第二十九話
シアレスと共に折角だから広場を散策することにした。シアレスも私も、明らかに上等な服を着てるから呼び掛けが多いこと多いこと。…まぁ、それもディグラートさんが居るからなんてことはない
「おっ!ディグラートさん両手に花かい?こりゃ羨ましい!」
「そんな若い子に手なんか出して、アンさんに怒られても知らないわよ!」
「喧しい!どちらかと言えば娘みたいなもんだ!」
沸くように笑い声が起きた。悪意なんて微塵もなく、ただ揶揄う為だけに色んな人が声を掛けてくるのだ。正直びっくりした
男女問わず、時には罵倒のような言葉もたまに飛び交う
「…凄い人気ね……」
「あー…一応これでもこの国の冒険者ギルドの統括もやってっからな。ま、今は殆どアンに任せてるが」
「あれ……この国ってそれなりに広いよね?この街以外にもギルドがあるんだとしたら………アンさん激務過ぎじゃ…?」
「おっと、ここの串焼きは旨いんだよなぁ」
逃げるように話題を逸らしたディグラートさんをシアレスと共に白い目で見る。アンさんいつか倒れそう…最悪、いっそ暫くうちで預かってディグラートさんにお仕事してもらうしかない
「いらっしゃい!…おや?……そっちの嬢ちゃん…もしかして親父が言ってた神父様の所のお嬢ちゃんか?」
「?」
「わりぃ、俺じゃわかんねぇよな……おーい!親父ぃー!!」
「あぁ?!」
たまたまディグラートさんが近寄った出店のお兄さんから声を掛けられた。…勿論知らない人なので視線をぶつけてくる二人にも首を振って知らないと示して見せるが……出店の奥から、50代程の男性が出てきた
勿論、知らない人だ
思わず半歩引いてしまったが、呼ばれたその人は私を見ると暫く顎髭を撫でて首を傾げ…それから思い出したように手を鳴らした
「おぉ!神父様が抱えとったお嬢ちゃんか!成長したんだなぁ…覚えてないだろうが、以前うちの店の串焼きを食べたことあるんだぞ?また会えるとは思ってなかったが……ディグラートが居るってことはギルド関係か?」
「そういうわけじゃねぇが……つーか、お前よく客の一人一人を覚えてられるな?レンが街に来たのは数年ぶり…十年は経ってるぞ?」
「そりゃお前…神父様が抱えてる子だぞ?あの子供嫌いの」
「……言わんとしてることは分かるが…にしたってよくレンだと分かったな?坊主」
「ああ、それは親父からとびきり綺麗な目の黒猫族って聞いてたんで。黒猫族自体、何人かとは会いましたが…お嬢ちゃん程綺麗な目の人は居なかったんですぐ分かりましたよ」
なんと。……どうやらこの瞳は印象に残りやすいようだ
…いや、この親子が商人として優れてるからかもしれないけど
そこから特に話題が発展することもなく、適当に少し話して出店を後にした。…焼き立てのピグの串をくれたのであの人らはいい人だ。覚えておこう
がぶ、と口にすれば肉汁がたぁっぷり
ディグラートさんは豪快に食べるので殆ど二口で無くなった。大きな口だ…一方のシアレスは恐る恐る口にして、驚いたように串を見て、それからまたちまちまと食んでいた
「美味しい…!」
「ね、タレもちょっと濃いのがいいよね…米に絶対合う」
「コメ?…あぁ、こっちの国では食べられてるんだっけ。私達の国では家畜なんかの餌にしかならないんだけど……貴女、あんな苦いの好きなの?」
「お米様をなめてはいけない。それにそっちの国とうちの国じゃ品種が違うから。多分元は一緒なんだろうけど、交配が統一されなかったからか、あるいは環境か。……どっちもかな?
