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【第十二章完結!】人の才能が見えるようになりました。~幸運な俺はいい才能を持つみんなと一緒に世界を救う~  作者: 犬型大
第一章

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幸運の始まり3

「んーと、じゃあどうたらいいのかな? 通院とかのお金とか、慰謝料とか?」


 ぼんやりとお金で償うことは考えていたけれど金額とかどうやったらいいのかなんて皆目検討もつかない。

 そうしたことを補償しなきゃいけないという常識的な考え方は持ち合わせても細かいところに関する知識はない。


 専門の人にお願いするのがいいのだけど圭にそのツテもない。

 そして波瑠もなぜか保護者を同行させずに1人で来ている。


 2人ともどうすべきなのか判断ができない。


「とりあえず病院にかかるお金と不便にさせちゃうお金ぐらいは払って……あとはちゃんとした人を探して間に入ったもらうのがいいかな。あとは親御さんにもちゃんと謝罪しなきゃね。連絡先とか教えて……ええっ!?」


 最近研究を手伝っているせいかメモを取ることがクセになった。

 必要そうなことをメモして顔を上げると波瑠が涙を流していた。


 ギョッとした圭が慌てるが泣いた理由も分からなくてかけるべき言葉も見つからない。


「ご、ごめんなさい……」


 掠れるような声で波瑠が謝罪の言葉を口にした。


「何を謝ることなんて……」


 きっとケガをさせられた相手に1人で会いにくるのも、お金の話をするのも怖かったのだろう。

 緊張が頂点に達して泣いてしまっても責められる人などいない。


 圭が優しく声をかけるほど波瑠はうつむいて涙を流してしまう。


「違うんです……」


「何が違うんだい?」


 幸いまだ周りのお客にも波瑠が泣いていることはバレていない。

 こんな場所で制服姿の女の子を泣かせたなんてことバレればかなり社会的な信用が揺らぐことになる。


「私……私、ケガしてないんです」


「えっ?」


「ごめんなさい……私お兄さんのこと騙そうとしました」


 訳が分からない。

 どういうことなのか理解ができなくて圭も渋い表情を浮かべる。


「どういうことなのか、話を聞かせてくれるか?」


 ともかくなぜケガをしたとウソをついたのか聞かないことには怒るにも怒れない。

 もしかしたら圭に会いたい口実だったなんて可能性もほんのわずかにあるかもしれない。


「これ使って」


「……うう、ありがとうございます」


 圭はハンカチを取り出して波瑠に渡す。

 波瑠はハンカチで涙を拭いながらポツリポツリと事情を話し始めた。


 波瑠は足を痛めてなどいなかった。

 しかし痛めたということにして圭からお金を引き出そうとしていた。


 ようするに圭を騙そうとしていたのである。


「なんでそんなことを」


 人を見た目で決めつけるのは良くないけど見た目の印象では波瑠は真面目そう。

 遊んでいてお金を浪費していそうには見えず、まして人を騙すような子だとは思えなかった。

 

 仮にそうした子であるとしても圭が騙されてかけていたのだから泣き出して全てを打ち明けなくてもよかった。

 あのままもう少し押されていたら圭は波瑠を疑うこともなくお金を払っていた。


 ちゃんとした人を挟むつもりだったので後々はバレたかもしれない。


「お金が必要で……」


 波瑠の父親は覚醒者だった。

 小さな企業が作ったゲートの攻略をする小さいレイドチームに所属していた。


 ある日ゲートを攻略しにゲートに入った。

 しかし波瑠の父親は帰ってこなかった。


 原因は不明。

 ボスを倒して閉じられたゲートに飲み込まれたまま行方がわからなくなったのである。


 こういった時には残された家族のために覚醒者専用の補償や保険がある。

 なのであるが今回はゲートがすでに閉じてしまって死体も戻らなかった上にゲート内で死んだのは波瑠の父親による単独行動が原因だと主張した。


 死体を回収するどころかチームを危険に晒したとして批判までされた。

 なので波瑠たち家族には保険金や補償金が支払われなかった。


「お父さんはそんなことする人じゃない……」


 一度収まりかけた波が再び溢れる。

 会社と争おうにもお金もそんなこと頼める人もいない。


 波瑠は普通に暮らせるだけの家だったのに一転して生活が苦しくなってしまったのだ。


「私には弟がいて……もうすぐ修学旅行なんです」


 それでも生活はできていた。

 だけどギリギリだった。


 波瑠には弟がいて修学旅行の積立金の支払いが間近に迫っていた。

 父親を亡くしたこんな時だからこそ弟には苦労をかけず少しでも楽しい思い出になりそうなことをさせてあげたいという思いが波瑠にあった。


 デパートにいたのはアルバイトの面接のためだった。

 少しでもお金を稼いで弟の修学旅行の代金に充てようとしたのだけどデパートから不採用の連絡が来た。


 その時にぶつかった圭のことを思い出した。

 名刺には大企業のRSIの文字。


 波瑠は心に魔がさしてしまった。

 足をくじいたといえばお金で解決するのではないかと思った。


 どうしてもお金が欲しくて、なんなら最後の最後には多少体に触らせるぐらいの覚悟までしていた。

 だけどいざ圭に会ってみると真面目で優しかった。


 本気で心配して問題に真正面から向き合ってちゃんと償いをしてくれようとしていた。

 波瑠の良心がひどく痛んだ。


 圭がクズ野郎だったらよかったのにそうじゃなかったから騙すことに耐えられなくなってしまった。

 だから限界を迎えて涙ながらに懺悔した。

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― 新着の感想 ―
本当にクズ野郎だったら、ちょっと触る程度で済むわけもなく
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