表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

策士な王太子の初恋は婚約破棄された令嬢

作者: 七海七雪

「ユーフェミア・アンダンテ侯爵令嬢!アンネ・スミール男爵令嬢をいじめたことにより婚約を破棄する!」


やりましたわね、殿下。

哀れみの目で彼を見る。 


私はユーフェミア・アンダンテ。アンダンテ侯爵家の長女ですわ。

ちなみに、卒業パーティーだというのに、さっきからそこで叫んでいる男はロイネット第二王子殿下です。

賢王と称される陛下や優秀と謳われている王太子殿下に全くと言っていいほど似ていない王子なんですの。


「ロイネット様、私怖くって」


スミール男爵令嬢が殿下にしなだれかかる。

涙目を装っているものの、私を見てニヤリと勝ち気に微笑む。

人の男をとるとんだ子猫ちゃんだこと。

勝ったとでも思っているのでしょうね。可哀想に。

ほぅとため息をつく。 


「アンネ、僕が来たからにはもう大丈夫だからな!」

「ロイネット様、かっこいい〜!」


イチャイチャは自分の家でやっていただけます?

何なの、この茶番劇は。


「ほら、アンネはこんなにも怖がっているんだぞ!っていうかユーフェミア、ちゃんと聞いているのか!?」


ええ全く聞いてませんよ。時間の無駄でしょうし。


「恐れながら、殿下。私が虐めたという証拠でもお有りなのですか?」


まあ、私は虐めていないのだからそんな証拠などあるわけないでしょうけど。


「アンネが、君から教科書を破られたり水を掛けられたり階段から落とされそうになったと証言したんだ!言い逃れはできないぞ!」


こんな馬鹿が私の婚約者だったなんて恥ずかしいですわ。

まったく…今までどんなお勉強をなさられてきたのかしら。疑問に思うわ。 

被害者からの証言など通用しないというのに。


「なぜ私が虐めなければなりませんの?」


「俺と仲良くするアンネに嫉妬したのだろう」


はっ?私があなたのこと、好きだと思っていますの?


「違うのか?」


この言葉には驚いた。


「私達の関係は政略ですもの。好きとかそんな感情ではなく、義務感によるものですわ」


ロイネット殿下が顔をしかめる。どうしたのでしょう?


「そ、それに王子妃になるためにアンネを蹴落とそうとしたのだろう」


「お言葉ですが、スミール男爵令嬢を蹴落とそうとするならば徹底的にやりますわよ。やるのならば、我が家の傘下の商会でスミール男爵の知己の商会を潰すでしょうね」


「ユーフェミア様、酷い〜!!」

「おまえには情がないのか!」


やるのならばと言っただけで、別に本当にやるわけではないのに。

ただ、言いたかったのだ。

私はスミール男爵令嬢に嫉妬して虐めをしていたなんて回りくどいことなどせずとも、スミール男爵家を取り潰すこともできるのだということを。

私にも貴族のプライドというものはありますのでね。

嫉妬心から、ちまちまいじめるよりも徹底的にスミール男爵家を潰す方が簡単ですし。


「ちなみに第三者からの証言は無いんですの?」


「アンネの言葉を信じられないとでも言うのか!爵位によって差別するなど、王子妃の器では無い!」


ため息しか出ませんわ。

周りの子息令嬢達もお可哀想に。

こんな茶番に付き合あわされているんですもの。

後日、謝りに参りますわ。

うちの馬鹿が申し訳ございません。


「ユーフェミア!聞いているのか!?」


うっさいですわ!この馬鹿王子!

こっちはそれどころでは無いんですのよ!

あなたがかけた迷惑のせいで謝りに回らなきゃならないんですのよ?