兎も角、この国のお米は美味しいよ。主食とする人も少なくないし」
このファンタジーな世界
箸もあればお米もある。本当によくやってくれた私達の前の日本人よ。いや、他の国とか世界の人かもしれないけど。何度だってすごいって思うし尊敬しかない。ただひとつ言えるのはこんにゃくがあるのはあれかな、こんにゃく農家さんかな??じゃないと作り方をしってる変態ってことになるんだけど…ま、まあ、魔改造大好き、嫌われ恐怖症予備軍引きこもりの国、日本出身者だったらな…なんか作れそうな気がするからとやかく言うのはやめておこう
ちなみに他国よりも気候や広い土地に恵まれたこの国は農業が盛んだ。魔術の研究はそこまでではないが…それ故に、根付いたのだと思う。ていうか化学の方もそれなりに発展してるからね、ロボットみたいなのあるらしい。あと米に関してはシアレスの言うように他国でも生産されてるが…なんと、他国のは食用ではない
この国の科学者達が研究に研究を重ね、根付かせた本人の意向を汲んで食用へと変えたらしい。…本人は食べれなかったけど、ちゃんとこの世界にお米は根付いたからね、安心してね。と涙無しでは語れない
好きな時に米が食べられるのと食べられないのとじゃあモチベーションが全然違う。あとパンよりお腹に溜まるし
食べ終えた串は設営されてるゴミ箱へ入れ、ゆっくりとギルドへ向かう
キョロキョロとしてるシアレスは微笑ましい。ディグラートさんもそう思ってるのか目許が柔らかい
「ねえ、レン。あれなに?」
「あれはムムってお菓子。中にジャムやマシュマロが入ってて甘くて美味しいよ。……アンさん達のお土産に買ってく?」
「おう、そうするか」
シアレスが興味を示したものに答え、買おうとお財布を出したらディグラートさんに止められた。…さっきの串焼きもディグラートさんが出してくれたし…ムムの袋も持ってくれた
一つずつくれるし…面倒見がいい人なのだろう。ご好意に甘えシアレスと共に立ち止まって食べる
「「あまぁ…!」」
うっとりするぐらい、甘い。私のは蜂蜜だ
同じ反応をしてしまったが…シアレスのは中身が違う。イチゴのジャムみたいなのが入ってる
向こうも此方のを見ていたので…考えは一致。お互いのを差し出して、差し出された方は一口頂く
「っ!蜂蜜!私達の方では高級品なのに…!…ん、…おいしい…」
「やっぱりイチゴだ。ちょっと果肉が残ってるのもいい」
この世界、前世と同じ名前の物もあれば全く違うものもある。地方で違うときもあるので要注意。具体的にあげるならばお菓子の名前とか。ムムなんて今川焼きの小さい版じゃん、なんて思ってたし
ちなみにイチゴはイチゴだった。しかも前世よりも甘い。名前が一致してたとしても異なるというのはこういう事だ
蜂蜜の方を食べたそうにしてたので交換。この国は寒くないからね、蜂蜜は普通に手に入る。……蜂さん、めちゃくちゃ大きいらしいんだけどね
その後、ディグラートさんに見守られながら時折服屋や小物屋を冷やかして、ギルドへと戻った
欲しいものがあれば買えば良かったのだが、中々シアレスの興味を引くものはなく…というか、若干遠慮が見えたので早々に観光は終了。ガルシアの財布なのだから好きなだけ買えばいいのに
表から入るわけにはいかないので再び裏から
「おかえりなさい、ギルド長」
「おう、戻ったぜアン。ちと暫く俺の部屋に誰も近付くなって皆に伝えてきてくれ。で、その後お前も部屋に来い。あとこれ土産な。事務員たちとでも食べるといい」
「…了解です」
てきぱきと行動するアンさんと一度視線が合った。そのままシアレスに移って…少し眉を顰めたのが見えた
警戒されてるのだろう。……シアレスが。……いやというより多分「面倒事持って帰ってきやがって……」的な感じかな???
