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第三十四話





暖め直せばすぐに食べれるように一通り調理を終え、話し込んでいた二人に声を掛ける


シアレスに手伝わせると微妙に時間が掛かるし、折角ならばアヴィリオと仲良くなって貰おうとソファに押し込んでおいたのだ。何を話してるのかと思えば、結界の性質についてだった




「へぇ……アヴィリオの結界も硬いもんね。参考になった?」



「それが全く。……なんていうか、私が張ってるのと違うの」



「魔力制御が甘いくせに結界の強度は一流過ぎるのが異常なんだが……俺達の結界より、お前の方が質的には近いな。物理も魔術も全部弾く。……いや、ちがうな、結界に触れた途端無力化されてる…?」



「じゃあ私のとも違うよ。私の基準は“悪意を持つもの”と“身体に影響が出るもの”だから。あとアルトゥールに今は反射も教わってる途中だし。……まぁ、今あれこれ調べて変に知識が偏ると困るからこの話はおしまいね


それよりさ、フロウ達とリムネルって一緒?」



「いや、俺達はベドとは一緒だったがお前の従魔は知らないぞ?…呼び戻せなくなったのか?」



「そういうわけじゃないんだけどさ……クォーツ達が縄張り争いしてるからフロウは大丈夫かなって。……ちょっと見てくる」




フロウならばそこら辺の魔物は相手にならないだろうし、従魔に危険があれば術師に分かるものだから…その反応がないということは危険でもない


ただちょっと、普段ベッタリだった子が居ないのって妙に落ち着かない。…クォーツ達とは少し離れた所に居るのはなんとなく分かるし、さほど遠くもない


全力で走れば五分くらいでフロウの元には行けるだろう




「私も一緒に行きましょうか?」



「ん、いや、いいよ。ちょっと走るし一人で行ってくる。アヴィリオとお留守番してて。リムネルが帰ってくるかもしれないから」



「あんまり遅くなるなよ」




雑に撫でてくるアヴィリオの手を甘んじ、すぐに教会を出た


あんまり魔力を使うとただでさえ減っているのに更に満タンまでの回復が遅れるし…動きも鈍くなるので全速力の半分ほどで駆ける。弾丸のごとき、とまでは行かないものの陸上選手もびっくりの速度で走れるのは身体強化様々である


ちなみに全速力を出すとクレーターが出来上がるし、自分で止まれず木を何本か薙ぎ倒した。結界張ってなかったらもれなく骨が何本かいってた、とのことなので禁止にされてたりする

木々の合間を縫ってる時間が勿体ないので枝と枝を跳び交いながら目的地に急ぐ。日が落ちる前に帰りたいし、太く逞しい枝ばかりで力を込めて跳躍しても折れないのは素晴らしい。おかげでひょいひょい次に行ける


気分はラーメンの具材の名前でお馴染みのあの忍者漫画。……ラーメンは甘めの味噌ラーメンが好き。コーンもつけて

あと汁にひたひたにした海苔でご飯をくるんってして食べるのも好き。にんにくとさ、乗せるタイプの辣油とかあったら最高なんだよなぁ


………お腹空いてきた。早くフロウを回収しよう


速度を上げればあっという間にフロウの近くへ。どうやら森の中頃までは来てしまってるよう。この辺りは強い魔物もいるって聞いたし陽が落ちきる前に帰らないと

開いた場所に出たと思えば、切り取られた空間のように青い花畑が広がっていて驚いた。……こんな場所、あったんだ


眠っているように見えるフロウの目の前に降り立つことも考えたが花を無駄に散らしてしまうので離れた所へ降りて声を張る




「フーローウー!!帰ろー!!」




垂れていた耳がピンと張り、のっそりと顔を上げたフロウ。通常の大きさに戻ってるせいで金色の小山に見えるのはお口チャック

…というか戻ってこないんだけど。なんで。不思議に思って首を傾げてみるとフロウから情報が伝達された。こうやって遠隔で出来るのは訓練成果である。どのくらい離れてても行けるか、クォーツ達とも試さないとなぁ


