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第四十四話




眼前に広がる光景に少しばかり驚いた

ノックをしても返答はなく、ならばと中を覗けば……まるで幼馴染みか何かとばかりに三人で話をしていた


机を囲み、身を寄せ合って話し合うだなんて…なんと仲の良いことか。……少なくとも王族のすることではないが、レンを中心として話すガルシア殿下もシアレスも生き生きとしていた。まるで子供が悪巧みするように




「は?結界馬鹿にしてない?結界張ったままぶつかったらそれだけで相手致命傷だよ?」



「だから結界を馬鹿にしてるわけではないが、そんな危険なことさせられないと言ってるだろう。お前脳筋か?魔術師の名が泣くぞ」



「え、えっと……私もその手は一応有りかと…」



「シアレス。落ち着いてくれ。君にそんなことさせられない」




………彼女にレンが悪影響を及ぼしてる可能性がしてきた


若干の頭痛を覚えながらももう一度戸を叩けば漸く三人が此方を向いた。…レンの従魔達は私に気付いていながらも楽しそうな主人を優先したのか完全に見てないフリを決め込んでいたことは後であの子と話し合おうと思う




「神父様。………あれ?もしかしてノックしてた…?」



「あぁ、したとも。…随分夢中になっていたが、何をそんなに話し…て…………」




綺麗な文字が白い紙を真っ黒にするほど書かれていたのはシアレスについての特訓内容。先程の脳筋発言からは想像できないほど綿密に練られた計画書だった。またレンとは異なる文字が二種類。追記するように端を埋めているのを見るに三人で考えたものらしい




「……お前さん計画するの苦手では無かったか?」



「苦手じゃないよ。面倒だから嫌なだけ、必要だったらする。その日の体調でやること決めてたから今までは必要なかったから…」



「まあ、そうだな」




レンの修行はその日の担当は決めてるものの自主性を育てようとレン自身にやりたいことを選ばせている。何せこの子の基礎能力は高い


憶測でしかないが、この子の前世も、やろうと思えば出来るタイプの天才型だったのだろう。…いや、出来ないことも意地になったらとことん練習を続けてるので一概にそうとは言えないが……少なくとも要領良く、立ち回りをよく分かってる子ではあった筈だと思う。反抗期があったのか気になるが




「ヴォルカーノ神父、ユア嬢は落ち着いたのか?」



「あぁ、そうでした。その事で殿下達を呼びに」



「そうか。なら降りよう」




表情をあまり動かさないガルシア殿下。だがシアレスをエスコートすべく差し出した手を見るに、やはりこの人は彼女の事を愛しているのだと分かった


無論、レンも気付いてるのだろう。少しばかり足りない背を補うようにピンと耳を立てて、二人の世界を作るな、とばかりに主張してるのが愛らしい




「いちゃつくのは他所でやって、ここ私の部屋。シアレスはもっと可愛くなるんだからおどおどしない」



「いっ……いちゃついてなんて!…もう!レンったら言葉が過ぎるわ!」



「いや、一夜だけでこれ程までなのだから彼女の言葉は真実だろう。…………対価は何がいい?」



「別になにも。対価が欲しくてやってるわけじゃないし。あ、でも結婚式は呼んでね」



「レンっ!!!」




後ろを行く三人は随分と楽しげで口角が緩む


何せこの子にとって歳の近い友人は居ないし、また境遇が似てるならなおの事構ってやりたいのだろう


……或いは、どこか姉の面影と重ねてるのか。…昨日遅くにアヴィリオが言っていたように…この子にとって姉の存在はナオ殿下の次、もしくは同等に大きかったのだろう

盗み見るように視線を向ければ、やはり穏やかな顔をしたレンの姿。揶揄うのが心底楽しそうでもあるが、眉を緩く垂らし、声の調子も何処かのんびりしている


ガルシア殿下もそれが分かってるからか、止めるでもなく今度は二人の突っ掛かり合いを眺めている。…突っ掛かりというより、シアレスが噛みついてくるのをひらひらとレンが交わしてるだけだが




「ヴォルカーノ神父」



「む?…どうかされましたかな?」



「正当な対価を与えぬのは俺も王族として…それから俺個人として有り得ないと思うので保護者と話した方がいいかと

あの娘、俺がなんと言おうと何が何でも聞きやしないだろう?」



「申し訳ない、公爵家としての常識は叩き込んでる筈なのですがな……どうにも我が強くて…」



「咎めてる訳ではない。…我が国では見ないタイプの淑女だ。本当にシアレスの侍女として引き抜きたいくらいだ………国に所属してなければどこの国も欲しがるだろう」



「それはそれは……だが私の義娘は既にこの国に仕える未来がありましてな…」



「………貴方がこの国の重鎮なのは知ってるが…所詮、あの娘は義理の娘だろう?ナオ殿下の事は存じてるが何故貴方が其処までする?」




ただ単純に疑問に思ったのだろう。嫌味などではなく、ごく自然に至ったその質問


何故、と私に言われても“義理とはいえ娘だから”としか出てこない。子の幸せを願わない親が何処に居るというのか。ましてやあの子は特殊で、ただ好きな人と添い遂げたい一心で辛い修行も耐えてるのだから…それを可愛いと思わぬ師も親も居るまい


