裏切り者、裏切られる2
「入り口的なものないな……」
ラーナノナイツを倒した圭たちは岩山を調べる。
けれど中に入れそうな穴なんかも見当たらない。
岩山からラーナノナイツが降りてきたことを考えるとモンスターと関わりがありそうなのにと首を傾げる。
「こっち側じゃないのかもしれないしね」
「確かにそうだな。ぐるっと回ってみようか」
たまたま圭たちがいるところにそうした中に入れるところがないだけの可能性もある。
岩山沿いに歩いていく。
岩山の周りは露出しているところがなくて血痕も見つからないので浦安がここに来ているかは分からない。
「圭さん、あれ」
「あっ、ゲート……それにモンスター」
圭たちは岩山に体を寄せて隠れる。
遠くにゲートが見える。
そしてゲートの周りにラーナノソルジャーやラーナノナイツが集まっていた。
ラーナノソルジャーたちはゲートの方を向いていて圭たちのことは気がついていない。
「モンスターが外に出てる……」
本来モンスターはゲートから外には出ない。
しかし圭たちが見ている前でラーナノソルジャーがゲートから外に出て行っているのである。
「お兄さん、あっちの方に穴あるぜ」
ラーナノソルジャーたちは数が多い。
バレて襲い掛かられたら戦うのはキツい。
一度撤退するべきかと悩んでいるとみんなよりも体を乗り出したカレンが岩山の中に入れそうな穴があることに気がついた。
「血痕もあるねぇ」
岩山の穴の地面に赤い点も見えた。
間違いなく浦安が中に入った。
ただ状況的にはあまり良くない。
モンスターの数も多く、ラーナノナイツの実力を考えた時にボスはより強いだろう。
周りにラーナノナイツのような雑魚モンスターもいると考えた時にはボスを倒すのは難しいかもしれない。
「やめろー!」
一時撤退を検討していると悲鳴にも近い叫び声が岩山の中から聞こえてきた。
「なんだ?」
しゃがれていない声なので浦安の方だ。
「走るぞ!」
ラーナノソルジャーが見ていない今なら穴までは行ける。
なんの悲鳴なのかは分からないが只事ではない。
圭たちは穴まで走って岩山の中に入った。
「明るいな」
岩山の中の天井には光る石が露出していて移動に困らないぐらいに明るかった。
「なぜこんなことを!」
中を進んでいくと浦安の声が聞こえてきた。
岩山の真ん中は大きな空洞になっていた。
上の方ではいくつも穴が空いているようで光が差し込んで薄暗いものの多少の明るさは確保されている。
圭たちが入ってきたところから逆側で浦安が地面に四つん這いに小さくなっていた。
薄暗いので分かりにくいが浦安の周りは赤い。
「血……?」
浦安の周り一面が血で濡れていた。
「うっ……うぅ……」
遠い上に薄暗くて表情はうかがえないが浦安は泣いているようだった。
「なんで泣いてるんですかね?」
「……分からない」
浦安の目の前にはカエルのモンスターがいた。
ラーナノソルジャーともラーナノナイツとも違うガマガエルのような顔をしている。
『ラーナノクイーン
カエルにもよく似た容姿を持つモンスター。
女王でありラーナモンスターの支配者である。
知能はそこそこあって強さもそこそこ。
群れの中で唯一のメスであり、他のすべてのオスに対して支配権を持つ。
貪欲さがあり、1日に大量のエサを食べる。
熱さに弱く、水が好き。
魔石はぬるっとした味がして、なんかケバケバしい味がする。暑い季節なら少しは美味く食べられるかもしれない。多少は美味いが好みではない』
「あれがクイーンみたいだな」
ラーナノクイーンの後ろには三体のラーナノナイツがいる。
敵対しているようではないけれどラーナノクイーンは浦安を見てゲッゲッと気味悪く笑っていた。
「……村上って人いないね」
他にモンスターはいないかと見回していた波瑠が気がついた。
浦安の姿があるのに一緒にいるはずの村上の姿がないということに。
「………………まさか」
浦安は何か布のようなものを抱えている。
血に濡れた地面、泣いている浦安、いない村上、服にも見える布。
「モンスターに……食べられた?」
誰もが口に出すのをはばかった予想を夜滝が口にした。
「……そんな」
「だがまあ、あり得ない話じゃない」
やめろという叫び声もラーナノクイーンが村上に手をかけたのを止めようとしたのだとしたら筋も通る。
「けどあいつらモンスターと敵対してないんじゃなかったのか……?」
「浦安は手を出される気配がないから敵対はしてなさそうだけど……」
「村上は別だった?」
「どうなんだろうな……」
何を聞かれてもここで答えを出せる人はいない。
村上はなんらかの理由でモンスターに襲われ、浦安はなんらかの理由でモンスターに襲われない。
「どうする?」
ここに浦安がいることは分かった。
そしてモンスターにも襲われなさそう。
それならば一度戻って大海ギルドなりと合流してからゲートを攻略したほうが安全かもしれない。
「何をしてんだ?」
またしても撤退を考えているとラーナノクイーンが急に空を見上げた。
ボーッと天を仰いだまま動かなくなった。




