研究者を狙って3
「そこの駐車場で止めて、少し山の中を歩いていけばゲートがあります」
やってきたのは多少車を走らせた郊外であった。
駐車場に車を止めて降りると近くに登山道入口の看板が立っている。
今回外を回るので護衛は少し多めで、車をもう一台出して圭と夜滝に加えてカレンと薫とシャリンもいる。
フィーネはいつものように圭の装備として隠れている。
ダンテはホテルでアマルジャンの妻であるユカの護衛にあたっている。
「このまま登山道を行けば近いです」
「アマルジャンさんは大丈夫ですか?」
「最近運動不足だからね……あまり遠くないといいけれど」
「夜滝ねぇは?」
「今はもう結構動ける方さ」
以前はちょっとしたフィールドワークでも夜滝は文句を言っていた。
そんな時に圭がおんぶしてあげていたことは今でもよく覚えている。
かなり体力的に不足していたのだが、覚醒者としてレベルアップして体力的な問題もなくなっていた。
アマルジャンもあまり体力には自信がない方だった。
以前の夜滝よりは体力があるかもしれないが、しばらく研究室にこもって研究していたので衰えもある。
山頂まで登るわけでもなく、初心者向けともいわれる緩やかな山であるが、アマルジャンは体力が持つか少し心配であった。
「とりあえず行きましょうか。キツそうなら休みながら」
「悪いな」
アマルジャンの荷物は圭が持ち、登山道入口から山に入っていく。
ゲートに入れば山や森林なことも少なくない。
そうなると自然の中にいることも覚醒者なら少なくはない。
しかし魔力が満ちたゲートと、ただの山の中はまた少し違った感じがある。
「目印がありますね」
ゲートがある場所には、登山道から逸れて山の中に入っていく必要がある。
どこから入れば近いかの目印となる布が木に縛り付けてあった。
本格的に山の中に入る前に一度休憩する。
圭たちはなんてことなくても、覚醒者でもないアマルジャンは汗をかいていた。
体が冷える前にと再び移動を再開する。
「覚醒者となるとこれぐらい苦でも羨ましいよ。アルゴリズムを完成させて、外に出られるようになったら少し運動でもしよう」
アマルジャンがタオルで額を拭う。
「もう少しですので頑張ってください」
歩いていくと木々の隙間にゲートの青い光が見えた。
「お疲れ様です。この度はご協力ありがとうございます」
覚醒者協会の職員がゲートの前にいる覚醒者に声をかけた。
「ああ、どうも。わざわざこのようなところまでご苦労様です」
「GMの榊原健さんですね? 私は……」
『チン・ジュンユ
レベル222
総合ランクC
筋力C(無才)
体力B(一般)
速度B(一般)
魔力B(一般)
幸運D(無才)
スキル:無し
才能:多彩な声色』
「榊原健?」
車の中でもらったGMのリストに榊原健は載っていた。
GMのギルドマスターで、一緒に載っていた顔写真も確かに目の前の男のものと同じである。
しかし、名前が違う。
圭が真実の目で確認してみると榊原健どころか、日本人の名前の名前ですらなさそうだった。
他に数名いる覚醒者もリストで見た顔はしているが、リストの名前と誰一人として一致しない。
「みんな、アマルジャンさんを守れ!」
「……チッ! なぜバレた!」
「うっ……!」
明らかに異常である。
圭が指示を出してアマルジャンの守りを固めようとすると、チンが剣を抜いて覚醒者協会の職員の腹を突き刺した。
「な、なんですか……!」
「こいつらはGMのギルドの人じゃない!」
「やれ! こいつら全員殺してしまうんだ!」
顔と名前が違う覚醒者たちが一斉に武器を構えて圭たちに襲いかかる。
「一番強いのはそいつだ! シャリン、やってしまえ!」
「りょー!」
「殺すなよ!」
中でも覚醒者等級が高いのはチンである。
圭はシャリンをチンに向かわせて、リーダビリティギルドでアマルジャンの周りを固める。
圭は一歩下がって周りを見回す。
隠れているような敵はいない。
目の前から襲いかかってくる奴らで全員のようである。
「できるだけ生かしたまま捕らえるぞ!」
目的はアマルジャンであろうと思う。
しかし確実ではないし、アマルジャンがターゲットだとして誰が雇ったのか知る必要もある。
生かしたままということは難しいけれど、それでも生かして捕らえることを狙う。
「ピピ……フィーネ、出番無し……」
あんまり強くなさそうな相手だとフィーネは出るつもりもなかった。
「ふっ、おらっ!」
カレンが剣を盾で受け止めて相手のアゴをメイスで殴り上げる。
「それじゃ遅いよ!」
「くっ……」
振り返りながらパッと後ろに現れた波瑠に剣を振る。
けれど振り向いた時、波瑠はさらに後ろに回り込んでいた。
「えいっ!」
殺さないようにとナイフの柄で男の頭を殴り飛ばす。
「おりゃあー!」
「なんだ、このガキ……!」
チンはシャリンの攻撃をかわしていたが、かわせているのもチンが優秀であるというよりも殺さないようにと手加減を頑張っているからだった。
「むっ、ちょー!」
「はぁっ!?」
拳による一撃で剣が叩き折られてしまった。
どんな力の差があればそんなことになるのだとチンは顔を青くする。




