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第二十五話





「………落ち着いた?」



「………ええ。頭痛いけど。…私の力、こういうのは治せないのよね。治せるのは私が知ってる病や目に見える怪我だけ」



「頭痛の原理ってよくわからないもんねぇ」




同じ転生者ということが分かったからか、あるいは泣きすぎたのと驚きすぎたのとで感情がごちゃ混ぜになって諦めたか。……後者っぽそう。シアレス馬鹿というわけじゃないし




「っていうか、貴女も平民じゃない。私にあれだけ言っておいて」



「あの場には公爵家居たからね。侍女に口出ししてるのが私じゃなかったら彼女、一発で処罰ものだよ?それに私は育ての親…というか神父様が今は退いてるけど、公爵家だから。ちなみにもう少ししたら戻ってくるので私も公爵令嬢になります。……いえーい」



「…腹の立つ子」




ピースつきで応えたら仄かに笑って返された。…うん、だいぶ心の距離が近付いた気がする。…それだけシアレスが気を張ってたってことか




「それはさておき、今後貴女はどうしたいの?このまま婚約者の席に居るなら……正直、向こうの国は敵だらけでしょう?男尊女卑、激しいって聞いた」



「えぇ……でもそれは、侍女達の会話を盗み聞きした限り第二王子…アレフ様の派閥が主体だと思うの。王の席へ王女様方が着けるの自体が異常だって叫んでたって聞いたし……何より、侍女達も見下されてるそうよ。…いえ、殿下は自分以外は認めてないって感じかしら?」



「なら敵は第二王子って事でいいのかな。……やり方はアレだけど、少なくとも第二王子の元へ居たら…もっと扱い酷かったかもね。平民だから、なんて素敵な言葉もあるくらいだし」



「………そうね。あり得ると思うわ」




顔色が悪くなったシアレスの隣へ席を変え、尻尾で背中を撫でて慰めて上げる。…思っていた以上にどうやらシアレスは聡明らしい。……世継ぎを産んだら事故と見せかけて殺害……なんて、可能性が無い訳でもないし…シアレスの美貌を男に売ることだって可能だろう




「ま、今ごろアルトゥールやディグラートさんからあの王子、叱られてるんじゃない?獣人やエルフは子供と女性を大事にするから。貴女の境遇を聞いたら国王様も動いてくれるかも」



「そう……かしら……アルトゥール様には謝らなくてはね。…嫌がってるのに付き纏ったりして…」



「仕方ないね。アルトゥール顔物凄く綺麗だから。いつもの事いつもの事」



「えぇ、本当に。女の私なら正直隣に立ちたくはないわ。ガルシア様以外の美形は遠目で眺めてるに限るもの」



「シアレスの顔も綺麗だと思うけど?ちょっと勝ち気な顔立ちだけど、笑うと雰囲気柔らかくなるし。…あー、でも肌も髪も荒れてるね。…美容品貸そうか?」




隣に座ったからか、綺麗な肌も髪も痛んでるのが分かる。……あぁ、だからあの王子と距離を少し空けて座っていたのか

肌の治安は、特に食生活がよく反映する。勿論髪にもだけど

上手く全体整ってるように見えるが…白緑の毛先は分かれ、艶もあまりない



「そういえば貴女の髪、ふわふわよね。私が飼ってた黒猫と同じくら……」




不自然に止まった言葉


……否、みなまで言わずとも分かる



私は、()()()()()




「……ね、ねぇ?もし良かったらなんだけど…」



「嫌。駄目。今日はもういっぱい吸われた」




僅かに上擦った声に表情。猫好き多くない?いや嫌われるよりはいいけど…吸われると、こう、背筋がゾゾゾってするしなにかが減ってる気がする。猛烈に


両手でバツを作って拒否を示すが、視線はちらちらと尻尾や耳に動いている




「そう……じゃ、じゃあ明日は?」



「そもそも会えるか分からないでしょ。それより今後の事をちゃんと話し合って」




べしべしと尾で叩いて紅茶を一口……なんで嬉しそうなのか。レーヴェディアもだけど、狂信的な猫好きはよくわからない。…彼女の場合、飼って居たというのもあるんだろう


私は好きなのは犬か猫かと問われたら…正直、決められない。ふわふわに優劣付けるとかなくない?いと尊きいのち

言い換えれば、好きが拡散してるから一つに物凄く熱が入るのはあまりない。……私の唯一はナオだけだし




「分かってるわ……でも、やっぱり前世を思い出すのよ


両親が居るからきっとあの子は寿命を迎えるまで幸せで過ごすでしょうけど……もっと、してあげたいことがあったの。買って上げたいものもあったし、何より保護した子だから…心配で…」



