十一階、最終決戦2
「ここまで頑張ったから楽させてくれてもいいけどな」
モンスターの襲撃を受けるのはメラシオニの都市だけではない。
十五日目の襲撃では時の神殿もモンスターに襲撃されていた。
大きなギルドに都市の防衛を任せて、圭たちは時の神殿を守ることにしたのである。
「きっと大丈夫だからそんな顔すんなって」
「ですけど……」
「メルシリアが強い子だっていうのはわかってるだろ?」
赤城と黒羽はギルドの方に行っているのでいないけれども、代わりにクロノアが時の神殿にいた。
時の神殿を守るのは時の神官だろうとアノアに言われて渋々来ているのだ。
クロノアとしてはメルシリアのそばにいたかった。
これから十五日目の戦いが始まるのにメルシリアが大丈夫だろうかと心配で仕方ないのだ。
圭は大丈夫とクロノアを励ます。
「メルシリアはよくやってたよ。きっとこれからの戦いでも大丈夫だから」
ヒグロスマザーとの戦いでもメルシリアは指揮官としての役割を立派に果たしていた。
その後の処理や十五日目に備えてのことも全部、ただのお姫様だったとは思えないような働きを見せていた。
クロノアよりもしっかりしているぐらいで、クロノアが心配するようなことはないだろう。
モンスターに対する備えも短い時間ではあったもののできる限りをした。
S級覚醒者を有する大きなギルドが防衛に協力しているのだからきっと守りきれる。
「メルシリアに会いたいなら早くモンスターを倒して、早く会いに行けばいい」
「メルシリアに会いたいなんて……一言も……」
「顔真っ赤だよー?」
「うっ……」
波瑠に指摘されてクロノアはより顔を赤くする。
「そ、そろそろモンスターが現れる時間ですよ!」
クロノアは誤魔化すように空を見る。
ちょうど時の神殿がある崖の割れ目の上に日が登ってきている。
十五日目になってすぐにモンスターが来るわけではない。
時間的には十五日目の昼前ぐらいからモンスターが発生するのである。
日の傾きからそろそろモンスターが発生する頃だった。
「……空が」
これまで雲一つない晴天だった空が急に曇天になり始めた。
どこからか湧いてきた黒い雲が空を覆い、世界全体の空気が明らかに濁ったものになった。
「来たぞ。やはり何かが介入しているな」
目を閉じて黙していたアノアがずっと目を開いた。
時の神殿に人が入ってこないようにしていた結界が揺らいで、消えてしまった。
簡単には消える魔法ではないのに、アノアが維持しようとする間もなく消えたのだ。
「モンスターが来るぞ」
崖の向こうから走ってくるモンスターの姿が見える。
前回のループの時も同じだったとアノアは思った。
だが今回大きな違いが一つある。
時の神殿を守ってくれようとする友がいる。
「やるぞ!」
圭たちもただモンスターを待ち受けるだけではなく作戦を考えていた。
崖の出口は軍隊が通るには狭いけれど、入ろうと思えば意外と幅がある。
押し寄せるモンスターも次々と入ってこられると非常に厄介なことになる。
そこでカレンのスキルを使って崖の出口にさらに壁を作った。
進むにつれてだんだんと細くなっていくように斜めに配置された壁は、自然とモンスターの勢いを削いで数も絞り込む。
なんとか他を押し退けて出てきたモンスターも、シャリンやフィーネによって素早く処理される。
仮にさらに乗り越えてきても圭たちがしっかりとモンスターを倒す。
「ただモンスターの数は多いな……」
どれだけモンスターがいるのか分からない、と何度も十五日目を経験してきたクロノアは言っていた。
確かに崖の道には詰まるほどにモンスターが押し寄せている。
モンスターそのものの質は低いけれど、ヒグロとの戦いのように数で押し切られると辛いものはある。
「イマイチ勝利条件も分かってないからな……」
ここまでは塔の試練という形でどうしたらいいのかという導きがあった。
わかりにくいことや自分で考えねばならないこともあったけれど、ある程度の指針はあったのだ。
だがヒグロスマザーを倒して王国を取り戻してから新たな試練は出なくなってしまった。
ちなみに次の階には行けるようになっていた。
圭はちょっと怖いのでまだ確かめていないが、試しにとダンテやカレンも入れたので圭も大丈夫だろう。
つまり試練そのものは終わっているのだ。
だがシークレットは終わっていないし、一つ謎がある。
国を救えの試練をクリアした後に特別試練クリア報酬獲得となっていたのだが、これでまた何かのものとして得られたものはなかったのだ。
メルシリアやディムバーラガンの記憶が保たれたように、何かしらの状況が変化したはずである。
そして十一階で残されたイベントといえば、十五日目のモンスター襲撃だけとなっている。
きっと特別試練クリア報酬と関連があると圭は確信めいたものを感じていた。
「ヒグロに比べるとモンスターな分、気が楽だな」
カレンがため息をついた。
ヒグロもモンスターではあるがその姿は人の皮をかぶっていた。
人だろうとモンスターだから手加減などしないが、人の姿をしたモンスターを倒すのはやっぱり気分が良くなかった。
それ比べていま襲い来るモンスターは多種多様な種類がいるものの、人の姿はしていない。




