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11.神の奇跡は地に砕けて闇へ堕ちる 3/3




 ……もしかして、また、助けられた……?


「ヴィリッグ?!」

 マルティーヌの驚く声が聞こえる。


 ……彼と知り合い?


 ヴィリッグは私と目が合うと一瞬だけホッとしたような表情を見せ、すぐに険しい表情に戻った。


「……これは何の真似だ、ゴードン」


 静かな怒りを湛えた低い声だった。

 その声に気圧されたように大司教は一歩後退り、

「も、申し訳ない! 私の失態だ!」

 焦った様子で深々と頭を下げる。


 ゴードンというのは大司教の名前?

 大司教を呼び捨てにしたの……?!


 それを見た学院長は顔を青くし、慌てた様子で頭を下げる。

 大司教はともかく、学院長が頭を下げていることに驚きを隠せない。

 この人はいつも高圧的で、他人を見下している印象しかなかったから。


 しかし、今はそれよりも、どうして、ヴィリッグがここに……。



「気がついたか?」

「え? あ……え、ええ……」


 すぐには彼がかけてきた声の意味がわからず、間の抜けた返事をしてしまった。

 自分の置かれている状況は、いまだによくわかっていない。

 とりあえず、体勢を立て直さなければ……。


 自分の足で立とうとするが、うまく力が入らない。

 手間取っていると、彼は私の様子を見て心配そうに顔を覗き込んできた。


 ――近……ッ?!


 驚いて反射的に後退ってしまい、力が入らず倒れそうになり――逆に、しっかり抱え込まれる結果になってしまった。


 ……体温を感じる。

 顔が熱い。

 心臓の音がやけにうるさい。

 体が強張って動かない。

 ……ああ、そうだわ、まだ先ほどの恐怖が残って……。




「ヴィリッグ! そんなに乱暴にして彼女が困ってるじゃないの!」


 マルティーヌが彼の行動を非難する声が耳に入ってきた。

 悪いのは彼ではないわ。早く離れないと……。


「女の子には優しくしないと嫌われるわよ。貴方、乱暴すぎるわ!」

「お前に女の子の何が分かるって?」

「少なくとも、貴方に女の子の気持ちを理解するのはまだ早いってことぐらいはわかるわ」

「ちぇっ。俺だって分かってないわけじゃないさ」


 2人の気安いやり取りが少し羨ましい。

 私にはこんな風にやり取りのできる友人なんていなかったから。


 ……などということを考えている場合ではないわ。

 ヴィリッグがマルティーヌとの会話に夢中になっているからか、私を抱きしめている彼の力が弱まらない……!





「――お嬢様をお放しください」

「あ……わ、悪い!」


 リリィの一言で我に返ったのか、ヴィリッグが慌ててリリィへ後を引き継いでくれた。


 リリィはあの陣の中にいなかったから無事だったのかしら?

 それにしても、そこはかとなく剣のある声だったような気がしたけれど……気のせい?

 リリィはいつもと変わらない無表情……。

 気のせいよね、きっと。


 この子がヴィリッグに警戒心を抱く理由なんて、ないもの。


「いえ、こちらこそ……ごめんなさい、迷惑をかけたわ」


 リリィとマルティーヌ、そしてヴィリッグにお礼を言って姿勢を正す。

 まだ少しふらつくが歩けないほどじゃない。はやく検査の続きをやらなければ――と考えていると、ヴィリッグと目が合った。

 柔らかい表情――……。


「本当に大丈夫か? 無理すんなよ?」

 そう言って心配そうに、優しい眼差しでこちらに向けられるその温かさに、不覚にも胸が高鳴る。


 ……きっと気のせいだわ。それより。


「なぜ、あなたがここに? ここは学院関係者以外立ち入り禁止なのでは?」

「ああ、それはな――……」

 返事をしながら鋭い視線を大司教と学院長へ向ける。

 一瞬でまとっている空気まで鋭く冷たいものに変わるものだから、突き刺された彼らだけではなくこちらまで背筋が凍りそうになる。


「も、申し訳ない! 私が用意する陣の指示を誤ってしまったらしい……。決して、悪意があったわけではない! 本当だ! 信じてくれ!」


 私の記憶では、大司教という位は枢機卿に次ぐ地位にあるはず。

 いくら冒険者が教会の配下にないと言っても……立場を全く顧みない振る舞いをする者がいて、その者相手に大司教が青い顔で必死に頭を下げているなんて……。

 一体、何が起こっているの? ――と、そちら方面にばかり考えがいって、肝心なことを見失っていた。


 あれは……事故?

