第四十八話
教会から出発したあたりで視線を感じた
ユア様達と会ってるのは見られてないだろうが、不躾な視線にさっきからフロウの機嫌が急降下している
首に巻き付いてるデューも落ち着かないのか警戒してるのか、何度も巻き付く位置を変えている
人数は三人ほどだろうか?ユア様達の方に行ってないといいな……そういえば神父様って教会以外にも家を持っていたんだなぁ………まぁ、貴族だしそりゃ持ってるか
なんて、ぼんやりと考え事をしながらフロウに運んで貰えば直ぐに湖に着いた
付かず離れずの距離を保ったまま後を着いてきているが………中々お粗末な尾行だと思う。…いや、もしかしたら獣人の能力をなめてるのかもしれない。本気を出せば密かに歩く小動物の足音も聞き取れる。あとはまぁ、補助魔術とか使えばもっといける…と思う。今まで必要なかったからやったこと無かったけど
勿論、遠い距離の物音を聞こうとすればするほど集中しなくちゃいけないし、条件によっては難しい。ただ今回の相手は…プロという訳では無いのだろう。服が葉に擦れる音や木を割る音が聞こえる
特に森を歩き慣れてない人の足音は意識しても然程小さくならない。消音の魔術か魔導具を持ち歩くのは必須だし、気配を消すのは当然だ。…この程度の相手なら私一人でも問題なく戦えるだろう…ああいや、過信はいけないんだけどね
「っ……と、………ごめんて、フロウ。落とそうとしないで」
「…フォゥ」
「君さぁ、本当に私にベッタリだよね。親離れしないの?」
もす、もす、と首回りのふわふわの毛に指先を沈めながら言えばチラリと此方を見た後に「何を言ってるんだ」的に鼻で笑われた
この甘えたさんめ
ついでに、自分も使え、とばかりに頬をデューの冷たいヒレが優しく打ったので私の従魔は皆甘えたがりで優しい子なのかもしれない
…まぁ、確かに私本職従魔術師だもんね。ごめんね、二人とも。除け者にしたかった訳じゃないんだよ?
とりあえずクォーツ達の連絡はまだ来ないし、デューの群れの力も借りよう。フロウから降り、水気で少し湿った草の上に足を着ける。淵を回るように少し歩いたが……未だ尾行が続いている
そろそろ流石に鬱陶しいなぁ
攻撃を仕掛けるか迷って居たら、デューが首からするりと離れ湖に戻った。群れを呼びにいってくれたのだろう
と、その時
「……毒矢だ、これ」
風を切る音に僅かに体を仰け反らせ、指先で通過した物を取る
矢の先端から滴り落ちる液体。仰け反らせて無かったら頬をかすめていたか、肩に刺さって居ただろう。……いや、避ける動作をしなかったらフロウが防いでいたか
デューが離れたタイミングを狙ったのだろう、ザクザクと草の根を踏みしめ不躾な音を奏でる方向に顔を向ければこれまた如何にも人を襲いますよ、と見た目で訴えかけてくる三人組が
一人は片目に眼帯、他二人は腰巾着か何かだろう。真ん中で無防備に立ってる両サイドで構えてる弓を見るに全部毒矢か
「避けるとは思わなかったが…大人しくしな、嬢ちゃん。痛い思いはしたくないだろ?」
「…どうしていきなり攻撃を?」
「なに、致命傷になりゃしねぇよ。ちょっと痺れるだけだが……お前、ジュエライトって魔獣を何処にやった?…おっと、とぼけんのは無しだぜ。黒猫族でこの辺に住んでるのなんざ、お前くらいなもんさ」
保護した時見られてたのか。……ただ、何処に匿ってるのかまではバレてないということは、見られたのはあの花畑限定とみていいだろう
他に黒猫族が居たら迷惑を掛けてたかもしれないのでちょっと良かった気もする
「答えな、お嬢ちゃん。…俺らは別にお嬢ちゃんを傷付ける必要は無いんでね。ただあの魔獣だけは依頼内容だから致し方ねぇんだ、大人しく話してくれる方が俺らにとってもお嬢ちゃんにとってもいい話だろう?