まぁ、ディグラートさんに逆らえないので足早に去っていったし、私達もディグラートさんの後ろを追った
「適当に座っててくれ、ヴォルカーノの奴と繋ぐ」
「ごめんなさい、何から何まで…」
「気にすんな。国王からの命令とあっちゃあ文句は言えないし…ま、俺も相応の報酬寄越せって揺すれるからな」
歯を見せて笑うディグラートさんは案外強かだった
机の中央に置かれた水晶は見覚えがある。神父様の書斎の机にあったやつと同じものだ
今の時間は……うん、普段は書斎でお仕事してる時間だから大丈夫。アヴィリオ達は何してるか分からないけど
ディグラートさんが魔力を流して水晶が輝く。水晶自体に魔力があるので、ほんの少し流すだけで使える便利なもの
ただし、水晶の質が悪いとすぐに水晶の魔力が尽きてただの置物と化してしまうので定期的なメンテナンスが必要だったりもする
『何用か』
「おう、お預かりものを返すんだが…ちと城で色々あってな?ガルシア王子の所の婚約者殿も一緒に送り届けるからあと頼んだわ」
『………………何故そうなった…』
あ、向こうで神父様が溜め息ついてる気配がする
前回のように映像はないものの、声だけでも神父様の様子が分かる。…きっと額に手を当てて椅子に凭れてるだろう。呆れ果てて
「あー……ま、詳しくはレンから聞いてくれ。発端はこいつだ」
「え、丸投げ?」
『……レン、なるべく早く帰ってくるように』
「…はぁい……」
お叱りの気配を察知したもののNOとは勿論言えず、大人しく返事をしたら水晶の輝きが消えた。…シアレスの話言いそびれたけど…ま、空いてる部屋は定期的に掃除してるし、帰ってから整えても夜まで充分時間があるからいいか
「帰りの馬車も出してやるから頑張れよ。明日にはまた正式な依頼書作って顔出すからよ」
「ごめんなさい、私のせいで…」
「んにゃ、大丈夫。神父様なら話せば分かってくれるから…それよりアンさんを労って上げてね。…神父様が呼んでるから、もう戻ろう」
「おう、裏に馬車があるから近くに居る適当な奴に声掛ければ大丈夫だ。気をつけて帰れ。」
ゆっくりする暇もなく今度は教会へ行き先が決まる
一応馬車に乗るまでディグラートさんが窓際で見守っててくれてたので手を振っておいた
あとは馬車に乗って数十分で教会につく。門を出るときに身分確認をされると思ったが、どうやら乗ってるのがギルド公認の馬車だったので身分確認を受けたのは御者だけだった。そこでギルド所属なのが判明したので私達は問題なしということで城下街を出た。……ちょっとセキリュティ甘くない?とシアレスと馬車の中で話してたのは内緒だ
これで殺人犯とか乗せてたら普通にヤバイからね。それこそギルドカードを偽装なんてしてたら……いや、偽装とかを確認する魔術があるのかもしれないけど、それにしたって不用心な気がする。…気にしすぎかな?
パカパカと馬の蹄の音が程好く眠気を誘ってくる。ユニコーンとか居るらしいけど、普通の馬とて充分速い。馬車とか乗ったことないから基準速度分からないけど…そう感じる
一応教会までの道は整備されてるので酷く揺れたりとかはないけど…椅子が硬くて、長旅をしたら痛くしそう
クッションとか持ち歩けるようにしておこう…ヴェセルに空間魔術教えて貰わなきゃ
「お嬢様方、ここら辺でよろしいですかい?」
「ん、大丈夫です。…お世話になりました」
「お世話になりました」
「いえいえ!ギルマスの指示ですからお気になさらず!じゃあアッシはこれで」
教会の少し手前で降ろして貰い、二人で歩く。一瞬ふらついたシアレスは、ちょっと馬車が苦手なのだと話してくれた。…まぁ、そんなに揺れなかったとはいえ、大きな石とかあると一瞬ガタン!ってくるからね。私は電車で慣れたけど
さて、教会の結界内にも入ったし、もうすぐ着くんだけど……仁王立ちしてる神父様が見えるので足取りが意図せず重くなる
怒られるのはいくつになっても嫌なのだから、仕方ない。諦めて神父様の所へ向かった