 でも、()()光景は……それに、リリィも何か気になることを――




「信じろ? 何をだ? ……()()を、か?」


 言いながら、ヴィリッグは台座の上に乗っていた水晶を片手でつかみ取り、そのまま――壊した。

 彼が手にすると同時に中心に光が生じ、全体に広がると同時にひび割れて粉々に砕け散ったのだ。

 同時に湧き出た()()影のような()()を全て自身の拳に取り込み、最終的に何事もなかったかのようにそこに立っている。


 目撃した皆――リリィ以外――が、その現象に驚きを隠せない。


 私にも分かるのは、彼が()()をしたということ。

 だから、()()なった。

 けれど、大司教と学院長の反応を見る限り、彼らにもできないことをやってのけた?


「何を……したの?」

「ん? ああ、俺は冒険者だからな。この程度の修羅場なら慣れてる」


 なんということもなさげな調子で言ってのけるけれど、本当に?

 冒険者の基準で語られても、私には分からない。


「――で、こんな物騒な闇が出てくるような水晶を、覚醒もしていない学生に扱わせようってのか? 死んでてもおかしくなかったのに?」


 ()()()()()?!


「そ、それは……」

 大司教が一歩後退った。その態度から察するに事実なのだろう。


「さて、これが何だか分かるか?」


 言いながらヴィリッグが取り出したのは……水晶玉だ。

 学院長が用意していたものと同じに見える。

 当の本人である学院長も凝視している。

 遠目にも分かるほどに青い顔で体を大きく震わせ、今にも倒れそうな様子で。


「本物の『資質検査用』の水晶だ。これがなきゃ話になんねえだろ。なぜか、学院長室に置きっぱなしになってたけどな?」


 答え合わせをするように、ヴィリッグは皆に見えるように水晶玉を掲げ、ゆっくりと台座へ降ろす。

 鋭く睨みを利かせた相手は、大司教ではなく学院長。


「そ、それは……!」


 学院長の顔に焦りが浮かぶ。


「検査に不備がある上に管理も杜撰ときた。……やる気がないのか? それとも、別の目的でもあるのか?」

「そ、そんなつもりは! わ、わたくしはただ……聖リヴェル学院の未来を思って……!」

「未来を思って無垢な子どもへ、死ぬかもしれない無意味な茶番を強いるのが、あんたの意思か?」

「違います! わたくしはそのような――」



「いい加減にしろ!!」


 ヴィリッグの一喝に、学院長は雷に打たれたように身を竦ませる。


 私も驚いた。

 彼のこんな声は初めて聞く。



「……申し訳、ございません……」


 ()()学院長が謝罪を――?!


 ……大司教の態度もおかしかった。

 もしや、冒険者とはそれほどまでに位の高い職業なの?

 それなら、私の耳に入っていてもよさそうなものだけれど……私はそれほどまでに、周りから侮られていたの……?



「……俺に言っても仕方ねぇだろ」

 一段と低くなるヴィリッグの声。


 正体がバレたら、いつか、この声が私にも向けられる日が来るかもしれない。



「申し訳……ありません」


 私に対する屈辱と怒り、そしてヴィリッグに対する恐怖と焦りが、学院長の声から伝わってくる。


 心の底から謝罪しろ――というのは無理な話ね。

 それでも頭は下げた。



「お前も同罪だろ。人ごとみたいな顔してんじゃねえよ」

 今度は大司教へヴィリッグは怒りの矛先を向ける。


「あ、ああ……すまなかった、ベアトリス・カース」

 ヴィリッグに言われ、バツが悪そうに頭を下げる大司教。


 ……上下関係が全然分からないわ……。でも、今はそれよりも。


「大司教……様、資質検査はやり直していただけるのですか?」

「あ、ああ。私の責任において再検査を行おう」


 再検査をしてもらえるなら、それでいい。


「ベアトリスはそれでいいのか?」

「ええ……ありがとう」

 初めて会った時からそうだったけれど、ヴィリッグはずいぶんと面倒見がいいのね。

 大司教には塩対応みたいだけれど。



「……なら、いいさ」


 満足した、というわけではないだろうけれど、ヴィリッグはこれ以上追及しないことにしたようだ。

 これで、ようやく再検査が始められる。


 ……()()は問題ない陣が使用されているのよね……?