少しは今の立場を自覚してくださいませ。


「人の話も聞かないおまえにはこうする!!」


ロイネット殿下が殴りかかってくる。

殿下、私はあなたをそんなふうに育てた覚えはございませんよ。

私は母親ではありませんけど。



「何をやっている!ロイネット!」

「兄上!なぜここに…」


殴りかかってくる殿下を止めたのは、王太子殿下だった。


「おまえが騒ぎを起こしていると聞いて止めに来たのだ。そんなことよりも、女性に殴りかかるなど言語道断だ!」


この紳士な兄にして、どうしてこんな馬鹿な弟ができたのかしら。不思議に思うわ。


「兄上!ユーフェミアはアンネを虐めていたんですよ!?王子妃に相応しくない!」


はぁとため息をつく王太子殿下。

大変ですねと同情の眼差しを送る。

優秀な方ではありますが、それ故に、面倒ごとばかり起こすロイネット殿下に振り回されてる不憫な方ですわ。


「アンダンテ侯爵令嬢には王家の影をつけている。影からはアンダンテ侯爵令嬢がスミール男爵令嬢を虐めたという報告はされたことがない」


「なっ、王家の影!?」


王家の影。王族を守る護衛であり、王家に有益な情報を集める人達である。

王家に忠誠を誓い信頼を得ているため、王家の影からの情報とならば信じないわけにはいかない。


「次期王弟妃であるアンダンテ侯爵令嬢の貞操を守るためだ。

別に何もしなければ、影とて護衛のようなもの。

準王族のアンダンテ侯爵令嬢は王家の一員だしな」


影が付けられていたなんて、私、知りませんでしたわ。


「それにしても、まったく。おまえには失望した。

アンダンテ侯爵令嬢に嘘の罪をなすり付け婚約破棄し、挙句の果てには殴りかかろうとするなど…

王子の器では無い」


「兄上!お助けを…」


馬鹿なロイネット殿下も理解したのだろう。

『王子の器では無い』と言われることが王族の籍を抜くことだということに。


「衛兵!ロイネットとアンネ・スミール男爵令嬢を拘束せよ!」



「すまない、アンダンテ侯爵令嬢。ロイネットのせいで…」


「いえ、助けていただきありがとうございます」


へにょんと頭を下げる王太子殿下。


犬の耳が垂れ下がっているような感覚に陥ってしまう。

子犬系男子なんですか!?

かっわい〜!


「その代わりと言ってはなんだが俺と婚約してくれないか?」


「ふえ?」


キャー!! 変な声出ちゃいましたわ!


「可愛い。アンダンテ侯爵に明日にでもお伺いするから考えておいて?」


ふわりと微笑む王太子殿下。

でも、瞳は笑っていない。

王太子の瞳はどこか捕食者のようで、私は食べられてしまうと本能的に思ってしまった。

さっきの子犬系男子はどこに行ったんですの!?


「ロイネットには感謝しているよ。あいつのおかげで君を捕まえることができるからな」


えっと? さっきから頭の上が?でいっぱいですわ。


「逃さないから。安心して捕まえられて?」


去り際、王太子殿下に囁かれる。


「の、臨むところですわ!」



 ···私は知らなかった。

王太子殿下の初恋が私だということも、ロイネット殿下の浮気が王太子殿下の張った罠だということも。

そして、初恋を拗らせまくった王太子殿下が私を溺愛してくることも。


 ✢ ✢ ✢ ✢


  (父親達の会話)

国王:「いやー、ファイルの初恋が実ったようで良かったよ」 


侯爵:「ミアが人身御供になったじゃないですか!」


国王:「ロイネットの妻よりファイルの妻になって次期王妃になる方がマシだろう」


侯爵:「王族との婚姻が無しになるという選択はないんですか… だいたい、殿下にミアとの婚約をゴリ押しされたんですよ?軽く脅されましたし」


国王:「ユーフェミア嬢を婚約者にできるとなってはしゃいだんだろうなー」


侯爵:「ミアには結婚しないでずっと家にいてもらっても良かったんです!」


国王:「親バカじゃないか」


侯爵:「ミアが可愛いのは当たり前です!」


国王陛下、宰相である侯爵に侯爵令嬢の可愛さと王子の愚痴を延々と聞かされることになる。

それはまた、別のお話で。


アンダンテ侯爵は宰相をしています。

ファイルこと王太子殿下は父親の職場訪問をしていたユーフェミアに会い、恋をします。

でも婚約者になったのは弟···

よくこれでひねくれなかったなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これ国王が全ての元凶じゃ…
[一言] まさか王太子によるハニトラだったとは… 腹黒くて実にイイ!(笑) 後継争いとかじゃなくユーフェミアを獲る為にハメられたロイネット君はお気の毒に…(笑) そして…ユーフェミア…お幸せに!(笑)…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