何があったのか1
「……ん…………」
「かなみ?」
「…………薫? 薫!」
かなみが目を覚ますと、そこは病室だった。
頭はかなりぼんやりしていたが、薫の声が聞こえてかなみは体を起こす。
少しぼやけて見える視界を横に向けるとベッドのそばに伊丹が座っていた
「心配したのよ」
「……それはこっちのセリフよ」
「助けに来てくれてありがとう」
伊丹は柔らかく微笑むとかなみのことを抱きしめた。
「無事……だったのね」
「あなたのおかげでね」
本当にギリギリのタイミングだった。
ハンナは伊丹のことをマスクにして利用するつもりだった。
しかし本人が使うのではなくマスクとして渡す予定のところ、ハンナは伊丹の顔を割と気に入っていた。
だから能力で再現できるように観察して、完全にコピーしようとしているところであったのだ。
顔は完全にコピーした。
次に顔を伊丹にして体をコピーしようとしているところにかなみが飛び込んできたのである。
伊丹は薬で意識を混濁させられていたけれど、治療のおかげで後遺症もなく治っていた。
かなみは伊丹を抱きしめ返して、友人の無事を喜ぶ。
「あいつは……それに圭君たちは?」
かなみはハンナを拘束した後の記憶がなかった。
どうなったのかを覚えていないのである。
「色々あったのよ。あなたはもう丸三日も寝ていたの」
「ええっ! ……そんな」
「肺に折れた肋骨が刺さって危険な状態だったの。病院に運ばれて緊急手術……加えて村雨さんがバーンスタインさんを連れてきて、あなたを治してくれたのよ。それでも起きなくて……心配だった」
「薫を助けにいって……薫君に助けられたのね」
「今そんな冗談言う?」
伊丹は呆れたような顔をした。
かなみは正直かなり危険な状態であった。
ハンナの攻撃を受けてかなみの内蔵はダメージを受け、肋骨が折れていた。
動いたせいで折れた肋骨が肺に刺さって傷つけていたのである。
緊急手術が行われたがそれでも危ない状態だった。
そこで圭は薫にお願いしてかなみを治療してもらったのだ。
なんとか峠を乗り越えたものの、かなみはこうして目を覚ますまで丸三日という時間がかかったのであった。
「でもそんな冗談を言えるなら大丈夫そうね」
「いてっ!」
伊丹はかなみの鼻先を軽くデコピンする。
「それで結局どうなったのかしら?」
「フェイスマスク……私を誘拐したハンナ・フリーマンという名前の女性はあなたのおかげで捕まえられたわ」
かなみによって気絶させられたハンナは逮捕された。
「彼女の捜査は難航しそうですが、村雨さんのおかげで進めてはいけそうです」
ハンナは堂々と入国していた。
ただし使った身分は他人のものであり、ハンナの名前すら分からなかった。
そこで圭がこっそりとハンナの実名を伝えたのだ。
匿名の覚醒者による協力として名前を突き止められて、ハンナはとても驚いていた。
多くの身分と顔を持つハンナの足取りを調査することは簡単ではない。
しかしハンナの名前が分かれば調べられることもあるだろう。
「あの男は? リウ・カイは?」
かなみも以前カイと戦ったことがある。
圭がカイを引き受けてくれたからかなみは伊丹を助けに行けた。
しかしカイはA級覚醒者であり、圭では敵わない。
どうやら圭は無事そうなことも会話の流れから分かっているが、心配は心配である。
「色々と複雑なのですが、結論からいえばリウ・カイは逃げました」
「そうなのね……」
「青龍ギルドが今後を追っています」
「……なんで中国の青龍ギルドが?」
かなみは青龍ギルドが関わっていることを知らない。
なんで急に名前が出てきたのかと不思議そうな表情を浮かべる。
「どうやら青龍ギルドはリウ・カイを追いかけていたようなのです。日本にいるかもしれないという話を聞いて日本にいたようです」
圭が狙われていて、青龍ギルドは圭を護衛・監視していたという事情を省いて圭は説明した。
青龍ギルドの関係として圭は日本で青龍ギルドが活動する協力者となっている。
「青龍ギルドのギルドマスターであるリウ・ウェイロンと副ギルドマスターのリウ・リーインが戦ったようです」
「その二人って……」
「どちらもA級覚醒者ですね。ですがカイはその場から逃げ切りました」
以前も北条とかなみの二人を相手にしてカイは逃げたことがある。
実力だけじゃなく逃げ足もカイはA級なようだ。
「ただカイも無事ではないようです。右腕を肩口からウェイロンに持っていかれたという話でした」
カイも無傷で逃げ出したわけじゃない。
右腕を切り飛ばされ、奪い取った青剣を青龍ギルドに取り戻されていたのであった。
「捕まるのも時間の問題かもしれませんね」
腕を失っては逃げることもままならないはずである。
その上で青龍ギルドまで追いかけているのなら国外に出ることも難しいはずだ。
「あの男は是非とも捕まえてほしいものね」
かなみは大きくため息をつく。
「圭君は無事だったの?」
「無事でしたが、村雨さんは別の覚醒者とも戦っていました」
「えっ? 何があったの?」
「もう一人A級覚醒者がいたんです。世界的な指名手配犯のイリーナという覚醒者犯罪者です」
伊丹は呆れた顔をする。
強くなったとは言っても圭はB級覚醒者。
無茶をしたものであると呆れてしまう。