「ゴードン、展開しろ。確認させてもらうぜ」


 ヴィリッグがそんなことを言い出したのは、私の懸念が顔に出ていたからかもしれない。

 大司教は彼の言葉に頷き、ヴィリッグの足元に魔法陣を展開した。

 動き事態は先程、私が見たものと同じだ。

 けれど、魔法陣の中にいる彼は苦しそうな素振りを見せない。

 黒い影がすぐに白に置き換わり、彼の拳に吸い込まれていった。


 今度の陣は問題なさそう――と思っていたら、彼の周囲にキラキラとした小さな光が舞っていることに気づいた。


「よし、陣に問題はないな」

 ヴィリッグの声に、その場にいた全員がホッと息をつく。


 あのキラキラはいいのね。

 正体が気になるけれど……いつか教えてもらえるかしら。

 今は、再検査に集中しなくては。

 せっかくヴィリッグが気遣ってくれたんだもの。





「では、資質検査を再開する」

 大司教は威厳を取り戻そうとしているのか、背筋を伸ばし胸を張り声を大にして宣言した。



 再び現れた魔法陣の中央へ立つ…………ええ、大丈夫。


 今度は()()感じない。

 驚くほどに()()()()で、()()変化もない。

 先ほどヴィリッグが立ったときはすぐに影が出てきたのに、何も出てこない……?

 あの影は一度食らったら、もう出てこない仕様なのかしら?



「……()()は……いや、どういうことか……」

 大司教が驚きを隠せないでいるようだ。


 まさか、付与できる属性さえないとでも言うの……?!



「……これは……いや、しかし……どう読み解くか……」

「早く! もう結果は分かったのでしょう?! それならば一刻も早く判定をお出しなさい!」


 大司教は考え込み、学院長はヒステリックに喚き散らす。

 冒険者(ヴィリツグ)はともかく、学院長は絶対にそのような物言いを大司教へ許されている立場ではないだろうに。


「ベアトリス・カースよ。申し訳ないが、しばしそのままで願おう」

「分かりました」


 その後、何度も陣を展開し直していたが、変化は訪れなかった。

 やがて大司教が困ったように眉を下げながら口を開く。


「ふぅむ……このような事例は初めてですな……まるで()()……いや、そんなことは()()()()()! なんと()()()()……」


 何が()()なの?

 同じではいけないものが、同じなの?

 ()()()()……って何が?

 ……まさかとは思うけれど、神の裁きに関係のあること……?


 ・

 ・

 ・


 どれほどの時間が経ったのか。

 ついに考えが纏まったらしい大司教が顔を上げる。


「……『判別不能』とさせていただこう」

「な、何ですって?!」


 誰よりも早く誰よりも激しく動揺を示したのは学院長だ。

 そんな学院長とは対照的に、落ち着いた様子でヴィリッグが問い掛ける。


「どういうことだ?」

「……神の因果が幾重にも重なり、この娘自身の資質が覆われているのです。今の彼女は純度が高すぎる……。教皇様より純度が高いなどありえない……」

「そのような状態ではこの学院に置いておく訳にはいきませんわね! あなたの入学は取り消しとするしかありません」


 大司教の言葉に、学院長の目の色が明らかに変わった。

 彼女には大司教の言ったことの意味が正確に通じたということ?

