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第七話



流石に手続きやらがあるから二日後にまた来るそうで……その日の夜は、どきどきして眠れなかった。あまりにもそわそわと意味もなく教会内を歩き回るものだから、神父様がずっと微笑ましげに見てきた


それにナオが泊まりに来るのならば、めいっぱい部屋を綺麗にしておきたい。遠回しに神父様に伝えるとちょうど買い出しに行こうと思ってたからどうだ、とお誘いがあった。いつもはお留守番してるのにいいのだろうか。でもお買い物一緒に行きたいので秒で頷いた


王妃様たちが戻った翌日の朝、赤色の着物のようなワンピースを着て神父様の腕の中で馬車を待つ


改めて思うけど、片腕に乗せられるってそうとう筋肉ある……いや、身体強化してるのかもしれないけども


ピシッとしたスーツのような、お外用の服を着た神父様は贔屓目に見なくても格好いい

ロマンスグレーの髪は一部だけを伸ばして結っていて何処かの老紳士にしか見えないし、髭もないから若々しい。淡い翠のブローチが陽を受けてキラキラしてる




「でも、なんで馬車?…歩いて行ける距離ではないのですか?」




ナオや、お祈りに来るお爺さんやお婆さんは勿論徒歩だ。神父様が買い物に行くときもわざわざ馬車を呼ぶことはないはずなのに…首を傾げると神父様に笑われた。尻尾もゆらゆらしちゃったからかもしれない




「なぜ敬語なんだ。…折角お前が初めて町へ降りるんだ。親代わりとして色々買いたくなるんだよ。…それに食材も沢山買っておかねばな。王族の肥えた口に合うかわからんが…それに最低限の人数とはいえ使用人たちも来ることだろうしな」




孫を可愛がるお祖父ちゃんの心境なのか。親代わり……と言われても、神父様は神父様だし……此方のお父さんもお母さんも知らないから、身内にカウントしていいなら神父様が居てくれるだけでいいというのに


ちなみに、神父様の料理はとても美味しい。ほっぺが蕩けてしまいそうなくらい




「…神父様みたいに、いつかちゃんと料理作れるようになりたい」



「お前さんはなぁ……何故菓子類は作れるのに普通の料理は質が落ちるんだろうな…?」




調理を許されたここ数年、森で取った果物を使ってたまにお菓子を作る

お菓子なんて絵を描くのと同じで、味を想像しながら作ればなんか作れる。…まぁ、前世も作るの好きだったし、学校で少し習ったりもした


ただ、何故かご飯類は並以下なのだ。解せぬ


ちゃんとレシピを見て作れば、それなりのものが勿論作れはするが……アレンジをしようものならば、一気に質が落ちる

神父様みたいにレシピを見ずとも作れるようになるにはまだまだ時間が掛かるようだ。神父様、疲れているときは調味料計測しないで容器からダイレクトに行くもん。フランベというより火事になりかけたこともあった



ほんの少し膨れながら、到着した馬車に乗り込む。……大変立派な馬だった。機会があれば乗ってみたい




「…城下町は、どんなところ?」



「うん?…そうだな


以前話した様に、この国の半分以上の人口は獣人だ。次いで多いのが私のような人間。その代わり、エルフと云った精霊種と呼ばれるものは旅で立ち寄ることはあれど住み着くものは少ない


国というものは魔術や科学技術など、各々特化したものがあって、この国は言わずもがな、自然豊かな地は狩りに特化している。狩りと一口に言っても、生きるための狩猟だけではなく……最大規模の冒険者ギルドを構え、魔物の討伐、或いは捕獲。強い者が集まる性質を持つのがこの国だ」




大変勇ましい国、というのは分かった


エルフ少ないのか……それはそれで何だか華に欠けるような…いや、考えるのは止めておこう。獣人だって可愛い

前世では考えられないが、この世界は魔術も科学も共存して、魔物という存在が当たり前だ。本だと魔術はあっても化学って廃れてたりするもんね。だって魔術で代用出来るもの……まぁ、魔力が全くない人達だっているし、化学はどちらかと言えば生活を豊かにする為だったり、魔術を無効化する魔物への対策なんかが主軸だったりする


魔術に関しては己の魔力さえあれば何とかなるけど、化学に関してはリソースがどうしても限られているから化学技術を主に研究している国は今の所一箇所だけなんだとか。……逆に言えば、そこには科学分野の叡智が集められているということ

馬鹿でかい図書館とかないかな……紙媒体いいよね……でも化学特化だからこそ全部電子書籍管理してそうで悲しい。いつか行ってみたいな



それに魔物についても、この世界の常識のひとつだ


服の素材になったり、食料や武器防具になったり……温厚な魔物は飼育されたり、騎乗用に調教されたりするらしい


まず魔物とは。何らかの魔術要素が働き、動物や植物がが変異したもののことをいう

正しく在れなかった出来損ないとでも云うべきなのかもしれないという説があるが……何をどうやったら蜥蜴からドラゴンが産まれるのか。出来損ないというより進化だろ




「城下はそれはそれは賑やかだぞ。私には合わないが。…冒険者ギルドの前では何時も誰かしらが宴を開いてる。高難易度の依頼をクリアした者だろうな。……冒険者になるということは、常に死が傍にいるようなもの。その恐怖を乗り越えた者も入れば酒で誤魔化す者もいる」




