フィールドワークもするのさ5
「幸い大きなケガではないようです」
圭の等級は低い。
耐久力は低いのだけどそのおかげでサイレント叫ぶイノシシの突進に対して変に力を入れて抵抗せずにいられた。
素直にはね上げられたためにダメージやケガが少なく済んでいた。
「ポーションで治癒能力を高めれば傷跡も残らないでしょう」
「動かしても大丈夫そうか?」
「はい」
「全員撤収! ゲートから出るぞ!」
圭は大竹が背負い、素早くその場から離れる。
またボスモンスターが戻ってくる可能性があるので圭を寝かせままにしておけないのだ。
ゲートの入り口まで戦いもなく帰ることができて外に出る。
テントの中に圭を寝かせる。
「申し訳ありません。こちらの落ち度です」
沈痛な面持ちで大竹が頭を下げる。
夜滝は少しでも圭が楽になればと膝枕をしていた。
「いや、君たちがしっかりと仕事をしていてくれたことは分かっている。
私も圭が叫ぶまで気づかなかったからな」
「まさかこのタイプのボスが姿を隠すスキルを使ってくるとは思いもしませんでした……」
姿を隠すスキルは希少で人でもモンスターでもそのスキルを使うものの数は多くない。
ましてイノシシのようなタイプの魔物であれば滅多にこうしたスキルを持つことはないのである。
C級の大竹や小橋でも簡単には感づくことができなかった。
それでも突進し始めればスキルが解けて気づけるのでもしサイレント叫ぶイノシシが夜滝ではなく捕獲チームの誰かを狙っていたら回避することも出来ていたはずだった。
「もっと細かくボスモンスターの調査をしておくべきでした……」
「そうしたって隠身スキルを持っていたか分かるかは怪しいさ」
ボスとして大きな叫ぶイノシシがいることは分かっていた。
しかし低級ゲートでもあるのでボスが特殊なスキルを持っていることを想定していなかった。
想定していても隠身スキルだとは思わなかっただろう。
「今後どうなさいますか?」
「圭次第だね」
「……分かりました。しばらく待機するよう伝えておきます」
大竹は大きく頭を下げるとテントを後にした。
「どうでしたか?」
「我々のせいではないと言ってくれている」
テントの外では他の捕獲チームのメンバーが待っていた。
「どちらかと言えば自分を責めているのかもしれないな」
圭は夜滝を守ろうとしてケガをした。
それを守るのが今回の捕獲チームの仕事でもあるのだけど夜滝は捕獲チームではなく自分のことを責めている。
「平塚さんと村雨さん仲が良さそうですもんね……」
小橋も心配そうな顔をしている。
時折圭が夜滝のことを夜滝ねぇと姉のように呼んでいることは知っていた。
苗字も違うし気になって聞いてみたら2人は姉弟ではないという。
つまりは圭が夜滝を姉のように慕っているとそこから先は聞かずとも分かるのだ。
ついでに夜滝が圭に対して甘いのも知っている。
夜滝は特に厳しい人ではないし圭もミスはしないので怒るようなことは発生しないが時として実験に夜滝がのめり込みすぎることがある。
そんな時でも圭が声をかけると夜滝はちゃんと休憩したり食事を取ったりする。
小橋としては夜滝が圭に気があるのではないかと思っている。
圭の方は親愛の情に近いと思うのでちょっとだけ難しそうなところはあるけどこっそり応援していた。
「しばらくは落ち込んでしまうだろう。あとは村雨さん次第なところがある。だから村雨さんが目を覚まされるまで待機だが、次にまた入る時のためにドローンを用意しておくんだ」
「分かりました」
隠身は強力なスキルである。
しかし弱点はある。
隠身スキルは人の目を騙して姿をくらますことができるスキルなのであるが機械の目までは誤魔化せない。
そこで隠身スキルに対しての対抗策は機械の目を通して相手を探すことになる。
調査用のドローンを組み立てる。
ゲート中の視界が良くてドローンを使うまでもないので使わないと思っていたが、思いがけないところで役立ちそうだ。
人の目は誤魔化せてもドローンを通してみれば隠身を使って近寄ろうとしてもバレバレである。
「それにしてもよく村雨さん気がつきましたね」
「確かにな。我々よりも早くボスモンスターに気がついていた」
「G級だって聞いていたんですけど意外と侮れないかもしれませんね」
「何かのスキルがあるかもしれないな。感覚を鋭敏にするようなものを持っているのかもしれない」
「なるほど。大丈夫だとは思いますけど村雨さん早く目を覚ますといいですね」
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「ん……」
「圭……!」
「夜滝ねぇ? あれ……ここは?」
「ゲートの外。テントの中だよ」
夜滝は何があったかを圭に説明する。
「そっか……ごめん、迷惑かけて」
「何を言ってるんだい!迷惑かけたのは私の方だ」
「そんなこと……あー、やめようか」
「そうだね」
昔約束した。
互い親がいない時でちょっとしたケンカになったことがあった。
といっても互いに自分が悪かったのだと主張して譲らずお互いに泣いてしまったという話。
終わらない責任の引き受けあいが始まってケンカしてしまうなんて変な言い争いだった。
その時にどちらも自分が悪いっていうのはやめようって約束した。
「じゃあ俺が偉い」
「そうだ、圭は私を助けてくれたんだろ?ありがとう」
そんな時は良いところを見つける。
悪いところじゃなくて良いところ見つけて褒める。
「ふふふっ、圭は昔から私を助けてくれるヒーローだ」
「夜滝ねぇだってたくさん俺を助けてくれたよ」
ぼんやりと会話を続けていたけど、頭がはっきりとしてきてようやく圭は自分の置かれた状況に気がついた。




