第四十七話
ユア様になんと伝えたものかと悩みに悩み、結局素直に伝えることを選んだ
いや、選ばなきゃ駄目なのは分かってるよ?でも貴族特有の遠回しな言い方じゃ伝わらない気がした。……多分、正解だったと思う
私からしたらユア様は王族……貴族らしくない人だと直ぐに感じた。何せシアレスへの物言いは年相応の村娘や庶子の娘と同じものだったから
欲しいものを素直に欲しい、だなんて王族が口にすれば…どうなるかなんて察せると思う。…国の象徴がずるい、欲しいだなんて声を荒げれば他国の者だろうと差し出すしかない。
王族の発言力を正しく理解してないユア様が悪いのでダンテもそりゃあ説教するしかない
…でも、ユア様はちゃんと学ぼうとしてるので嫌いではない。ここで威張り散らかすようだったら残念ながらナオの身内だろうと仲良くしようとは思わなかった。…確かに家族になるなら嫌われたくはないけど、別に仲良くする必要もないし、ナオとだけ仲良しで居られるなら最悪いいかなって思う。一番はナオ、それだけは私の中で絶対に揺るがない
……ちょっと隣でガルシアが思い詰めた顔をしてたけど、何か思うところがあったのだろうか
「ねぇ、レン…」
「ん。……シアレスには少し難しかった?」
「…ええ。無知でごめんなさい。……私の知る貴族って…その、身分を振りかざす人の方が多くて…」
「そういう人も居るだろうね。…シアレス達の国の政治事情とかは知らないけど、そういう貴族だらけだったらいつか崩壊すると思うよ。足の引っ張り合いしかしてないんだもん
身分がある、というのは責任があるってこと。身分が高ければ高いほど、確かに自由だし権利や財産があると思うけど……それに伴う責任も大きくなってくる
特に国交を務めてる人達や辺境伯なんかは権利が大きい分、責任は家全体が負うことになるよ
辺境伯に関しては特に隣国との境目や魔物の出没が多い地域を任されてる分負担を考慮して権利が普通の伯爵家に比べて大きいし、国としてもサポートしてる
……田舎の伯爵だと思った?まぁ、最初はそう思うよね。…でも実際は情報を流してないか監視されたりとか、魔物討伐なんかは命懸けだし…代々務めてる家系全体が物凄く負担を負ってくれている。名乗るときは普通の伯爵家と同じ様に名乗るから辺境伯が誰かはちゃんと覚えておいた方がいいね
ユア様の態度は貴族の娘でも少しギリギリの態度。二人は他国の人間だから、いかにお互いを知っていても出会い頭の挨拶は確りやらなきゃダメ…です」
「少なくとも、我が国で出会い頭に少女を押し倒す令嬢は礼儀以前の問題ですからな」
頷きながら聞いていたシアレスとユア様。…案外この二人息が合うのかも、と思いながら一応ユア様にも話し掛ければダンテから補足…という名の小言が入る
先程のように言い返す事なくふんにゃりと垂れた耳と尾を見て満足そう頷いたダンテは更に続ける
「令嬢教育を苦手としているのは私の所にも報告が来ておりますから、ここでレン様の指導の元シアレス様と共に学ぶのを陛下は望んで居られます。無論、シアレス様の様に一から優しく、などではありませんよ
貴女様に必要なのは我慢と視野を広く持つことです。ユア様
直ぐ様感情的になり、後先を考えず動いてしまうのは陛下の幼少の癖そのもの。ですから、治るものなのです
殿下方に劣るなどと私は勿論、王女宮の皆…そして王家の皆様は思って居られません。貴女様には貴女様の魅力、実力があり、私共は貴女様を支えるのが役目ですから」
「ダンテリア…」
「ですが貴女様の行動の尻拭いは自身でおやりなさい。やり方が分からないというなら、恥を偲んで自ら聞き、それ以降はレン様やヴォルカーノ神父様に指示を伺い行動するのです。傍に居れば自然と己の行動の無責任さが分かるでしょう」
…優しくしたかと思えば突き放したり、随分とスパルタ教育だな王族って………あとなんか知らないところで私の仕事増えてない??シアレスだけじゃないの、教育って。ユア様に教育なんて出来ないよ
ムリムリと頭を神父様に見えるように小さく振れば、こっそりと耳打ちされた
「先程聞いた話だが…ユア様を此方に寄越したのは陛下のお考えだが、実はシアレスとユア様を仲良くさせようというイクス殿下のお考えの方がお強いようだ
何せユア様は降嫁するとはいえ、北の国に味方は居らず…ユア様だけだとやはり心配なんだそう
ゆえにお前さんの強かさと執念深さを学ばせ、一人でも行動できるよう私に預けてさせてほしいと」
「…私、イクス殿下になんて思われてるんだろ…」
少ししか話した記憶ないけど、強かさと執念深さって評価はいったいなんなんだろうか……
すん、と冷めた顔をしつつ、とりあえず任された以上はちゃんとプランを考える。…とりあえず事情を話した騎士は一度此方に来させた方がいいだろう
少なくともジュエライトについて語った騎士はなるべく監視下に置いておきたいし……アヴィリオ達もそのうち起きてくるだろうから監視は手伝って貰おう。拒否権?ないない、だって王族が動いてるんだもん。私にも拒否権なんて与えられてないようなもんだしね
まぁ、責任問題になってガルシアが王位継承権を取り上げられても困るので、私はガルシアに協力したって体裁を取りたいな。絶対せっついてくる貴族居るだろうし…ガルシアの弟なんかは絶対行ってくるだろう。王に相応しくない云々。そうならない為に数日のうちに奴隷商は捕まえて…出来るなら、首謀者を吐かせたい。私達だけじゃなく騎士の何人かが聞いてれば少なくともそれでガルシアの信頼は確立されるし……ガルシアを王にって声が上がればなおよし
