表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/121

第四十九話




王族からの秘密の依頼なんて厄介事に決まってる


それでも、受けなければ俺の首が跳んだ。……いや、俺だけならばいい。奴隷商の最期なんて所詮そんなもんだ


ただ……俺を兄貴、なんて慕って着いてきた弟分二人だけは、守らなきゃいけなかった。…友が、自身の命を対価に預けてきた孤児


アイツは馬鹿な奴だった。優し過ぎれば食い物にされると何度も何度も口酸っぱく言ってきたというのに…結局、世の中いい奴ってぇのは俺みたいな悪党なんかよりもさっさと死んじまうもんだ


俺ら奴隷商の仕事は悪に分類されるだろう。何せ人を商品にしてるんだから


それでも、俺はこの仕事に誇りがあった


奴隷になることは恥でも何でもない。生きるために精一杯足掻いてるって事だろう。…勿論永遠に抜け出せない根っからのクズだって居る。…だが、理不尽な借金や飢饉に見回れた連中は違う。家もなく世から溢れただけで、本人達は懸命に命を繋げようとして居る


よその国までは知らないが、この国での奴隷ってぇのはある種の救済措置みたいなもんだ。借金の返済が終わり、自身も奴隷商になるってケースは珍しくもない


奴隷商だって色んなタイプが居るが…奴隷上がりの奴隷商のほぼ多くはスラムよりも安定した生活を奴隷にさせる。…国が拾い上げれなかったもんを、溢れちまったもんを、俺らが拾い上げている


だから、護衛といえども王族から受けるのは心の底から嫌だった。…アイツら、俺らを道具としか見ちゃいねぇ


しかし対価はジュエライトという希少な魔獣だという。本来は国で保護されてる筈だが、「次期王たる俺が許す」等と言い、ジュエライトの住み処へ入った。その中で既に罠に掛かった幼獣を獣国へ共に連れていき、俺らはそのまま北の国の拠点を捨て、獣国よりもっと南で商売するつもりだった


しかし護衛つっても、俺が預かった魔獣達を侍らせ、俺らには先んじて獣国への待機を命じてきた。…魔獣達の一部には元の飼い主がちまちまではあるが、買い戻そうとしている奴だって居た。買うのではなく、貸せ、という命令だったが……獣国で再会してみれば森で強い魔獣の群れに遭遇したらしく魔獣達の殆どが死に絶え、少人数だったら奴等も更に少なくなった


だから森を通るのは止めろと言ったのに、悪びれるでもなくアイツは……第二王子はふんぞり返り金の入った巾着を放り投げて




「ふん、盾になるくらいしかどうせ役にも立たなかっただろう。手放した飼い主など知ったことか。適当に金でも渡しておけ。…追加の依頼だ、ジュエライトが逃げた。しかも近隣の黒猫族の小娘が保護したらしい。面倒になる前に連れ戻せ。……何、一人くらい死んでも揉み消せる。俺は城に居るからあとはノーブルに聞け」




と吐き捨てた


唇を噛みきってやり過ごしたが、腹立たしく、憎くて仕方がなかった。俺らの矜持も、顧客らと積み上げてきた物も何もかもを崩され…あまつさえ追加依頼だと?厚顔無恥も甚だしい


ただノーブルという男は……第二王子に心酔しているのか、命令を聞かねば全ての魔獣を殺すと宣った


俺らだって商品としてではなく、健気に頑張る魔獣らが可愛い。既に見覚えのない新しい傷に何度も謝りながら拠点を出た


ジュエライトも、きっと魔獣達が逃がしたんだろう。…分かっていても、俺は二人の命を優先した


調べてみればこの辺りに住む黒猫族はどうやら一人だけらしく…成人にまだ達してない子供なのだという


住んでいるという教会を張れば、丁度出掛けるのかアースフォクスとソニードを連れて森へと入っていった。…なるべくなら怪我はさせたくない。二人に弓矢を必ず逸らすよう指示を出し、尾行する


ゆっくりと森を慣れたように歩く少女。覗く横顔はまだあどけなく、印象に残る眼をしていた


……襲うにしても、上位種が二匹も居るのは分が悪い。手懐けて居るだけで実力がある程度分かるが…だが実戦経験は乏しい筈だ


そう考えて、ソニードが湖に消えた瞬間に襲った。………だというのに




「……まさか、負けるとはなぁ…」



「何?」



「何でもねぇ。…俺が言うのも何だが、いいのか?拘束を解いたあげく怪我を治しても…」



「逃げないからいい。…逃げた瞬間に二人は死ぬけど、貴方は二人を庇ったから逃げない。……なら二人には人質の価値がある。人質は生きてこそだからね。傷を塞ぐだけ」



「……」




手加減した自覚はある。…だから足許を掬われた


あっさりと捕縛された挙げ句、交渉がしたいと今度は解放され……怪我を負った二人も応急手当をされた。…お嬢ちゃんの言う通り、俺はもう逃げる気は起きなかったし…湖から十数匹のリュエールが顔を覗かせているのも恐ろしかった


