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第五十話




中々いい拾い物をした。あの人らはちゃんと保護しよう

森を駆け抜けながらそう思えば下から嫌そうな唸り声が聞こえた。…使えるものは使わなきゃ損でしょ、唸らないの


私を危険にしたくないからと口を噤んだ奴隷商。…知らない、分からないというのは絶対的な守りになる


勿論、虚偽の場合もあるけど……まぁ、それを見抜くのは私の仕事じゃないし、今回は捕縛が仕事だ

これなら今日中に捕縛出来そうだし、あの奴隷商から話も聞けそうだ。……持ってきたロープ足りるかな。足りなかったらフロウに固めてもらおうかな

神父様たちは今頃何をしてるのだろう。…神父様の屋敷があるなんて初耳だったし、私も行きたかったが……まぁ、早く此方が片付いたらきっと連れてって貰えるだろう。………多分




「ん……クーアにスィーン。道案内に来てくれたの?」



「ピロロロ!」



「…え?他の群れが何で?………………あ、そう…いや協力してくれるならそれに越したことはないんだけど…」



「ピロッ?」



「契約?…しないよ。私は君達で足りてるもの。それに私を馬鹿にしたからクォーツにこてんぱんにされたんでしょ?…じゃあやだ」




二人曰く、探索中にまたこの間難癖付けてきた群れに襲われ、また返り討ちにしたのはいいが……なんでも、その群れのボスが飼い主、つまり私のことを何か馬鹿にしたらしくクォーツがぶちギレ……まぁ、再起不能になるまでボコボコにしたらしい


借りにも兄弟だというのに手加減が一切無かったらしい


うちの子そんなに過激派なの?……………いや筆頭がいま私を運んでるか


命までは取らなかったが…その代わりにどうやらクォーツの強さに惚れ込み、それを従えてる私になら仕えてもいいとなったらしく…知らないところで尊敬を集めてるのにはびっくりだけど、私からすれば虫のいい話なので却下


たが勝手に協力してくれるというならそれはそれで構わない。変な動きをすればクォーツにまたしばかれるだろうし


嬉しそうな二人は美しく少し囀ずると道案内もやはりしてくれるようでフロウの先を飛んだ


暫し走ればゆっくり減速し出し、足音を消し出したフロウ。…本気の速度ではないが充分に速いほどだし、やっぱりフロウってば身体強化が使えるのかもしれない。…あとでゆっくり検証しよう


既に小屋が見える位置に来ており、クォーツ達も木に止まって到着を待っていてくれたらしい。…見覚えのない五羽が言ってた群れかな?




「クォーツ、新しく契約はしないから統率は取って。邪魔するようなら任せるね」



「ピロロロッ」



「ありがと。……誰か出てきたりとかは………そっか、してないんだ。じゃあ全員中に居ると見た方がいいかな。…魔術師、居ないといいなぁ…」




薄く、薄く。魔力の波を小屋へ向けて飛ばし、意識する。…魔力が高いけど、反応する人が居ないから魔術師は居ないっぽいな。魔力が高いだけなら無駄に波形が大きくなるだけで分かりやすいから助かる。…入り口付近で佇んでる二人は護衛か何かか


それに……部屋の奥。隅に身を寄せる魔獣達。…この子達が奴隷商が護衛にと預けた魔獣達なのだろう。…個々、感じる魔力の大きさはバラバラで…私の事に気付いた子もいた。一瞬顔を上げたのか大きく動いた子が居るからね。…その動きでバレてないといいなぁ


探査して直ぐに飛び出ていくとリスクもあったので体感で五分ほど茂みに隠れ……もう一度魔力を飛ばして確認する


……うん、人の動きはあるけど、魔獣達は大人しくしてくれてるっぽい。…でも人質に取られるのは厄介だな…ぐったりしてる様子はなんとなく分かるし、…たんに魔力不足の子も居る


可能ならば、魔力不足の子を一時契約して隅に固まってる子達を守って貰いたい。…それができなきゃクォーツ達じゃないペイルウィング達に頼むんだけど……どっちも不安要素がなぁ……


従魔術というのは少し特殊な魔術で…従魔本人が契約者を別にしたいという意志と元々掛かってる従魔術を破る実力があれば契約を更新できる

召喚術、というジャンルもあるらしいけど、そこが従魔術と召喚術の違いでもある


従魔術は何よりも術者と従魔の相性、経験に大きく左右される。勿論術者の魔力が高ければ高いほど、従魔を増やせるし、サポートもこなせる


そして適正があれば、親から子へ、師匠から弟子へ、従魔の譲渡も可能。…つまり、必然的に経験値というものが付くわけで、普通の魔物よりも賢く、伸びしろは無限

ただし、召喚術のように己の魔力が尽きなければ何体でも生み出せるって訳じゃないし、従魔にも性格や個性が出る。ようは愛着が湧いて、酷い怪我を負わせた後、戦わせられなくなるケースも少なくはない。命はどうやったって取り返せるものではないから


