第三勢力8
「カルキアン」
圭が名前を呼ぶとカルキアンは驚いた顔をする。
カルキアンのみならずランヴィールたちも驚いている。
「言葉分かるのかって聞いてるわよ?」
かなみも驚きつつランヴィールの言葉を通訳する。
「なんて言ってるのかわかるけど言葉は話せないって答えて」
「相変わらず不思議ね」
「俺の力じゃなくてフィーネの力だ」
「じゃじゃん!」
「あら、そうなのね」
かなみが英語でランヴィールに答える。
ランヴィールたちは驚きつつも、それが圭のスキルの一部なのかもしれないと好意的に解釈してくれる。
「ええと……どうしたらいいかな?」
「私の言葉が分かるのですか? だって」
圭はうなずく。
カルキアンの顔が明るくなるけれど、圭たちの言葉を伝えるすべがないというのは結構困る。
「そっちの言葉は分かるけど……こっちはそっちの言葉を話せないんだ……」
圭はなんとか意思を伝えようと奇妙なジェスチャーでなんとか表現しようとする。
カルキアンは首を傾げる。
こちらも何かを言っていて伝えようとしていることは分かるようだけど、やはり言葉は分かっていないようだ。
「我々の言葉を話せないのですか?」
何回か同じジェスチャーをしていると、カルキアンの後ろにいた老年の男性がカルキアンに耳打ちする。
ようやく伝わったと圭が頷くとカルキアンはまた驚いたように目を丸くした。
「こちらの言葉は分かるんですよね?」
「そうです」
圭は再び分かりやすく頷いて答える。
そんなこともあるのだとカルキアンたちはざわつく。
「言葉が通じるのならお願いがあります。私たちを助けてください」
カルキアンが圭に対して膝をつく。
後ろの人たちが驚いているが、カルキアンが何かを言うと同じように膝をついた。
「一体どういうことかしら?」
「助けてほしいってさ」
おそらく、今の状況を分かっているのは圭だけだ。
圭はシークレットクエストのことを思い出していた。
偉大な人間の女王を助けろ。
そんなクエストが圭の表示には現れていた。
状況からしてカルキアンが代表なことは見て取れる。
シークレットクエストと総合して考えると、カルキアンがクエストの人間の女王なのではないかと圭は考えた。
そして全体的なクエストとしては選択せよとなっていた。
助けるかどうかも圭たちの次第なのだろう。
「うーん、なかなか難しい案件ね」
向こうが助けてほしいと言っていることを伝えるとインドとアメリカはざわついた。
ゲートの中に知らぬ人がいる。
ということも驚きである。
どこから来た人なのかも分からない。
今のところ圭しか言葉が分からない上に、こちらの言葉は通じない。
助けてほしいと言われても、すぐに助けましょうとは判断できないのである。
「と、とりあえず立ってください。えーと、ちょっと待って。あっ! 大丈夫ですか!」
助けるにしても助けないにしても膝をつかせているわけにもいかない。
立たせて、ひとまずみんなで話し合う時間を作ろうとジェスチャーで待つように伝えた。
立ち上がったカルキアンがふらついて圭は慌てて受け止めるように支える。
「申し訳ありません」
「……やっぱり助けるのやめにしたほうがいいかしら?」
圭に抱きかかえられるようにして床に座らされたカルキアンを見てかなみが怖い顔をしている。
「そうだね。私も今反対に傾いたかな」
「お兄さんがそういうことする人なのは分かってるけど……なんだかな」
圭が悪いことをしたわけではないものの、美人と抱き合う形になるのは女性陣に不評であった。
だからといって圭が無視したら、それはそれでみんなに非難されるのだから難しい立場である。
「なるほどな」
なんで急にふらついたか。
カルキアンのお腹がキューッと音を立てた。
カルキアンの顔が真っ赤になって、恥ずかしそうに手で隠す。
「どうやら空腹みたいだ」
他の覚醒者と同じくカルキアンたちも食料や水を欲しているようである。
ちょっと拗ねた様子だったけれど、かなみも仕方ないとカルキアンたちの状況を伝える。
「……あなたの判断に任せるそうよ」
「俺?」
ランヴィールを始めとして責任者が集まって話し合った。
最終的な判断は全体のリーダーであるランヴィールが下すだろうと思っていたら、ランヴィールは圭に決断を任せた。
「なんで俺?」
「言葉分かるの圭君だけだしね」
圭は二層の霧を突破して、カルキアンたちと唯一意思疎通が取れる存在である。
日本組のリーダーはかなみに任せているが、超大型ゲート攻略におけるキーマンは確実に圭である。
実際かなみも圭と距離が近く、独断で判断しているというより圭の意思もある程度反映されている。
言葉が分かる圭がどう判断するのかを尊重しようとランヴィールは考えた。
怪しいと思うなら助けないし、助けてもいいと思うなら圭を信じてみようというのだ。
「……じゃあ助けましょう」
いきなり判断を任されて圭は驚いた。
しかしクエストを見る限りカルキアンたちは敵ではないことが圭には分かっている。
圭は助けることを選ぶ。
カルキアンたちは異世界の住人ではあるけれど、同じ人なのである。
『選択せよ
偉大な吸血の王を倒す
偉大な人狼の王を倒す
シークレット
偉大な人間の女王を助ける
偉大な吸血の王を倒す
偉大な人狼の王を倒す』




