国を思えば謀反の旗が上がる7
「外はどうなってますか?」
「モンスターの存在を認識した人々はメルシリア様の下に降りました。しかし問題が一つ起きたのです」
「先ほども申し上げましたがヒグロどもが急に大移動を始めたのです。それだけではなく城の外からもヒグロと思われる人々が集まってきています」
「城の外からも? ……そんなにヒグロは広まってたのか」
いくらなんでもヒグロが多すぎると思った。
戦いの中で気づいていなかったけれど、よく見ると兵士以外にも何の武器も持っていない普通の服装の人も混ざっていた。
絶え間なく押し寄せるヒグロは城の中だけから来ているものではなかった。
町中からもヒグロが城に向かって集まってきていたのである。
一般的な市民だけじゃない。
冒険者などのモンスターとの戦いを専門にしている人たちも多く見られていた。
地下にいる圭たちが知らないところでヒグロが大集結を起こしているのだ。
「幸いこちらに向かってこなかったので正常な者をその間にまとめ上げ、状況把握をいたしました。宝物庫に向かっていることが分かったのでヒグロを分断し、新しく向かっているものを押し留めながら宝物庫に向かっているヒグロを後ろから攻撃しています」
ディムバーラガンたちの判断は素早く、そして正しかった。
押し寄せたヒグロはディムバーラガンたちを完全に無視した。
そして宝物庫のヒグロスマザーの下に向かおうとしていたのである。
メルシリアとディムバーラガンの反乱で混乱していた王城ないの兵士たちは仲間が急に宝物庫に向かい始めたものだから混迷を極めていた。
そこでメルシリアが状況を伝えて兵士たちをまとめ上げた。
ヒグロのおかげで誰に正義があるかは明らかになった。
今王国はヒグロスマザーでもなく正気を失った王でもなく新しく王となったメルシリアの下に動いている。
「前に立ちはだからない限り攻撃してくることはなく、後ろから攻撃されても我々のことは無視しています。他の騎士やムラサメ殿がご所望なされた魔法使いももうすぐ宝物庫に降りてくると思います」
ヒグロスマザーを助ける。
このことしかヒグロの頭にはなかった。
途中にいる兵士たちなど気にすることなくヒグロは宝物庫を目指していた。
そのためヒグロの識別は難しくない。
今ごろ上の階ではメルシリアが兵を指揮してヒグロを倒しながら下の階にある宝物庫に降りてきている。
もうすぐ合流できるしヒグロの数も確実に減ってきている。
「これを出す時が来たか……」
しかしヒグロスマザーだってただ見ているだけではなかった。
新たな皮をヒグロスマザーは取り出した。
「また馬鹿の一つ覚えみたいに……」
ヒグロスマザーが操っていた騎士は糸を切ったり細切れにして倒してしまった。
「いきなさい……我が子よ」
ヒグロスマザーは触手を皮に繋いだ。
ヒグロスマザーの本体からボコンと大きな塊が触手を伝っていって皮の中に流れ込む。
一瞬破裂しそうなほどに皮が膨らみ、そしてシュルシュルと縮んで正常な人のサイズに収まった。
「あれは……なんと……」
「あれも知り合いですか?」
「デルトラン……隣国で最強とうたわれた騎士だ」
ディムバーラガンと近い年に見える、右目に縦に走る大きな傷がある白髪の騎士の背中から触手が離れる。
騎士の姿を見てディムバーラガンは驚いたように目を見開いている。
騎士はメラシオニの人ではなかった。
メラシオニに隣接する国で有名な騎士で、その強さによって名声を得ていた。
アノアの話によると隣国もすでに滅んでいるはずで、デルトランももう死んでいるだろうとディムバーラガンは思っていた。
「死者をこれほどまでに冒涜するとは……!」
自国の騎士だけではなくすでに滅びた国の人間までこうして利用するとは侮蔑的な行いであるとディムバーラガンは怒りをあらわにする。
『デルトランの姿を模したヒグロスナイト
倒した相手の皮を奪い取るヒグロスナイトがデルトランの皮をかぶった姿である。
ヒグロスナイトはヒグロスマザーを守るために生み出される存在である。
定期的にヒグロスマザーからエネルギーの供給を受けねばならずヒグロスマザーのそばにいなければならない。
力は強く、ヒグロやヒグロスとは比べ物にならないぐらい皮の力を発揮することができる。
実の姿はヘドロにもよく似ている』
「……何だかちょっとやばいかもしれないですね」
真実の目でデルトランの情報を確認した圭は軽く眉をひそめた。
デルトランに関してはヒグロスナイトというまた新しいモンスターであった。
これまでのヒグロやヒグロスは力が弱いとはっきりと書かれていたが、ヒグロスナイトに関しては力が強いだの皮の力が発揮できるだの書いてある。
仮に皮となった人の能力を高いレベルで再現できるのなら最強と言われるほどの強さのデルトランではどうなるのか。
「なっ……」
「圭!」
デルトランが消え、気づいたら圭の前で剣を振っていた。
ギリギリのところで剣で防御したけれど、圭は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。