ちら、と送られた視線は言外に本当は冒険者にさせたくないと語っていて……優しくて大好きな神父様のことだから、自分が止めてはいけないとこの間は言わなかったのだろう


でも、ナオの傍に居るために必要だから…神父様がなんと言おうとも、元より止める気はない




「私の一番傍に居るのはナオだけで定員一杯。……それに、簡単にやられるような女の子じゃないのは神父様だって知ってるでしょ?」




ぽす、と甘えるように身を寄せて、にんまりと笑みを浮かべれば…額を抑えた神父様

そんな頭痛の種が増えたみたいな顔をしないでほしい




「知っている。知っているとも……だから困ってるんだ。お前さんなら寧ろ返り討ちにしかねん………全く、大人しい顔をして、その度胸は誰に似たんだか……」




深い溜め息と共に頭を撫でられた

返答に満足し、揺れる外に興味を移した。……いつの間に森を抜けたのか、大きな門の所で僅かに停止し……軽快な足音と共に馬の脚が更に進む


聞こえる喧騒に、見える建物に、一気に心を奪われた


古い西洋のような、まさしくファンタジーともいうべき町並み

歩く人も、魔法使いっぽい人やら、自分と同じ獣の耳や尾を生やした人。それから際どい格好で平然と歩いている人……いや、めっちゃ恥ずかしそうだな


ともかく、ゲームの中に紛れ込んだような、そんな世界が視界に広がった


ただただ、新しい玩具を手に入れた子供と同じ胸の高鳴りが収まらず神父様の窘める声を聞き流しながら、早く地に足を着けたくて何度も窓枠から身を乗り出した



それから広い場所で馬車から降りて、初めて城下街に足を着けた

眼前に広がるのは、どこかのゲームかなんかで出てきそうな、いかにもといった建物や行き交う人たち。頭上で交わされる声は楽しげなものがいっぱいで、あちらこちらに興味が湧いて収まらない


ふらふらと人の波に流されそうになるのを神父様と手を繋いで気をつけ……連れてこられたのは周りの建物よりも遥かに厳つい建物。こここそが、私の今日の目的の場所の一つだったりする


“世界共通冒険者連合組合”、通称冒険者ギルド。


堅苦しい名前を付けたのは初代組合長らしい……加護持ちだったと聞くし、無駄にかっこよくしようとした転生者だろうなぁ……いや、分からないけど。少なくとも私ならそうする。せっかくなら厨二病感満載にしたい


各国に拠点を構え、拠点を治める拠点長が居て……それを纏めるのが組合長。組合長は各国に一人ずつ居て、有事の際には各国と連携が取れるようになってるのだとか。……政治と密接に関わってる国もあるにはあるが、基本冒険者ギルドは各国に対等なのだとか難しいことはまだあまり教えて貰ってないけど……まぁ、ようは状況にもよるけれど()()()()()()()()()()()()()()。国の管理下ではあっても独立した組織であるために国の意見に何でも従順である必要が無いのだとか


冒険者という職業も、勿論一般的で……失せ物探しから始まり、魔物討伐。魔物捕獲など、仕事は様々。一筋でやってる人は、魔物討伐や捕獲を主にしているらしい

じゃあ国の保有する自警団とか、兵達は何をしてるかって言うと……此方は主に貴族の護衛だったり、街のパトロールや緊急時の避難、国周辺の魔物討伐だったり、あくまで国をより良くする為の機関のようなものなんだとか


勿論ギルドと共闘することもあるが、政治や民の生命が関わることに関して優先的に動くのが騎士達というわけ


勿論、力量の伴わない仕事をギルド側が割り振る事もなく、ランクに応じてこなせる仕事は変わってくる

……するすると頭に入ってきたのは、ゲームのギルドとかも大体そんなもんだからだ


ただし、ここは私にとっての現実


体力を示すゲージも、魔力の残りを示すゲージも……セーブもロードも、出来ることはない


ちょっと待って、が許されないのが現実だ。攻撃を受ければ痛いし、瀕死になりかけてもすぐ回復してリトライ……は物理的には可能だが、精神がもたない


復活の呪文なんて、この世界の何処にも存在しない


そう思えば、通り過ぎる片腕を布で吊った人や、包帯を沢山巻いてる人……ゲームならば気にも留めない人達が、ただひたすらに凄いと思った

ふるりと僅かに震えた身体を神父様に寄せると、宥めるように大きな手が背中に触れ、擦ってくれた




「……止めるか?」



「止めない。ちょっと寒かっただけ」




ギルドに顔を出すのには理由がある

ギルドが管理する訓練所で一年初歩を学び、それを持って正式にギルドに所属することになる。学校みたいなのあるんだ、って聞いた時はびっくりした。才能発掘も兼ねてるそうで成績が良ければ高ランクからだったり、騎士へのスカウトなんかもあるそう。訓練所にいる間は食と住は保証されるし、訓練生でも受けられる依頼がある為貧困層の助けにもなってるのだとか。……だからこそ、国も物資等で補助を行っている。どの国も誰もが豊かに暮らして欲しいから


訓練所に行くためには自筆で申し込みを書き、自分自身の意思を示さなくてはいけない。命の危険度ごとにランク分けされているとはいえ、魔物が急に出現するということもある。また冒険者になる者を守るためでもある。……初めの頃は無条件でなれたせいで、人を盾にするような輩や、無理な難易度に挑む者が後を立たなかったそう。世界が変わっても組織の上の人間って大変そう


私も問題なく神父様に教えて貰ったから、基礎的な読み書きは出来る。……難しいのとか、古代の文字は読めないし書けないけど


再びふるりと震えそうな尻尾を一度強く抱き締めて息を吸い……ギルドの中に進んだ

ナオと共に居るためならば、こんな所で立ち止まってなんて居られない





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