再びインドへ3
「お変わりはありませんか?」
車に乗り込む。
ただし運転するのはアマルジャンではなく、インドの覚醒者協会の人である。
「ええ、変わりはありませんよ」
「報酬、ご満足いただけましたか?」
「むしろあんなにお金もらってよかったのかと思うぐらいでした」
「ならよかったです。それでも足りないぐらいの恩がありますからね」
アマルジャンはニコリ笑う。
やはり護衛されていた時よりも明るくなった気がする。
「もうすでに他の国から覚醒者も集まっています。来てもらって早々悪いのですが、ついたらすぐに超大型ゲートに入ってもらうことになります」
「分かりました」
「スケジュールが前倒しになって申し訳ない。人命がかかっているのでしょうがなく……」
本来聞いていたよりも早くにゲートに入ることになった。
多少急な話だが、特に入る用意などは必要ないので圭もすんなりと受け入れた。
二層の霧から人が戻ってきたことを考えて、早く攻略すればまだ助けられるということからスケジュールが前倒しになったのだ。
インド側も焦っているのである。
「ゲートに出てくるモンスターのことを説明しておきます」
ついたらゲートに入るのだから移動中に説明するしかない。
説明会で軽く聞いたものの、知ってますなんて偉そうなことは言わないで改めて圭も確認しておくことにした。
「一層の外……都市までの間に出てくるモンスターはウルフタイプのモンスターです。ただし普通のウルフとは違います」
アマルジャンはパソコンを取り出してモンスターの画像を表示させる。
「目が赤く染まっていて、低級ゲートに出てくるものよりはるかに強いです。大きさも二種類存在していて大きな個体の方が強くなっています」
画像のモンスターはまるで闇のような黒い毛皮を持つ四足歩行の獣タイプのモンスターであった。
狼のような姿をしているが、目は血のように赤く、黒い毛皮の中で赤い目だけが浮かび上がるように見えていた。
ウルフといえば低級ゲートで見られることも多いモンスターであるけれど、超大型ゲートに出てくるウルフはかなり能力が高かった。
レッドアイウルフと名付けられたモンスターは知恵も高く侮れない相手である。
「ただ今ではほとんど見られません」
最初こそ多くいたレッドアイウルフであるが、度重なる攻略の旅に倒されている。
結果として一層の霧の外に残っているレッドアイウルフの数はもう多くなかったのだ。
「一層の霧の内側に現れるモンスターはこちらです」
霧の中では今のところモンスターに遭遇しない。
だが一層の霧の内側、二層の霧の外側にあたる間のところではまたモンスターが出てくる。
パソコンに映し出されたモンスターはレッドアイウルフにもよく似ていた。
けれどもレッドアイウルフが四足歩行だったのに対して、画像のモンスターは二足歩行で立っている。
「我々はレッドアイウェアウルフと呼んでいます」
体の作りもウルフよりやや人に近いが、目が真っ赤なことはレッドアイウルフと同じである。
「レッドアイウルフよりもさらに戦闘能力が高いです。複数の群れで行動することも確認されていて、危険度も高いですね」
レッドアイウェアウルフの厄介なところは、能力の高さ以外にもう一つある。
それは戦っているうちに霧の中に突入してしまうことがあることだった。
「霧に入ってしまうとレッドアイウェアウルフは追ってこないそうですが、代わりに仲間とはぐれてしまいますからね」
どこまでが霧なのか気をつけながら戦わなきゃいけないのは意外と面倒である。
「注意事項としては二層の霧には近づかないでください。一層の霧なら今は中に入れるので、霧から出た場所で大人しくしていれば助けが来るかもしれません」
二層の霧の中に入ってしまうと現段階では助ける方法はない。
一層の霧に入ったなら歩き回れば一層の霧の中か、運が良ければ一層の霧の外に出てくる。
二層の霧に行かなければ迷子になっても救出できる可能性があるのだ。
「村雨さんなら霧を見通せる可能性があると思っていますが、万が一の場合は覚えておいてください」
「迷子にならないように気をつけます」
まだ本当の中にまで入っていないのに危険なゲートである。
慢心して動かないようにしなければな、と圭は気を引き締めたのであった。