 嘲笑するようにこちらを見る学院長の顔は醜悪なものだ。

 今更ながらにこの人から向けられている悪意の強さを理解した気がする。


「それを認めるわけにはいかん」


 学院長の意見に異を唱えたのは大司教だ。

 こちらの味方になってくれるのなら心強い。


「なぜです?! ありえない結果が出たのですよ?! 何かよからぬことをしたのでしょう! そのような者をこの学院に置いておくわけにはまいりません!」




「……繰り返しの狂言は趣味じゃねえんだが?」


 ヴィリッグのキツめの一言で、場が静まり返る。

 学院長も大司教も、ヴィリッグの放つ威圧感に気圧されていた。


「魔力がないとは申しておらん。このような場合、適切に導くためにも学院へ籍を置くべきだろう」

 大司教もヴィリッグに加勢し、何とか学院長を説得しようと試みるけれど、

「しかし――」

 学院長は何が何でも反対したい様子。



「……君は些か個人的な感情に支配され過ぎではないかな? 学院長の任が辛いと考えているのなら、こちらはいつでも対応する用意があるが?」


 大司教が学院長へ些か強めの口調で告げる。

 これは予想外だわ。私を庇い、学院長を訓戒するなんて。


「くっ……分かりました。そこまで言うのであれば学院に籍を置いても良いでしょう……!」


 流石にこれ以上は立場が危ういと理解したのか、学院長は渋々承諾してくれた。

 苦虫を噛み潰したような表情ではあったけれど。



「さて、ベアトリス・カース。君の身には魔力とは似て非なるものが宿っている」

「魔力とは似て非なるもの……ですか?」

「そうだ。魔法とは神から作られた者たちの恩寵であり、それは決して神と同質ではない。……教皇猊下でさえ……」


 徐々に自信がなくなってきたのか、大司教の言葉が少々心もとなく聞こえる。


「今の君に属性を付与することは極めて危険だ。場合によっては、神の怒りを買う危険性がある。……いや、これは私の考えすぎかもしれないが……」


 神()怒り?

 ……神()()怒りなら、売るほどあるけれどね。


 けれど、それだと私は魔法が使えないまま……?!


「――待ってください! このままでは私は魔法が使えないということなのですか?!」

「落ち着き給え、そうではない」


 落ち着けですって?!

 何も知らないから、そのような悠長なことを――!


「君の身に極めて純度の高い『聖なる魔法』が備わっているのは事実だ。それを鍛錬するのだ。それが一番安全だろう」


 聖なる魔法を……?

 マルティーヌが使っていた……あの力を?


「使いこなすことができれば、君は歴史に名を残す『偉大なる大聖女』となることも夢ではないだろう」


 これはお世辞?

 ヴィリッグに対する恐怖がまだ消えていないようだし……話半分に聞いておいた方がよさそうね。


「ええ、承知いたしました」


 私の返事に、大司教が安堵の様子を見せた。

 

「今は全世界で()()の枯渇が危惧されている。君の資質はこの状況を打開する鍵になるのではないかと、私は思っているよ」


 そんな多大な期待をかけられても、困る。

 魔力の枯渇問題なんて、ヴィリッグから初めて聞いたくらいなのに。

 『神の裁き』と『資質検査』のせいで、魔法が嫌いになりそうだというのに。






 色々と問題のあった私の検査はこれで終了した。

 さて、次は――


「さて、では次はリリィ・ガーデン。こちらへ」

 リリィの番だ。部屋の端に寄り、彼女の動向を見守ろうと考えていたら、

「私は結構です」

 リリィがまたしても予想外の発言をした。

「は? あ、いや、しかし――」

「私は大丈夫ですので」

 相変わらずの無表情で、大司教の方がやりにくそうにさえ見える。

「ううむ……しかし……」

「私には必要ありません」

 頑として聞き入れない様子のリリィに、とうとう大司教は諦めて溜め息を吐くと私の方へ向き直った。

「はぁ……分かりました。さて、これで両名の『資質検査』は終了です」


 リリィは検査を受けない?

 いいの? 大丈夫なの……?


「受けないんだ……」

「受けねぇのか……」

 横でマルティーヌとヴィリッグが、ほぼ同じタイミングで呟いていたのが何だかおかしかった。



 学院長は私の時とは異なり、異論を挟むつもりはないらしい。


 あれだけ検査の結果次第では「退学! 退学!」と騒いでいたのに?

 一日二日しか経っていないというのに大した嫌われようね。

 この短期間で私の何が彼女をそこまで刺激したと――まさかフローラの件?

 フローラを敵に回しただけで、あの有様に?

 大の大人が?


 学院長という責任ある立場の人間が?