どうせアンタ、俺らが奴隷商だってのには気付いてんだろ?」
「まぁ、あの怪我を見れば」
「怪我?……ちっ、あのボンクラか……いや、それはいい。アレはうちの商品なんでね。返してもらうぜ」
「………断ったら?」
意外にお喋りな男。ジュエライトの怪我については嫌悪感を見せたが…それもほんの一瞬。直ぐ様元の飄々とした顔付きに戻った
問い掛ければ後方二人は矢を引き絞り、男は腰に着けていたサーベルを構えた。…動かないかと思ったら確り戦闘体勢を整えてるし…この男、多分そこそこ強い
他二人に比べて何せ構えに隙がない。飄々としてるが私の動きをずっと注視してるし…逃げるのは許さないと視線が語っている
「痛い目を見て貰うまでよ。……嫌だろう?なら大人しく渡してくれや。…第一アンタが匿う理由もないだろうが」
「貴方達に引き渡す理由もないけど?…ここの国は奴隷は禁止されてる。それを知ってての狼藉ならばなおのこと、獣王の前に引き摺り出すまで」
「言うねぇ……だが悪いが俺らも急かされてるし、バックはそりゃもうアンタの手に負えないくらいにデカイ。…忠告はしたぜ!!」
言葉と同時、矢と男が動く
………でも、遅い。
私は何も無駄に話をしていた訳ではない。ほんの少しの時間稼ぎ。…矢を放ったと同時、水面から水柱が立ち、弓を構える男達へ向け四方から濁流のような水が打ち付けられた。極めつけに鋭い風の刃が二連ずつ、彼等を襲い呆気なく戦闘不能。すぐに死にはしないだろうがあのまま放置しておけば間違いなく魔獣の餌行きだろう
そしてサーベルの男
此方はもっと呆気なかった。…走り出したと同時、足場の土をぬかるませ泥状に。体勢を崩した瞬間に両足に纏わりつかせ、硬め、両腕を水を操って捕縛。何をしでかすか分からないので更にフロウに下半身を土で覆って貰い動きを止めた
放たれた矢もフロウが石のつぶてで対処済みなので問題なし。……うん。随分と呆気ないけど、とりあえず捕まえた。…だってアルトゥールの方が何倍も速いし。動いた、と思った瞬間には防御態勢取ってないと間に合わないから。………控えめに言ってもあのエルフやばいなって私も思ってる、スパルタだし…
「……で、なんだっけ。バックがデカイとかなんとか言ってたけど………痛い目を見て話すのと、素直に話すの、どっちがいい?」
「………………驚いたぜ…従魔術だけって訳じゃないのか、アンタ。しかも無詠唱…」
「質問に答えて。因みに早く答えないと後ろの二人死ぬんじゃない?今は魔獣が寄ってこないけど、貴方の態度次第で場所を変える
気を失ってるけど、あの傷なら死にはしない。…普通は。…でも此処には肉食の魔獣も生息してる。血に惹かれて集うでしょうね。…生きたまま魔獣に食べられるなんて、どんな恐怖と苦痛だと思う?」
「っ…テメェ……!」
「もう一度言う。質問に答えて」
「………ちっ…………俺らは北の国の奴隷商だ。魔獣専門のな。…だが貴族の依頼であのジュエライトをこの国から北まで運ぶよう言われたんだ。たかが一般人のアンタが俺らの邪魔なんてすりゃあ処罰もんだぜ…教会の娘だか何だか知らねぇが覚悟しておくんだな!」
貴族の依頼。……もうちょっとで名前を聞き出せそうだな
というか、この国の貴族のせいにしたいとか、この国の貴族が関わってるって思わせれば私が引くと思ってるのか。…どうやら彼は神父様が何者か知らないらしい。…もしかしたら、わざとこの国以外では神父様が貴族だと知られてないように国王陛下が手を回してるのかもしれないし………神父様が退いてから時間も経ってるから、知らないのかも
どちらにしても、私のやることは変わらない
考え込む仕草を見てか、安堵の表情を見せた男。…一般人だと思い込んだ事で後ろ二人の明暗が別れたと言うのに、おバカなこと
「そ。───フロウ。後ろの二人、適当に森の中に放り投げてきて。どうやら死んでもいいみたい」
「フォン!」
「ま、待て!!ちゃんと話しただろうが!!」
「ジュエライトはこの土地に生息なんてしてないよ、おバカさん。貴方のでまかせか、依頼主に本当に言われたのかは知らないけど……少なくとも、貴方は私を謀った。だから二人は殺す。ついでに次虚偽を述べたり、少しでも不審な動きをしたら貴方を切り裂く」
「っ~~~!!!…わ、分かった。嘘を言って悪かった…!だから頼む!二人を森に放るのは待ってくれ!」
器用に頭を下げる男に感心しつつフロウに視線で制止を掛ける。……残念そうな顔しないの!…デューも!追加で攻撃しようとしない!
好戦的な二人に呆れつつ顔を青ざめさせた男に向き直す。…これでハッタリではないと分かって貰えたようで何よりだ。最初から素直であればなおのこと良し
深く溜め息を洩らしては自らサーベルを手放した男。此方もフロウが二人の襟を咥えてるので、離すよう指示を出した
「…俺らが北の国の魔獣専門の奴隷商だってのは本当だ。…従魔術師が金代わりに売った従魔の買い取り主を探したり、術者の代わりに労働させる事が俺らの仕事だ
……だが、ジュエライトはどちらでもない。…俺らに与えられた仕事は…ジュエライトと依頼主の護送。…俺らの知ってる検問を通らない道でこの国まで辿り着く事だ」
「…なんでさっき嘘を?別にその理由でもジュエライトを取り戻そうって理由には足りるでしょ?」
「あのなぁ…俺らにだって商人のプライドってもんがあんのさ。…顧客の情報は洩らさないのは勿論だが、どの商人も女子供に手を上げねぇのは暗黙の掟だ。…たまたまジュエライトを保護しただけのガキが無意味に痛め付けられるのは我慢ならねぇ。北の国が主犯で関わってるなんてなんも知らない餓鬼に言えるかよ…
魔獣に詳しいようだが、お嬢ちゃん。本当に悪いことは言わねぇ。ジュエライトを渡せ。…じゃなきゃ、貴族に………北の国の王族に潰されるぞ」
極めて真面目な調子で脅してくる男。……内心掛かった!と大はしゃぎだが…勿論外には出さない。シリアスな場面だもんね、空気が読めるんだ。私は
…最初から手を抜かれてたとは思う。…何せ踏み込みが甘かったし、矢も直撃ではなく掠る程度の軌道だった
目の前の男は本当に私を言うことを聞かせる為だけに脅そうとしたのだろう。…まぁ、だから返り討ちにあった訳なんだけどね
意外にも話が通じそうで安心した。………神父様には多少怒られるかもしれないけど、交渉といこう




