時に囚われぬ者7
「どうせならちょっと手を出してみようと思います」
人を探せというだけならそんなに難しいものではない。
クロノアには一度会っているし居場所も分かっている。
またモンスター討伐は再開するつもりであるしついでに向かえばいいと圭は考えていた。
「困ったことがあったらいつでも呼んでくれ。じゃあな」
赤城と別れて圭たちは東の森に向かった。
「お姫様に探される人って何者なんだろうね?」
「うーん、恋人、とか?」
移動の最中の話題はクロノアについてであった。
クロノアはシュッとした顔をした青年ではあったけれどそこまで特徴的な人物には見えなかった。
お姫様が探しているなんてどんな繋がりがあるのだろうかと想像が広がる。
赤城が見たこともない試練だというのもまた興味をそそる。
「実は王子様だったりして」
「家出した王子様、なんて話もあるかもしれませんね」
お姫様の恋人、思い人、あるいは王子とか実は悪い人なんじゃないか、なんて色々候補は出た。
「この辺り……だったよね?」
「多分」
以前クロノアに会ったのに近いところまでやってきた。
魔法を使って引きこもっているので夜滝やフィーネの感覚で探してもらうしかない。
大体この辺だろうというあたりをつけて周辺を歩き回って魔法を探す。
「うむ……魔法の感じがないねぇ」
「ピピ……ない」
「場所間違えたかな?」
夜滝もフィーネも魔法を探そうとしてくれているけれど二人とも魔法の存在を感じられないでいた。
「前回も微妙だったからねぇ」
圭は場所でも間違えたかもしれないと思ったけれど前回魔法を見つけた時も夜滝がフワッと違和感を感じたからようやく見つけられたぐらいの魔法である。
かなり近づかないと察知できない可能性もあった。
「ケイ、あれ!」
「なんだ?」
暇そうに周りを見回していたシャリンが圭の服をぐいっと引っ張った。
「小屋?」
シャリンが森の中に立っている小屋を指差していた。
「前に来た時、あんなのあったっけ?」
「いーや、なかったな」
もしかして、と思いつつ圭たちは小屋に近づく。
古ぼけた小屋だけど割と綺麗にされている。
窓もあるがくすんでいて中はよく分からない。
ただ明かりの光などは見えていない。
「すいませーん」
圭がドアをノックして声をかけてみる。
「誰もいなさそう……かな?」
間を開けてもう一度ノックしてみたけれど小屋の中から返事はない。
「こんなところで何をしておる?」
誰もいないのならしょうがない。
もしかしたら前回小屋のことは見逃していただけで、魔法でクロノアが隠れているのは別の場所かもしれない。
小屋はまた時間をおいて訪ねてみようなんて思って移動しようとしたら一人の老人が近づいてきていた。
「小屋に何か用かな?」
どうやら小屋の持ち主のようである。
「人を探していまして」
怪しい雰囲気もないので圭たちは警戒を解いて対応する。
「人を? こんなところにか?」
「黒髪黒目の青年……クロノアという人を探しているのですが」
「黒髪黒目の青年……」
「知っているんですか?」
老人が短い顎鬚を撫でる。
「この小屋を借りていたやつかもしれないな」
「小屋を借りていた人ですか?」
「うむ、特徴が一致する。不思議な人で十四日間だけ小屋を貸してくれと金を払ってな」
「十四日間だけ小屋を」
「しかも急に出て行きおった。金は返さなくてもいいとな」
「出ていったのはいつごろですか?」
「三日前だ」
「三日前ってことは……」
圭たちがクロノアに出会ったのがちょうど三日前である。
「なんか怪しいな」
「確かに」
十四日間だけというのも引っかかる。
十一階は十五日間をループしている。
一日足りないけれども十五日目はモンスターが大量発生して地獄絵図になるらしいことを考えるとその前に離れるつもりなのかと疑いが湧き起こる。
「小屋を借りていた人がどこにいったのか分かりますか?」
「いいや、知らないね」
「そうですか……」
怪しいと思った。
「シークレットがなんだったかねぇ?」
「戻らぬ時を取り戻せって書いてあるな」
「ループする時間、戻らぬ時……なんとなく時間が関わってる感じがあるねぇ。そしてクロノアという人はもしかしたら十五日目に世界が終わることを知っているのかもしれない」
「そういえば少し前に占い師のおばあちゃんに変なこと言われてたよね」
「そんなこともあったな」
まだ確定的なことは何もいえない。
しかしここまでで得られた様々なことが一つを指し示し始めているような気がした。
「クロノアって人が何かのキーになりそうだな」