………ちなみにお前が来いってやつでした、我が儘なねこちゃんか君は


仕方なく青い花を少しだけ踏みながら近寄ると……フロウに包まれるように小さな魔獣が眠っていた

仔鹿(バンビ)のように見えるが、しっかりと魔力を感じるし…何より私の知ってる鹿と違う


体毛は薄茶色で、花びらのように白が散っている。ここまでは問題ないのだけど…指先程度に生えた角を彩るように青い花が咲いている。この花畑に咲く花と一緒のようにも見えるが、輝き方が違う

しかもそこから一等強く魔力を感じる……もしかしてこの花、魔力の結晶だったりしない…?普通の花には見えないし




「…どうしたのこの子」



「フォゥ」




とりあえず気になることが多すぎるので多くのことを横に放り投げ、何故この子の枕代わりになってるのかフロウに問い掛ければ鼻先がその子の脚へ向く。………酷い火傷の跡がある


しかも片足とかじゃなくて全ての脚に


酷く爛れた脚は血も滲んでいて、見るからに痛々しい


こつ、と頭を寄せられ一気に情報を流される…慣れたけど脳に直接情報を流される不快さをこの世界で初めて知った。…語りかけるのとは本当はまた感覚が違うんだけど……フロウが動けなかった経緯も教えてくれた


悪徳な奴隷商がどうやらこの森に入り込んだようだ


この国はないけど、国に認可された奴隷商というものはある


借金に対し、労働を強いられるが…衣食住は提供されるし、何度も世話にならぬよう生活出来る程度の賃金も日々発生する。…奴隷って悪のイメージが強かったけど救済措置という事もあるのだと驚いたしスラムとかよりずっとマシな暮らしだと思う


そこは置いといて。…この森の中間以降は中堅の冒険者でも苦戦する魔獣や魔物が多く、大型の魔物に商隊が襲われた

で、この子はそのどさくさに紛れて逃げてきた子。…唯一、他の魔獣達が逃がしてくれて生き残れた子供なんだとか




「そう……奴隷商は?………生き残り居るんだ。面倒だね」




三割ほどの人間は鎖で繋いだ魔獣達を盾にして逃げ延びたようだ。…そこから更に少しは減ってるだろうな。出血したままだったし。……フロウ、近くで見てたのか。どちらにも手を出さず。……それが正しい

森の魔物にとって人間達は住処を侵す侵略者であり、餌。奴隷商を助けなかったのは…フロウ自身が攻撃される可能性があったのと、繋がれたこの子とかを見てだろう

それにありふれた森の生き物との生存競争なだけだ。どちらにも手を貸さないのが正解だと私は思ってる。……善意で助けたとして、得体の知れない彼らを助けることが本当に良い事だったかなんてわからないし


自分の身は自分で守るのが鉄則。私が居なかったから余計フロウは助ける気なんて無かっただろう。……この子、どうやらあんまり教会のメンバー以外好きじゃなさそうなんだもんなぁ……


そして此処で見付けたこの子を保護。私が来るまでお守りをしてくれてたんだそう。…連絡してくれても良かったんだよ、こんなときぐらい。……あ、体調が万全じゃないから考慮してくれてたの?ありがとうね




「むぅ……とりあえず、この子は嫌がらないようなら連れて帰ろう。まだ近くに奴隷商居るかもしれないし、結界の中なら怪我の治り早いから。…少し離れとくから起こしてくれる?」



