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第四十二話




伸ばした四肢を空中で縮め、くるりと回ってから地へと脚を着け、勢いを殺すように数回後方へ軽く跳ねて砂埃が落ち着くのを待つ




「………ねぇ、レン。…運動前のアップなのよね、これ」



「うん。だって跳ねてしかいないじゃん」



「ただのジャンプで私の身長以上飛び上がるってどういうことなのかしら?!」



「えー……」




プリプリと怒り出したシアレスを視界に入れ、跳ぶための予備動作を一旦解除する

お揃いの服をたまたま水分補給に起きてきたリムネルに貸してもらったが、動くようの私のとは違いシンプルながらに美しいシアレスの服を汚さないように離れてて貰ったのに眉を吊り上げながら近付かれては迂闊に動けない。絶対汚す。私が怒られる




「アップだよ。準備運動。獣人は人間より身体能力高いから…でも私は予備動作ないと他の獣人と同じくらいの能力値出せないの。身体強化したら別だけど」



「それにしたって跳びすぎじゃないかしら?!……私の基準が間違ってるのかしら…いえ、そんなことは……」



「北の国って獣人少ないんでしょう?こんなもんだよ」




…実際、他の人を知らないからなんとも言えないけど。レーヴェディアなんかは着てる鎧に強化付与されてるらしく、本気を出すと私より速いし高く跳ぶ。勿論私も身体強化をした上でレーヴェディアが上回ってくるので意味が分からない。……因みにそのせいでクレーターを作りまくって二人揃って神父様に怒られたりした


跳び上がるのだって、最初は慣れなかった。着地の恐怖と内臓の浮遊感。慣れるまではアルトゥールにキャッチして貰ったり高さをちょっとずつ変えて練習したものだ…なんならフロウにもキャッチしてもらったことがある。あの子も身体強化使えてそうなんだよね、何故か


リムネルに鍛えて貰ってるし…うーん。あとで久しぶりに従魔鑑定しようかな


なんとかシアレスを納得させて再開しようとしたその時、ガタガタと遠くの方で馬車の音を捉えた。耳を立て方向を伺うに、どうやら街の方から来たようだ。…神父様の言っていたお城からの使者だろう




「シアレス、お客さんが来た。神父様を呼んできて貰える?」



「え?分かるの?」



「馬車の音ってわりと大きいからね。此処でも聞こえるし…街方面の道は森に侵食されないよう広げてあるから、もう少ししたらシアレスにも見えてくるんじゃない?」



「…あ、本当。神父様だけでいいのよね?行ってくる」




駆けていった彼女を見送り、服に着いた砂埃を落とす。……僅かに見える馬車はあからさまに豪華で偉い人が乗ってるのがまる分かりだ


因みに轢いてる馬もただの馬ではない。ヘイルホースという魔獣だったりする。見た目は普通の馬に見えるんだけど、特徴として尾がハリネズミのように硬い。リラックスしてる時か寝てるとき、そして信頼してる飼い主に触れられるときにしかその尾は柔らかくならず…柔らかくなった状態のヘイルホースの尾の毛を用いた化粧ブラシなんかは高級品なんだそう


ヘイルホース、気性も荒くないし、体格よくスピードと体力がある子はどこの貴族も欲しがるんだとか。レースとか開催してたら面白そうだけど…騎馬となるとまた別の子だったかな


そんなことを考え待ち構えて居れば、ゆるゆるとスピードを落として馬車が止まった。御者でさえ見るからに服の質がよく、馬車の装飾、馬の装飾も美しい。かなり位の高い貴族様だろうか。…それか国に関わることだから王家から馬車を貸し与えられたとか?


ぺこりと帽子を取って頭を下げてくれた御者さんに倣って此方も頭を下げようとした、その時




「レンちゃーーーーん!」



「へぷぅ!」




バタンッ!と豪快な音と同時に体に衝撃が走り、全力で尻餅とそのまま後頭部を強打した。…否、強打程ではなかった。一瞬魔力を感じ、空気の塊のようなものがクッションとなってくれて頭は守られた


……お尻と尻尾ははちゃめちゃ痛いけど




「会いたかったわ!ああ、こんなに愛らしく育って!毛艶も肌艶も綺麗!そうだ、貴女に合わせた服も作って貰いましょう?動きやすい今のような服も勿論似合うのだけど基本淑女ってドレスなのよ。だからボディラインに合わせて完っ璧な貴女だけのドレスを作りましょ!ええお姉ちゃんになるんですもの甘やかさせてくれるでしょう?」



「おぅ、わぁ……」



「ユ、ユア嬢?一先ず落ち着かれては…?」



「……姫様」



「や、やぁね、挨拶よ、挨拶!そんなに凄まないでよダンテ!」




はっ……宇宙の事を振られてるように固まってしまった…よくよく見たら、突進…もとい、全力で抱き付いてきた人には見覚えが微かにあった

とりあえず受け止めようと両手を差し出したのは正解だったと自分を褒めつつ、豪華で綺麗なドレスを汚さぬようにしながら立ち上がる


視界の端で揺れる毛先が真っ白な尾が少し砂で汚れてしまったかもしれないけど………今回は私悪くない。私後ろ砂まみれだもん




「お久し振りです、ユア様」



「あら、そんな堅苦しくしないでよ!私と貴女の仲じゃない!」



「……まだ二回目なんですけどねぇ…」



「まぁ……その、ユア嬢は馬車の中でも嫌というほど君の事を話してたぞ。好みの料理や服に始まり、共に行きたい場所やらとかな……先日の意趣返しだと思い甘んじていたが………完全に己の趣味とは…………お前も、苦労してるんだな…」