素振りを見せた途端、本当に二人は死ぬ。…餓鬼と侮って居た少女は躊躇いもなくアースフォクスに命令したのを見て確信した


この娘、とうに命を奪うことの覚悟が出来ている。…従魔術師なら魔物との戦闘はあっただろうが……違う。…人の命を奪うことの覚悟。躊躇いが無かったと言えばいいか


怖じけ付いたのかと笑いたい奴は笑えばいい。…だが本当に対峙した者にしかあの恐怖は分からんだろう

人は命を奪うことに何かしら抵抗を抱くものだ。それが人間や獣人、己に似た者ならばなおのこと


大人に成りきらぬ年頃の娘が恐怖もせず、あっさりと殺そうとしたのが恐ろしかった。真っ当に育ってきましたって顔してどういう教育されてんだ…




「それより、交渉ってなんだ。アンタに何の得がある。…言っちゃあ何だが、俺らを国に差し出した方が有意義だろうよ」



「駄目。全員捕縛って神父様に言われた。あと私も個人的に用がある。……貴方、さっきジュエライトが怪我をしてるって聞いたとき一瞬だけど凄く嫌悪感を露にしてたでしょ。…知らなかったの?」



「……あぁ。俺らはジュエライトとは別行動してたからな」




逸そ全部話した方が俺らは楽になるんだろうが…巻き込むことになるのは本望じゃない

神父様とやらは随分とスパルタな事だが……恐らく関わってるのは奴隷商だけだと思ってるに違いない


残念ながら水面下で王族が動いている。…自国ではないとはいえ、お嬢ちゃんに危険がない訳ではない。勿論客の情報を流すのにも抵抗があるが…それよりも危険過ぎるので最低限で口を噤んだ




「ジュエライトは貴方達が連れてきたんじゃないの?さっき護送って言ってた。…北の国の王族って誰。いっぱい居るでしょそっち」



「言えねぇ。腐っても商人なんでな、客の情報は流さねぇんだ。…とっとと役所にでも突きだしな、お嬢ちゃん。アンタじゃ無理だ」




せめて国としての抗議なら、北の国の王族とて握り潰したりなどは出来ないだろうが……こんなお嬢ちゃん一人の声など、握り潰すのは容易い


少し考える素振りを見せたお嬢ちゃんはあの独特な色合いの瞳で俺を見てくる。…見透かされてるような気がして息が詰まる




「………ねぇ、貴方、さっきもそうだけど私の事ばかり気にしてる。私がこれ以上踏み込んで危険にならないようにって云うのが見え見え。商人のわりに甘すぎない?」



「…うるせぇ。商人だってな、やり方が色々あんだよ」



「そう。……でも悪いけど、私も引けないから喋って貰う。…ただ貴方頑固そうだから王族の話はとりあえず後で教会で聞く。……質問を変えるね。貴方達の拠点はどこ?何人で居る?」



「黙秘」



「あっそ。…いいよ、別に偵察してるから。……ただし、話してくれるなら貴方達の安全は保証する。ジュエライトにも合わせて上げる」



「は?!…おいおい、アンタ何考えてやがる!安全は保証する?馬鹿言うんじゃねぇ!王族を裏切るって事は餓鬼が考えるほど甘かねぇぞ!例え他国でも俺らは消されるし、アンタだって無事で住むはずがねぇ。……頼む、お嬢ちゃん、退いてくれ。アンタの為に言ってんだぞ、神父様とやらもお嬢ちゃんが危険な目に合うのは望んでねぇだろう」




正義のヒーロー気取りなのか引く気を一切見せないこのお嬢ちゃんを何とか引き留めようと手を伸ばし、唸るアースフォクスを見て手を下ろした


撫でて宥める姿はよく手懐けているものだと感心してしまうが……それどころじゃない。偵察といっていたが、もし拠点が見付かったとしても貴族連中も馬鹿じゃあない。例えこのお嬢ちゃんが無詠唱で魔術を使えたとしても太刀打ち出来る筈がない


貴族ってぇのはなまじ血統が良いだけに魔力が多い。それだけ魔術を使えるって言うのはそれだけで驚異だ


それだって言うのに…お嬢ちゃんは生温かい視線を投げ付けてくるだけで、此方が焦る。事の大きさが分かってないのだろう。




「お嬢ちゃん、引け」



「……もう一度言うけど、貴方優しすぎると思うよ。多分だけど、貴方達って利用されただけでしょ。…うん。とりあえずもう遅いかな。…見付けた。此処からそう遠くないんだ。魔獣避けでも焚いてる?見付けやすくて助かった」



「っ……!!」



「とりあえず私はそっちに行かなきゃならないんだけど……デュー、この人達見張っててくれる?逃げ出そうとしたら攻撃して良いけど、それ以外は駄目だからね。念のため武器は没収」



「おい!止めろ!死にに行くだけだぞ?!」



「しつこい。…大丈夫、うちの子達強いから。……それに私の師匠より強い人なんて早々居るわけない


いっぱい褒めて貰うんだから、黙って待ってて。…それとも、気になるならついてくる?流れ弾に当たって死んでも知らないけど。…嫌なら其処にいて。というか邪魔だから来ないで」




聞く耳なんて初めから持つ気は無いようで、颯爽とアースフォクスに跨がって走り去っていった少女


負ける。負けるに決まってる。重い溜め息と共にその場に腰を落とし、頭を抱えた。……結局、俺らは生かされた


普通ならもっと酷い拷問を受けさせられても文句は言えねぇし、どっちの方が優しいんだと爪を噛んだ


今さら追い掛けようとも追い付けはしないし、…空を揺蕩い見張ってるソニードが見過ごす筈もなく、攻撃され、再起不能になるのがオチだ。湖では相変わらずリュエールが待機してるしな。…どれだけ契約してるんだ、あのお嬢ちゃん


それだけで魔力が拡散して不利になるというのに……罪悪感で胸が痛い。初めから手加減抜きで相手していればこんなことにはならなかっただろう


未だ意識を戻さない二人に寄り、塞がった傷跡に触れる


あのお嬢ちゃんには申し訳無いことをした。……神父様とやらにも。…こうして俺の罪は重なっていくのだろう




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