「フォン」




人間に虐げられてきたというのに、近くに人間が居たら警戒するだろう

少し離れて、二人を眺める。…揺り起こされて怠そうに瞼を開くと、甘えたような可愛い声が聞こえた


瞳は黒い。黒曜石のような、光を呑む黒色


フロウが何か伝えたのか、黒い瞳が此方を見た。…怯えと警戒が見て取れるので両手を上げて何もしないことを示す




「なにもしないよ。君が嫌なら近付かないし」




あまりにも私への拒絶が見て取れるようならフロウだけ置いて帰るのも手だと思う。…フロウが嫌がりそうな気もするけど。……そんな嫌そうな顔しても責任は最後まで持って貰うつもりです。…あ、説得に掛かった




「……みゅぅ」



「…鹿ってそう鳴くんだ……近寄っていい?」




仔猫のような声に吃驚したけど、どうやら接近するお許しが出た

怯えさせぬようにゆっくり近付いて膝をつける。見下ろしてたら怖いだろうしね




「とりあえずその怪我、多少は治せるから治すけど……あとは君がどうしたいか決めて。一つは私に着いてきて人が居るけど安全な場所に居るか

もう一つはこの森の奥に逃げるか。…ただ、君を捕まえてた人間はまだ付近に居ると思う。……って意味わかる?」




子供に真面目に説明しても、と思ったが案の定オロオロしてるだけだった。……フロウ並みに賢いの前提で話しちゃった此方の落ち度なので、とりあえず脚に癒術を施す


…私の治癒は根本的にこの世界の癒術と少し違う。ナオも私も医学に富んだ世界出身なのだから当然といえば当然


この世界の癒術はあくまで“外傷”の治癒。それに対して私達のは“神経含め、怪我の治癒”。医学の専門知識はなくとも、神経が切れたら動かなくなってるのを知ってるし、血管が切れたから出血しているのを知ってるので、それさえも治さなくてはいけない。知っているからこそ昇華した例だ。……逆に知識があるからこそ出来ないとかもあるんだけどね

…まぁ、私治癒苦手だから殆ど外傷しか治せないけど




「…どう?マシになった?歩けそう?」



「みゅうう!」




未だ傷跡はあるが痛みが軽減されたのか嬉しそうに跳び跳ねる姿は大変可愛らしい。フロウも小さい頃はあんなんだったな……って痛い痛い、肩噛まないで。今も可愛いね、知ってるよ


フロウはどうやら何事も一番じゃないと不服らしい。浮気か?とばかりにがじがじしてるので撫で回しておく

きょとん、と不思議そうな顔をしてた小鹿は気持ち良さそうなフロウに触発されたのか服の裾を食んで見上げてくる。……成る程、可愛い子をお持ち帰りしたい気持ちがよく…いたたた!本気で噛まないでよフロウ!

鼻を鳴らすフロウを宥めながら反対の手で小さい頭を撫でる。……かさぶたになってるのか、毛の下の肌は荒れていて、小さな角も傷が見える。…本当に早く連れ帰って手当てした方がいいだろう




「…フロウ、ふざけてないで帰ろうか。…まだ近くに居たら面倒だから速足で。…クォーツ達にも帰るよう指示送ったからね」



「フォゥ」



「とはいえ、君の足だと着いてこれないよね……抱えてもいい?」




酷いことはしないよ、とアピールしつつ両腕を広げ、フロウも後押しするように此方へ仔鹿を鼻で押す


…やはり不安なのだろう、恐る恐る近寄ってきたのを慎重に抱き上げ、震える背を撫でる。…驚くほどに軽い。うっすら骨も浮き出てるように見えるし劣悪な環境に居たのだろう


……腹立たしい。


ただそれを表に出してもこの子を怖がらせるだけなので、口にも顔にも出さない


抱えたままフロウに跨がるのは危険だったので、私と走ることが決定。…両手塞がってるからフロウの速度に耐えきれる訳がないんだよね。屈まないと上半身持ってかれそうで怖いもん


花を無駄に傷付けぬように花畑から出たところで跳躍して木に上がる。フロウも着いてきてるのを確認して一気に森を駆ける。……くてんと仔鹿が気絶してしまったのは申し訳ないと思った。一言掛ければ良かったね…




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