「彼女の魔力は測定するまでもなく問題ありません。聖女マルティーヌ、それは貴殿にもお分かりだったのでは?」

「確かに、彼女の魔力量は高いですね。でも、聖なる魔力とは別物に見えるわ。だから『資質検査』で新しい発見があるかと思ってたのに。残念です」


 残念と言う割に、マルティーヌの表情は明るい。


「じゃあ、お二人に聖女代表として挨拶をして、今回の検査は終わりね」


 大司教と彼女との間で少々気になる話題があったけれども、無事に終わったと見ていいだろう。



「こほん。2人とも、ようこそ聖リヴェル学院へ。改めて名乗りを上げさせてもらうと、私は第546代聖女マルティーヌ・オズクル」


 淑女の礼をとる彼女はまるで、どこかの姫君のようだ。

 持って生まれた美しさは勿論、溢れる気品も周囲を魅了して止まないだろう。


「この学院には未来の聖人・聖女が集まり、お互いに切磋琢磨することを望まれています。そういえば2人は王都から来ていたわね……聖人・聖女の本来の仕事を知っているかしら?」


 戦争の道具、王家の駒……と言うと語弊があるのは分かっているのだけれど、私達はそう教わってきた。

 これが教会と反目し合っている根本原因だとは思う。

 ここへ聖女を奪うために侵攻した過去もあるようだし……。

 なんと答えたらよいかしら。



「いいえ……分かりません」

 分からない事は正直に答えるしかない。

「私も分かりかねます」

 私とリリィが首を振るのを見ていたマルティーヌはにっこり微笑んで続けた。


「聖女、聖人の一番大事な任務は『星結界』の維持」


 星結界? 初めて聞く言葉だわ。


「この世界は、結構危険な場所に存在しているの。結界の外は死の世界――と思ってもらって構わないわ」


 死の世界って、何?!

 そんな危険な場所に……本当に?

 困惑が伝わってしまったのかマルティーヌは優しく微笑んでくれた。


「大丈夫、安心して! ここは安全よ。私達がいるし、この安全を守る為の『星結界』があるもの!」


 私では理解が追いつかないわ。

 これがもし、私の家族たちなら……全てを理解し、適切な対応ができるのだろうか。


 ――でも、ここで弱音を吐く訳にはいかない。



「そうだわ2人とも、これはちゃんと持って来ているかしら?」

 マルティーヌは首に懐中時計をかけていたらしく、それを手に取ってみせた。

「この学院で生活する上で、この懐中時計はとても大切なものよ。魔力があろうがなかろうが、これを使えば『聖なる魔力』の発動が可能になるという特注品。先代の聖女様が造られたの」


 胸を張ってとんでもないことを言い出した。

 そのような便利な代物があるのなら、魔力の枯渇問題とやらは問題にもならないのでは?


「聖なる魔力を目覚めさせるきっかけとなるアイテムと捕らえて頂戴。入学時点で聖なる魔力に目覚めている人なんていないから……普通は……」


 私は例外的な実績を残してしまったらしい。


 それはともかく、教会は人工的に聖女や聖人を作り出そうとしているのかしら?

 確かに、偶発的に生まれてくる者を待つだけでは、時間がかかりすぎる。


「というわけで、これはこの学院で生活する上でとても大切なものだから、くれぐれも、取り扱いには注意してね?」

「……はい!」

「そんなに気負わなくっても大丈夫よ? まあ……聖女目指して、頑張るのよ!!」

「おー」

 え、リリィ……?


 無表情のまま握り拳を頭上に掲げ、無表情で気合いを入れるリリィ。


 え、ええ、そうね。やる気があるのはいいことよね?

 私も頑張らなければ……!


 ……あの男(ロベルト)から逃げて、権力の及ばない治外法権(城塞都市)に逃げ込んで、聖女を目指している。

 神の裁きを受けた私が。


 けれど聖女になれればきっと、きっと――――――




 マルティーヌの話が終わり、最終的に大司教がこの場を締める挨拶を行い、資質検査は終了となった。

 聖なる魔力の鍛錬は『聖秘学』の授業で受けられる。

 しばらくは周りの学徒に追いつくために補習が必要となるけれど、ひと月ほどで追いつけるようになるだろうと大司教は仰った。


 ……一ヶ月か。

 私は一ヶ月後も、ここにいられるだろうか。








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