時に囚われぬ者1
「この階の試練は町に入った時に一緒にいたもので進行度が共有されるんだ」
ループを待って一日目から十一階の攻略を始める。
ただ十五日間全て出ることは圭たちにとって難しい。
ヴァルキリーギルドは覚醒者ギルドであって覚醒者を仕事としている。
一方で圭や夜滝はいまだに会社に勤めている。
どうしたものかと思っていたのだが十一階の試練にはある程度救済的なシステムもあった。
最初の試練でもあるメラシオニに辿り着けという試練をクリアした時に一緒にいる人の間で多くの試練が共有される。
なのでのちにその場にいなくとも試練をこなしていくとクリアにはなるのだ。
ただしその場にいなければクリアにならない試練もあるのでそこだけは要注意である。
「そろそろ仕事も考えなきゃな」
「そうだねぇ……世界の危機に仕事なんてしている場合じゃないからね」
B級覚醒者にもなったのでお金の心配はほぼなくなったと言ってもいい。
ここまで仕事と覚醒者としての活動を両立させてきたけれど限界が来ていると圭は感じていた。
夜滝も同じである。
「ギルドハウスを探して転居しちゃうのもありかもな」
いつものメンバーに加えてシャリンも増えた。
さらにダンテやユファとなると寮として借りている部屋に集まるのも手狭になってきた。
仕事を辞めてどこか大きめの建物をギルド兼住居として借りてもいいかもしれない。
「そうなると私と圭で同棲だねぇ」
夜滝はニヤリと笑う。
「でも今でもそんなに変わらないよね」
なんだかんだと夜滝の部屋で活動することは多い。
いまだにご飯作りに行っているし家を変えてもそんなに変わらないだろうと思う。
シャリンとフィーネもいるし実はまだユファも居候しているのできっとついてくるだろうなと思っている。
「中小ギルドにはマンション借りて一階をギルド用、二階以上を住居、なんてしてるところもあるみたいですね」
「そんな感じもいいかもな」
「私の部屋もある?」
「なぜ君もくるつもりなんだぃ?」
相変わらず圭の隣に陣取る黒羽がジッと圭を見つめる。
なぜなのか黒羽もギルドハウスに来るつもりのようだ。
「まだ何も決まってないよ」
「そう。でも考えておいて」
圭が困った顔を浮かべると黒羽はにっこりと笑う。
もっとレベルを上げてA級を目指したいし完全に覚醒者として舵を切ることも悪くない。
「ひとまず今は十一階に集中しよう」
何をするにしても前進は止められない。
前に進みながら考えるしかなく、今は前を見なきゃいけない時だ。
「それで、これからどうするんだ?」
再びメラシオニまでやってきた。
相変わらず冷たい視線を受けながら門番に魔石を渡して中に入った。
メラシオニに辿り着けがクリアになったが次の試練は出てきていない。
どこかで次の試練を探さねばならない。
ちなみに聞いたところではメラシオニに入る方法も一つじゃないらしい。
もっと少人数なら普通に検問を受けて入れることもあるしスキルなどで門番の目を誤魔化したり城壁を乗り越えたりという方法もある。
メラシオニ以外にも十一階には町や村があってかなり広い。
モンスターに襲われている人を助けたら非番の門番で中に入れてくれたなんて例もあるらしい。
十一階には決まった攻略法などないといっても過言ではないほどなのだ。
「私たちも何回か攻略してるからな。一応多少のやり方は確立してるんだ。まずはこれを使う」
ニヤリと笑った赤城はポケットからメダルのようなものを取り出した。
「なんだそれ?」
「これは冒険者証だ」
「冒険者証?」
「ああ、この世界はみんな魔力を持っている。覚醒せずとも戦う力は一応あるがみんながみんな戦うわけじゃない。だがモンスターものも外には存在している。戦う人は必要なんだ。そこでモンスターと戦う職業の人のことを冒険者と呼ぶんだ」
前の時もそうだと感じたが赤城は意外と説明が上手い。
カレンタイプのワイルドな性格な人に見えて知性的な側面も強いなと圭は思いながら説明を聞いていた。
「そしてモンスターに関する依頼とかそうしたものが集約される冒険者ギルドってのがあって色々な仕事を斡旋してる。ここにいくと塔の試練に関する仕事もあるのさ。んで、冒険者としての身分を証明して仕事を受けられるようにしてくれるものが……」
「冒険者証か」
「その通りだ。私もたまたま手に入れたものだが持っとくと意外と便利なんだ」
「この階のものは外に持ち出せるのか?」
「基本的には可能だ。ただし人は無理。試そうとしたやつもいるらしいが十一階に住むやつはエントランスゲートの認識すらできない。他のもの……食料や武器なんかは持っていける。どうなってんのか聞かれても分かんないからな」
十一階のものは外に持っていくことができる。
ループの時になっても外に持ち出していればループに巻き込まれることはない。
なら色々なものを十一階から持ち出してしまえばいいという考えもあるが、ループ後に十一階の状況も少し変わることがある。
それは持ち出したりしたものが影響を与えているのではないかという仮説が今は一般的である。
少し飲み食いした程度では影響はない。
けれどもあまり多くのものを持ち出して状況が変わりすぎると一から攻略の知識を溜めていくのも面倒である。
なので確実なことが言えるまでは大量の物資を持ち出すこともしないように取り決めがされていた。