「姫様にとっては既に妹君のようなものなのでしょう。えぇ。常日頃から甘やかしたいと秘蔵の衣装箪笥を用意するほどで…」




見るからにゲッソリしてる両名。片方、燕尾服を纏った初老のおじ様は存じないけど、ガルシアにいたっては目が死んでる。というか哀れみの眼差しを此方に向けるんじゃない、余計なフラグが立つでしょうが


あと秘蔵の衣装箪笥ってなに。なんで好みの料理とか知ってるの。こわ…


にこにこ、ふわふわと愛らしい顔で何時までも抱き付いてくるユア王女。獅子らしい尾でさえもご機嫌さを露にしている。…あとだいぶ大きくなったと思う。前会ったときは頭半分くらいしか差がなかったと思ったけど、いまでは完全に頭一個分は抜けている。なんてこった、まさか私がチビ…?




「レンっ……!」



「あ、シアレス」



「大丈夫なのっ?!物凄く後ろ汚れて…っ…ガ、……ガ…ガルシア様っ?!それにユア様も?!?!」




慌てて走ってきたのはシアレス。大声を出しながら出てきた事で一様に視線が行くわけで……可哀想に、茹で蛸状態になりながら不自然に固まってしまったようだ

後ろを歩いていた神父様も、やれやれ、的な視線を注いでいる




「ああ……日頃も美しかったが、今日は特に美しいな。お前のおかげか」



「うん。約束は守る。ガルシアもちゃんと言葉にするようになったの?」



「イクス王子に少し言われて、な…獣国は流石だな。戦わずとも強い」



「なにが?……ま、いいや。そっちの方がシアレスの反応が愉快……じゃなくてぇ、可愛いからそうしなよ。あともっと綺麗になるから期待してて」



「一夜だけでこれ程とはな…事情が無ければお前を専属の侍女として引き抜きたいところだ」



「侍女にはならないけど、冒険者になってもたまには遊びに行くから歓迎して。あと結婚式には呼んでね」



「な、なななななな、何を言ってるのかしら?!貴女は!!それに愉快って言ったわよね?!」



「ナンノコトカナー」




ガッ、と復活してきたシアレスに肩を掴まれ、揺すられる。動揺からかかつてないほど力入ってて地味に痛いが……まぁ、涙目になるくらい揶揄ってしまったので対価として甘んじよう




「…………ずるいわ」




のほほんとした空気の中、ぽつりと溢れた声が浸透した


声の主はシアレスとは反対側で私の隣に居たユア王女で、キュッと眉を吊り上げてシアレスを見ている。…ただでさえ、未だ他の貴族階級に怯えを覗かせるシアレス。一気に赤い顔が青ざめていくのが見えた


まぁ、相手王女様だしね、睨まれたらそりゃあ怖い




「も、申し訳ございませっ…!」



「待て。…俺の婚約者が何かしただろうか。非礼があったならば俺が詫びよう」




怯える彼女を守るように立ち塞がるガルシア。…おお。後ろでシアレスがときめいてる。いい調子。そのままラブラブしててほしい

だが、それはそれとして、ユア王女の眉は未だ吊り上がったまま…なのだが。…私が間に入らないのは後ろでおじ様が額を抑えてため息を溢してるからだったりする




「狡いわ!

────ペアルックじゃない!!!私もレンちゃんとしたい!!」



「……………え?」



「……………は?」



「服!それ色違いでしょう?!狡い!!」




がおう!と吼え立てる内容はあまりに幼く………全員、力が抜けた


因みに私は神父様もおじ様の肩を掴み、額を抑える組に回ったので頬を膨らまして笑うのを堪えてたりする。今話題を振られたら絶対笑う




「こ、この服…ですか……?」



「そう!それ!しかもリムネルが作ったのでしょう?!お母様がたまに生地を横流ししてるもの!狡い!狡いわ!私もレンちゃんと同じの着たい!!!そのままお散歩もしたいわ!!」



「え、えと……私脱いだ方がいいのかしらっ…?!」



「今こっちに振らな……ふふっ!ダメだ、笑っちゃう!!お腹痛い!!」




久しぶりにツボに入った。ひーひー笑ってる私の左でユア王女は毛を逆立てて我が儘を吼えるし、右側ではシアレスがおろおろして、その前でガルシアは思考放棄してるのか宇宙の話題を振られたように固まってるしで……なにこのカオス


結局、私の呼吸が危うくなるまで笑い、噎せまくった事で一先ず落ち着いたのだった。いやだってさ、虚無顔してる神父様見て笑わないとか無理過ぎ




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