ただ義理なのは当然で、血の繋がりがない以上父と胸を張れないのも事実。其処までする必要が世間から見れば確かに無いのだろう。それこそレンを公爵家に迎え入れ、殿下と婚約してしまえば私がなすべき事など無くなるのだから


どう返答するか歩を緩め考えていると、背中に僅かな衝撃




「ちょっと。私の()()()困らせないでよ」



「…!……すまなかった。許せ、ヴォルカーノ神父。悪意はない」



「悪意があったらシアレス返さない気で居たから。……というか、ナオに会ったんだ。元気にしてた?」



「それは勿論。……あぁ、お前の事も話していたな。“やり過ぎる部分とドジな部分があるからくれぐれも目を離さないで”、と」



「ドジじゃないよ!!」




背中に身を寄せ、騒ぐレンに一瞬思考が止まった


………前を歩いていて、本当に良かったと思う。…あぁ、今の私は生きているうちで最も緩んだ顔をしてるのだろう

耳が良いから私達の会話が聞こえていたのだろう。それでも、養父ではなく、父と呼ばれるのがこんなに嬉しいものなのか


口許を手で覆い、再び三人で騒ぎだしたのを横目で捉える


私の元にこの子が来なければ…有り得なかったこの胸の暖かさ。…好いた女が居なかった訳ではないが、私は独りの道を選んだ


後悔は無かった。国の役に立てるなら、陛下の役に立てるなら、それでいいと、今でも思っている




「…神父様がにやけてる!珍しい!」



「これ、淑女がそう声を張るものではない」



「だって珍しいんだもん!……何かあったの?思い出し笑い?」



「さてな。………何だと思う?」



「えぇ………なんだろなぁ…………あ、フロウとベドとジュエライトがくっついて寝てたの見たとか?それならもふもふふわふわだし思い出し笑いしちゃうよね、私もやる」



「え?!何それ!物凄く見たいわ!!」



「見る?遠回りするけど神父様いい?」



「………良いだろう。先に降りてるから速く行ってきなさい」



「ん、分かった。シアレスいこう!」




背中の温もりが消え、風のようにシアレスと手を繋いで走っていった。アヴィリオ達に配慮してか足音が小さいが……あれだけ騒いでも起きなかったのだから問題無いだろう


………親の心子知らずとはよく言ったものだ




「っ…くく……愉快な娘な事だ。感情に機敏かと思えば自分の事だとは思いもしない。…良かったな、ヴォルカーノ神父」



「いかんせん自己評価が基本低い娘なものでしてなぁ…そんな所も可愛いのだが……」



「あれは無自覚に人を惹き付ける。求婚されぬよう気を配ることだな。いや、既にされてたか?」



「あのお方以外の手垢が付かぬよう気を付けて居りますとも。私も、私以外の者も。……殿下もシアレスについて気を配らねばなりせんぞ?何せあの娘は何もせずとも美しい。レンが本気で仕上げようものなら……まぁ、夜会では注目の的でしょうからな」



「………分かってる」




腹を抱え笑って居たのがほんの数秒で元の鉄仮面に戻ったことに僅かに口許が上がったのを感じた


この方は陛下から聞いていた通り不器用なのだ。ただレンやシアレスという緩和材を得たことで少しばかり印象が変わった


何せ北の国の王族はその特性上氷の王、氷の女王と評される事が多く、ある種神性視される程だという

そして見事に彼は民の抱く氷の王の理想。その具現化の様なものなのだろう。表情は凍てつき、冷徹で。……だが実際は年相応に拗ね、笑い、他の子と変わらぬのだろう…ただ……これは予測でしかないが…民の望む姿で在れと教育された可能性が高いのではないだろうか


無論、王族としてポーカーフェイスに優れてるというのもあるだろうが……レンとシアレスが手を繋いで居たのを注視していたのを私は見逃さなかった。羨ましそうに、だ




「…私の所の黒猫がどうにもそちらの婦人に懐いたようでなぁ……ご婦人共々保護者として目を光らせておきましょう」



「……悪いな。俺も出来る援助は全てするつもりだ。それから我が国にこびりついた汚れも無論、全て削ぎ落とす。……あぁ、ついでにこの国の汚れも巻き添えにしてしまうかもしれんが…まぁ、掃除をしていたらよくあることだろう?」



「はは、なぁに、掃除の手間が省けるだけですからな。問題ありますまい。……して、掃除の為の本拠地はもう決められましたかな?未だであれば我が屋敷をお使いなされ。使用人達も久しく出来る掃除に胸踊らせてるのでな」



「感謝する。…報酬は我が国特産の極上のワインと、黒猫を彩るアクセサリーはどうだ?」



「それはまた……この老骨にも沁みるものをお願いしますぞ?装飾はあの子の誕生日にでも」




そして言葉遊びが中々達者で……心なしか楽しげに見えるのは気のせいだろうか

再び喉奥で溢れたような笑い声を発し、そのまま黙ってしまったが……この沈黙は嫌ではない。寧ろどこか懐かしさを感じる


………あぁ、そうだ。陛下が就任したての頃、玉座へ続く廊下を二人で歩いていた時と似てるのだ。

玉座の間ではすでにディグラートの奴が居て、除け者にするなと大騒ぎになったのだったか。…いやはや、歳を取ったものだ


……………まぁ、待っているのは喧しくも未だ成長途中の獅子の娘だが




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