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神話級の幸運1

 夜滝の行動は早かった。

 一緒に寝るかい?なんて誘われたけど断って実隣の自室に戻って圭は寝たのだけど朝起きると夜滝は部屋にいなかった。


 昨日のことは夢だったのではと思いながらぼんやりとしていると昼前に夜滝が部屋を訪ねてきた。

 手には封筒。


 中身は何と契約書だった。

 夜滝は圭と別れた後すぐさま会社に向かった。


 そして人事に掛け合って圭を助手として雇用することを取り付けて契約書をさっそく持ち帰ってきたのであった。

 一応契約書に目を通してみるけど内容なんて頭に入らない。


 就職したくたって出来ない超一流企業と古ぼけた部屋の中で契約を交わそうとしている。


「君は私専属の助手になるんだ」


「じゃあこれまでとそんなに変わらないかな?」


「ふふっ、言うじゃないか?」


 一流企業と交わす覚醒者の契約はただのサインで終わらない。

 名前を書いた後ナイフで指先を切って契約書に血を垂らす。


 すると契約書が光って魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣の中に一瞬圭の名前が現れて、魔法陣が消えていく。


 魔法による契約である。

 力のある覚醒者でも簡単に契約を反故には出来なくなる強めの魔法が契約書に込められているのである。


「これで……いいのかな?」


「うん。


 よろしくね」


「よろしく、夜滝ねぇ」


 夜滝と握手を交わす。

 妙に夜滝も嬉しそうに見えた。


「じゃあ早速会社に行こうか」


「えっ?」


「寮の様子も見たいだろうし、契約書も渡しに行かなきゃいけないからねぇ。


 職場や仕事の細かなことも案内するよ」


「いきなりだね……」


「いつものことだろう?」


「まあ、そうか」


「行こう、私の助手君」


 夜滝の行動が突拍子もなくいきなりなことは昔からのこと。

 その行動の速さに救われたことも多くあるし、圭も勢いでやってしまった方が良さそうだと思っている。


 ちゃんとスーツの方がいいかなとか悩んだけど格好なんてどうでもいいという夜滝に引っ張られてタクシーに乗り込んだ。


「夜滝ねぇ近くない?」


「こんなものだろう?」


 タクシーの中で横に座る夜滝はまだスペースがあるのに圭にピタリとくっついている。

 圭はもう寄るところもないぐらいに詰めている。


 そうしてタクシーで走っていく。

 街並みが変わって大きなビルが立ち並ぶ中にある中でも広くてデカい建物がRSIであった。


 夜滝が社員証を見せて、圭は入館手続きをして中に入る。

 綺麗なスーツを着た人、高そうな装備を付けた覚醒者などが中にはたくさんいて、急に圭は自分がみずぼらしく感じられた。


「堂々と歩くといい。


 今日からここは君の職場にもなるんだ」


 自信をなくして丸まり気味になった背中を夜滝にばんと叩かれる。


「人に優劣なんかないのさ。


 みんな同じ人。

 見た目で劣等感を覚えたってしょうがないじゃないか」


「夜滝ねぇ……平塚さんって呼んだ方が……」


「ダメ」


「でも職場だし……」


「絶対にダメだ。


 苗字で呼んだらクビにするよ?」


「ええ……?」


 真剣な目をしてちょっとむくれ顔の夜滝。

 正式に上司になるわけだから上司を夜滝ねぇ呼ばわりはいけないだろうと誰でも思う。


 そういえば昔夜滝ねぇと友達の前で呼ぶのが恥ずかしくて平塚さんと呼んだら泣きそうな顔をして私が何か悪いことをしたかい?と詰められたことがあった。

 以来どこでも夜滝ねぇと呼んでいたけどそれは変わらないようだ。


「でも人前じゃあれじゃない?」


「……じゃあ人前では夜滝さんと呼びなさい。


 平塚さんだと距離があるようで嫌だ」


「分かったよ、夜滝ねぇ」


 呼び方1つでクビにされるのも嫌なので大人しく従っておく。

 夜滝さんならギリギリオッケーだろう。


 建物の中を夜滝と歩いていると周りの雰囲気が変わってきた。

 スーツの人が減って白衣を身に付けたり、中にはつなぎのようなものを着ている人もいる。


 RSIはモンスター素材の研究だけでなくて装備品や素材を使った技術の開発も行なっているので技術職の人も多い。

 研究棟という研究や開発を主に行うところに来たので人の感じも変わってきたのだ。


 スーツのビジネスマンよりもこちらの方が少し気が楽だ。


「平塚さん、お疲れ様です」


「ああ、お疲れ」


「そちらの方は?」


「新しい私の助手君だよ」


「そうなんですか、どうもよろしくお願いします。


 警備を担当している真坂と申します」


 軽く研究棟について説明を受けながら歩いていると制服姿の男性に呼び止められた。

 真坂はRSIに雇われている警備員で彼自身も覚醒者である。


 がたいのいい男性で笑うと白い歯が光っているようだ。


「平塚さん、井端さんが探していましたよ」


「イバッチが?


 ふぅーん、どうせまた小言だろうねぇ」


「それでは失礼します」


 真坂は軽く頭を下げるとまた施設内の巡回に戻っていく。

 競合他社や悪意を持った覚醒者の襲撃、あるいは突発的なゲートの発生や捕獲したモンスターの逃走など考えられる問題は様々あるので施設内にも多くの覚醒者が配置されている。


 この会社の中では下っ端に近いような警備の仕事だろうけどそれでも圭よりは遥かに強い人なのである。

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