心臓を捧げよ1
「どわっ!?」
「にょわ!?」
もはや心地よさすら感じ始めた熱気と金属の音を感じて目を開けるとドアップで優斗の顔があった。
圭が驚いて飛び起きたものだから上に乗って寝ていたシャリンが跳ね飛ばされてびっくりした。
「あっと……悪いな。人を呼ぶとそこに出てくるらしい」
イスギスが作業を中断して圭の様子を覗き込む。
圭が寝ていた横に優斗が呼び出されていた。
イスギスがコントロールしているわけではなくイスギスの工房の中で圭がいつも現れる場所が圭の世界と一番繋がりやすい場所なのでそこに出てきてしまうのだ。
当然優斗も呼び出せば圭と同じ場所に出てきてしまうのも仕方ないことなのである。
「そいつが優斗か?」
「ああ、ここに優斗君がいるってことは賄賂上手くいったんだな」
「効果抜群だ」
イスギスは歯を見せてニカッと笑う。
優斗がいるならばどうだと結果を聞かなくても分かる。
お酒賄賂作戦は成功したのだ。
「むしろ酒をくれってうるさいやつまで出てくる始末だ。ほらよ」
「ん? なんだこれ?」
イスギスが投げた何かを圭は自然とキャッチした。
見てみると赤くて小さなビー玉のようなものだった。
「酒をくれってうるさくてしつこい奴が一人いてな。ただ今回のことに力を貸すこともできなさそうだから無視してたらそれやるからってよ」
「んでなんなんだよ?」
『エラー! 登録がありません!』
圭が真実の目で見ようとしても玉の情報を見ることができない。
登録がありませんなんて初めて見る。
「それを飲み込むととある世界で戦神だった奴の力を借りることができる。一度だけだが効果はあるはずだ」
「すごいものなんだな」
「ハチミツ味らしいぞ」
「へぇ……」
少し舐めてみようかとも思ったけどそれで効果発動してはもったいない。
圭は戦神の玉を収納袋に入れていざという時に使おうと思った。
「んじゃ追加のお酒も置いとくぞ」
新しく家に届いたお酒とか買い足したお酒もあるので出しておく。
「おぉー! ありがとう!」
『ヴェルガドザドルがお酒の匂いを嗅ぎつけました!
あなたに注目しています!』
「えっ?」
「おい! 人ん家勝手に覗いてんじゃねえよ!」
急に表示が現れて圭は驚く。
ヴェルガドザドルがなんなのか知らないけど圭の様子を見てイスギスが怒ったように天井に声をかけた。
「これって……」
「さっき言ってたしつこい奴だよ。どうやらお前が来るの見張ってたみたいだな。結構強い力持つ神なんだが……酒が好きらしい」
「注目されて大丈夫なのか……?」
「ウルセェ奴だけど悪神じゃない。あいつの世界も滅びたんだけど人間がいる世界でこちらの世界の人間にも好意的だ。注目されても悪いことはしないだろう。むしろ接触してくるかもな」
しばらく天井を睨みつけていたイスギスはため息をついて椅子に座った。
流石に一月も準備期間があった前回よりもお酒の量は少ないが、前にもらったものもまだあるので自分で楽しむぐらいもできるだろうと口の端が上がってしまう。
「にしてもそいつ起きないな」
結構騒がしくしていたのに優斗はまだスヤスヤと寝息を立てている。
「これ食べていい?」
「ああ、いいぞ。その代わりあいつ起こしてくれ」
「分かった〜」
シャリンがテーブルの上にあったお皿を指差した。
そこにはお酒のつまみとして炒った豆があった。
優斗も一応覚醒者である。
そう簡単には死なないと思うけどシャリンに任せて大丈夫かなと様子をうかがう。
「スゥー……起きろー!」
「うわっ!? 何、何!? 耳が……えっ!?」
優斗の耳に口を寄せたシャリンは声に魔力を込めて叫んだ。
少し離れていた圭ですら耳がキンとなったのだから間近で叫ばれた優斗は直接耳の中を殴られたような衝撃を受けていた。
加えて起きて目を覚ましてみると知らない場所にいるのだから混乱も大きい。
「あ、あれ? 僕、家で寝てたはずなのに……」
耳鳴りがする中で優斗はキョロキョロと周りのことを見る。
寝ぼけて自分の家の工房に来てしまったのかと一瞬考えたのだけど、自分の家の工房とは作りが違っている。
「おはよう、優斗君」
「あ、村雨さん……」
自分が初めて来た時もこんなんだったなと優斗の混乱を見ていて圭は思った。
「ここはなんですか?」
「前に言っただろ?」
「前に……まさか鉄鋼竜の?」
「その通りだよ。この人……が工房の主人のイスギスだ」
人と呼んでいいのか、それとも神様と紹介していいのか悩んだけれど人と呼んでもイスギスに訂正する感じはないのでそのままにしておく。
「あ、あなたが鉄鋼竜を扱える職人なんですね」
「ふっふっ、可愛らしいな」
「あ、え……」
可愛らしいと言われて優斗が顔を赤くする。
背が高く体つきもいい優斗はある程度大きくなってから可愛いなどと言われることはなくなっていた。
イスギスはかなり整った顔をしている。
綺麗なお姉さんに可愛いなどと言われて優斗も思わず照れしまった。
「ふふふ、これだけで顔を赤くするか」
顔を赤くしているのもまた可愛らしいなとイスギスは笑う。