召喚術は真逆で、経験値がつかないものの魔力が尽きなければ何体でも何度でも同じ個体を呼び出せることだろう


自分の魔力で生み出してるから勿論命はなく、所詮は生き物の型を取った魔力の塊。盾にしても罪悪感が無く、壊れても作り直せばいいんだとか


………召喚術は会得したくないなぁ…私。盾にはするかもしれないけど…攻撃魔術に魔力を回したくて出し惜しみしそうだし、なるべくはフロウ達に魔力回したいしなぁ…




「う~ん………ん?」




小屋を見ながら唸っていれば二人、小屋からやけに装飾の多い男が出てきた


魔力の反応があるし、魔石の装飾だな、あれ全部




「やけに遅いですね、彼ら」



「まぁ、教会に殴り込むわけには行かんだろう。張ってるのではないか?」



「そうは言っても…いやはや殿下も我々も城へ入れてくださればいいものの、まさかこんな土臭い森に閉じ込めるなんて…」



「不満を口にしても仕方ありませんよ。……全てはガルシア様が継承権を無くすまでの辛抱

殿下も言って居られたではないですか。欲しいのは継承権だけであの小娘は好きにしろ、と」



「ははっ!貴殿は相変わらず若い娘が好きだなぁ……シアレスと言ったか。確かにあの娘はいい。皆で回すのも愉快だろうよ」




…………飛び出る所だった


足を踏みつけて抑えてくれたフロウの毛並みに顔を埋め、心を落ち着ける


肥えた豚が二匹。シアレスを汚そうなんて…うっかり殺気を飛ばすところだった。…ありがと。フロウ


あの人らは少しくらい痛め付けてもいいかもしれない。…大丈夫大丈夫、命があれば最悪アルトゥールが治してくれるし、シアレスも居るしね!

怪我なんて治ってれば害したなんてバレないし……囚われた子達が居なきゃ小屋吹っ飛ばすんだけどなぁ…




「ん、大丈夫。だいぶ落ち着いた。………フロウ。任せていい?殺さなきゃ、痛め付けてもいいから」



「フォゥ」




喉を鳴らして愉快そうに二人を距離を取って追いかけ出したフロウを見送り、もう一度視線を小屋に移す

二人減った。…確認すればやはり他は動く気が無いのか、扉前に控える二人に魔石を身に付けた三人が中に居る


………正面突破が確実か。魔獣達は窓の近くに居るから




「クォーツ、クーア、私に着いてきて。他の皆は私が合図を送ったら窓を破壊して内部へ。魔獣達を守って。…で、君らはこの子達に従って。中に居る人間を無理に攻撃しなくていいから守ることに注意すること。……ウーノ、私とクォーツの代わりに指揮を。…ふふ、お願いね。信じてる。…でも無理は駄目だからね」



「ピロロロ!」




ウーノは活発で、動き回るからか周りをよく見ている


狭い空間でもこの子なら縦横無尽に動けるだろう…もふもふの羽根を優しく撫でて率いて飛び立ったのを見送り、クォーツとクーアを肩に乗せる。…作戦っていうほど作戦ではないけど、まぁ、この程度出来なきゃそれこそアルトゥールに叱られる。………それだけですまないだろうなぁ…特訓コースやだなぁ…


魔力は回復しきってないけど、問題ない。切れる前に仕留めればいい


深く息を吐いて立ち上がり、小屋へ向かう。…殺気はしまって、魔力のムラを落ち着けて……よし


扉を三度ノック。半分だけ開いて鎧を纏った男が顔を出し、少し驚いた顔を一瞬だけした




「……何か?」



「私、この森の管理を国から依頼されている教会の者なのですけど……つい先日まで空き小屋だったのですが人の気配がしたのでつい。…管理者の方ですか?」



「いや、そういうわけでは……少し待て」




困ったような顔を作り、兵士を見上げれば中から私が見えていたようで騒がしくなる。


一度扉は閉まり、中から喧騒が聞こえてくる。…大方、さっきの奴隷商は何をしてるんだ、的な話だろう

……あ、兵士さんが私は強く見えない、きっとサボってるとか言ってくれてる。…いい仕事してくれた!ありがとう!


よしよし、順調順調。…どうせ中に入れられる。肩の二人に目配せを送り、緊張を解す。…大丈夫だよ、私が居るもん




「いやぁ!お待たせして申し訳ない!実はお忍びで来ててなぁ…後で国から報せが来るようにしよう!…追い返すのも何だし、良ければお茶でも如何かね?お嬢さん!」



「いえ、仕事中でして…」



「なぁに!構わんよ!私の方から口添えもしておこう…さ!おいで!」




手を引かれ、扉をくぐる。……厭らしい笑いを浮かべる男に高笑いしそうになるのを懸命に堪え…態々総出で出迎えてくれたおじ様方に怯えた顔をして見せる


男らを守るように兵士二人が立ち、引き込んだ男は近くで手を掴んでいる。…恐怖からはね除けました、風を装って手を払い、視線を動かして室内を把握する

……うん、怯えた従魔の子達は大丈夫。一人、虹色の子馬のような子はじっと私を見ているけど




「お嬢さん、痛い目を見たくなければ保護した魔物を渡して貰おうか」



「な、なんの…」



「とぼけても無駄だ。…貴族を敵に回したくないだろう?」




交渉は兵士が行うのか。…後ろのおじ様らはにやにや笑ってるだけだし……鬱陶しいな




「確かに……保護した子は居ますが…」



「あれはうちから脱走した子でね、悪いことは言わん。連れてきてくれんかね?」



「……脱走しただけならば、引き取りにくればいいでしょう。…本当に脱走しただけならば」



「そうもいかんのさ、お嬢さん。貴族というのは体裁が大事でな」




疑うのは当然。向こうも一応は考えてたらしく人の良さそうな笑みを浮かべてアピールしてくる


最初から武力で抑え付けてくれれば多少は痛い目を見せても怒られなかっただろうが……やり過ぎると神父様にめっ、ってされるからなぁ…諦めよう。さっさと捕縛して尋問した方が速い


貴族が身に付けている魔石の位置は把握してるし、魔術を使えたとしても一撃で昏倒させればいい。……問題は兵士二人。………………小屋、多少壊してもいっか


窓の外のウーノと一瞬だけ視線を交わし、深く息を吐いて怯える娘の仮面を剥いだ


作業は迅速に、正確にしないと





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