そういえば他の兄妹は協力してくれるって言ってたし、目星はついてるらしいから案外難しい仕事じゃなさそうだな
「…元はといえば我が国の事。ユア殿にも迷惑を掛けた」
「いえ、私の未熟さは今回だけじゃない。……私自身、気づかない内に焦っていたのね。気にしないようにって思っていたのに…悪手になっていた事は事実であり、私の責任です。申し訳ありません、ガルシア殿下
そして改めてご迷惑を掛けました、シアレス嬢、アレフリア嬢。ヴォルカーノ神父様。…今一度チャンスを頂けませんか
私に与えられた権限は今回の件に関する責任を負えることと、一部の騎士を動かせる事です。本来なら私自身で考えて行動しなくてはいけないのでしょう……けれど、結果があの様なのです
ですから、どうか貴女方のお力をお貸し下さい」
王族が気安く頭を下げてはならない。…そうされては一般人、貴族に関わらず同格の者以外は許さなくてはならなくなるから
だからガルシアにだけ頭を下げたユア様に快く頷き、戸惑ってるシアレスにもとりあえず頷かせる
シアレスってばユア様に畏縮してばっかでちょっと鬱陶し……じゃなくて、落ち着かないから堂々としていて欲しい。近い未来、何事にも落ち着いて対応しなくてはいけなくなるのだし
彼女は未だ、国母になるって自覚がないのだと思う。…環境が環境だったし、私だって心構え程度しかないけど……でも、私達が座るのは結果その席なのだから堂々としてなくてはいけない
というか説教しておいてあれだけど、そもそも私今回動いていいのだろうか。…確かに第一発見者だしなんか国王様からの圧力も感じるけど……それはそれとして、ちゃんと保護者の意向を確認しておかないのあとで私が物凄く怒られることになる
お説教、断固反対
「……神父様が動く?」
「ふむ。…………陛下や殿下としてはお前さんの手腕が見たいんだろう。…だが。私としては他国が関わってるというのが気になる。…よって、私も少し動こう
なに。レンも貴族相手に正式に立ち回るのは今回が初めてだろう。お手本としてよく見て学びなさい。…イクス殿下に私の義娘がいいように使われるのは少々癪に触るのでなぁ」
「はぁい」
悪い顔をして笑う神父様から視線を外しつつ、いい子のお返事をしておく
……神父様の忠誠は、国ではなく国王陛下に向けられている。つまり国王陛下が私を使うのはOKだけど、それ以外の人はNG…なのだろう。たぶん。ボソッと「青二才めが…」と聞こえたのは幻聴だと思いたい
皆もそっと顔を背けているので神父様から感じるこの圧は間違いではないのだろう。兎も角、これで私の負担は大分減ったので今回の件は神父様の言う通りに動こう。なんて簡単なお仕事なんだろう。聞いといてよかった
既に顎に指先を添え、思考を巡らす神父様。…神父様ならきっと温い手は打たないだろう
何せ国が誇る毒牙。私の父としても大変誇らしい。皆に自慢して回りたいくらいである
「…ではまず、ユア様にしか出来ぬ仕事をして貰いましょうか
話した兵を全て、此処から少し離れた私の屋敷へ。そしてガルシア殿とシアレス、ユア様もそちらへ待機。今回一番気を使わねばならぬのはジュエライトと北の国の二人が傷つけられること
私の屋敷の使用人達ならば其処らの兵に引けは取りませんし…ダンテリアも動けましょう。私も共に向かい、紛れ込んだ鼠を炙り出すのを手伝って貰います
レン、奴隷商を森から炙り出すのに何日居る?」
「えっと………んー…見付け出すなら一日。森から教会まで炙り出すなら…三日は欲しいかな。どのぐらい人数が居るか分からないし、正直人数が少ないなら私が縛り上げて引き摺り出した方が早いかな」
「なら二日で炙り出し、全員捕縛。私の前に1人残らず連れてくるのだ。できるな?」
「神父様って人使い意外と荒いよね…いいけど……じゃあ今から動くけどいい?」
「構わん。無茶だけはするでないぞ」
わしゃわしゃと撫でてくれる手に頭を擦り寄せて、待機してるクォーツ達に指示を飛ばす
直ぐ様教会から飛び立ったのを見送り、私も一度フロウに声を掛けに中庭へと戻った
クォーツ達への伝達はデューやフロウにも伝わっていたようで、のそのそとやって来たフロウと直ぐ様首に巻き付いたデューを優しく撫でる…首、冷たいんだけどな…別にいいけど……
勿論、ベトとジュエライトも中庭からこちらへ一緒に移ってきた様で、慌ただしい空気にどこか不安そうにしている
ベトを動かすのは兎も角、ジュエライトはなるべく人目に付かないで欲しいしなぁ……いや、誘き出すなら見せた方がいいんだろうけど、正直期間が短い以上本拠地に殴り込みに行った方が断然速いし確実なのだ。あと怖い思いさせたくない
というわけで、二人はお留守番
もしエルフ二人が起きてきてもいいように、ちゃんと書き置きとべトにも説明をしておく
「…ん?デュー、なぁに。………あぁ。なるほどね。…そうなんだ、あの湖、川を通じて他の湖とかとも通じてるんだ。……じゃあ、他の子達にも協力を要請しよっか。先にそっちに行こう」
巻き付いていたデューによると、デューの配下を使えばこの森の水辺は大体網羅できるらしい。…縄張り争いに巻き込まれたら厄介なので何匹かで固まって動いて貰うので全部とはいかないけど…それでも水辺を監視できるのは大きい
とりあえずさっさと行動しなくては。私の自由時間を奪われるのは嫌だからね!




