た目をしているので分かりやすい。
身長190センチもある大柄な女性でありながら、見た目はモデルのようである。
武器は鎖で繋がれた二本の大振りの斧という、こちらもまた目立つ武器なのだ。
「ピピ……あれカッコいい」
エルーガは斧を投げる。
人間離れした力で投げられた斧はまっすぐに片岡に向かっていく。
一方で片岡は黒い剣を手にしている。
まともに受ければ剣の方が折れてしまいそうな斧を一振りで弾き飛ばす。
鎖を引っ張って斧を手繰り寄せて戻し、エルーガは片岡に斬りかかる。
デカい武器が好きなフィーネはエルーガの斧をキラキラした目で見ている。
「台風みたいだな……」
カレンもパワーがある方だと思っていたけれど、エルーガは桁違いだ。
普通の人なら両手で持っても振り回すことが難しいだろう大きさの斧を、それぞれの手に持って簡単に振り回している。
近づくことが難しいほどにエルーガは激しく片岡を攻め立てている。
圭が単独で相手にしていたらあっという間に斧でバラバラにされていることだろう。
しかし片岡はそんなエルーガの攻撃をうまくいなしている。
流石に力では及ばないのか正面から受け止めることはしないが、受け流したりするのだって相応の力が必要となるはずである。
「……何を見ているのですか?」
急にエルーガが動きを止めた。
戦いの最中なのに完全によそを向いている。
「なんでしょうか?」
こざかしい注意逸らしではない。
エルーガがそんな手は使わないだろうと片岡もエルーガの視線を追いかける。
そこには圭たちの姿があった。