「シアレス……」



「ふわふわのお腹の毛に顔を埋めたりも勿論したいけど」



「一瞬しんみりした私の気持ち返してくれる??」




でれぇと崩れた表情を晒すシアレス。……繊細な見た目なくせに中々肝が座ってる


そこから少し、お互いの前世の話になった


どうやらシアレスは前世は市民でありながら王室御用達のアクセサリー工房の最高責任者だったらしい

貴族と会話する方が多く、また商人として鍛えられてきたからこそ壊れることなく今なお強く居られるのだろう

エルフや獣人は居らず、魔力を持って産まれるのは貴族の中でも珍しく……文化の発展はこの世界と同レベル程




「私達の工房はね、宝石に魔力を込めてもらって、結界や攻撃の力が付与された宝石を更に加工するの


誰も宝石単体はつけられないでしょう?アクセサリーとして身に付けるから。前世は台座にも紋様を付けたりしてたけど…この世界も腕輪やネックレスに込めてるようだけど強固な結界を込められたものは宝石が大きすぎて誰もつけないし…複数付加のアクセサリーも高価すぎて出回ってないらしいし…」



「……それ、私たちなら作れるって知ってた?」



「……え?」




宝石に魔力が宿るものを魔石というのだが…シアレスの言う通り、強固な結界を宝石に閉じ込めようとすると、小さい宝石だと耐えきれず砕ける。小さい袋にものを詰め込みすぎたら破れるのと一緒だ

勿論それはどんな人でも知ってる当たり前のことで…異世界から来た私達には当たり前ではない


転生者だからこそ出来る抜け穴が実はあるんだなこれが




「それって…」



「失礼、話は済みましたか?」




どういうこと、という言葉はノックの音に消されアルトゥールが顔を出した

隣り合って座るのを見て一瞬目を見開いたが…よくやった、とばかりに頷かれたのでサムズアップで返答


アルトゥールの後ろに控えてたのが、裏切り者……もとい、ディグラートさんや国王陛下……それから何故か憔悴しきった王子も戻ってきた

シアレスは勿論私から王子へと視線を移し、目に見えてオロオロしている




「レン。どこまで話しましたか?」



「私のことは大体。…あとはちょっとした異世界人しか出来ない抜け穴を教えようかなって思ってたところ

彼女、まずは後ろ盾が居るでしょう?……だから、この間アルトゥールに怒られたアレを使おうかなぁって。…聖女の護りならば、誰しも喉から手が出るほど欲しいでしょう?」



「!!……なるほど。ただ、渡す相手は選ばねばいけませんよ。それに量産も禁じます。此方も貴方のことは伝えてありますから問題ありません」



「うん、分かってる。でもだからこそ国王陛下とか王妃様が持つのが一番いいかも。そして何より……"量産が可能"というのがバレてはいけない…だよね?」



「えぇ。でなければ世界のパワーバランスが崩れます。無論、彼女の不可もありましょう。…ただでさえ各国は危うい均衡の中にあるのに…そんなことをすれば世界戦争とてありえますから」



「ちょっと待て。……お前達何の話をしてる?俺とフィオルナが持つとかどうとか言ってたが…」




他をすっ飛ばして話してたからか、アルトゥール以外が頭に疑問符を浮かべているのが分かる。…アルトゥールに許可を貰わなきゃ、正直、話せなかったことだしね



「レン、さっきと関係あることなの?私達ならって言ってたけど……私も?」



「うん。…っていうかこの世界との魔術基礎が離れてたり、私みたいに魔術がない世界だからこそ出来る裏技みたいなもの。……娯楽に富んだ地球産の異世界人ってこういう世界だと本当無敵だなって思うんだよね。魔改造大好き変態国出身だなって誇れるよ、私」



「小説やげえむ?でしたっけ

手に入らぬからこその渇望。……正直、貴女教えてもらった魔術…私は扱えないんですよね。こっそり練習したんですけど…」



「コツ掴めばすぐだよ、すぐ。アヴィリオは出来てたもん。アルトゥールが頭固いだけ」




小説や漫画、アニメやオタク文化が根強い地球産日本出身の異世界人ならば、私が至った抜け穴にもきっと辿り着けるだろう。魔改造大好き変態国だと思ってるからね、日本のこと

アルトゥール達に教えてもらった魔術にすら、前世の知識をフル活用してるわけだし……つまり、前世の知識はこの世界に通用する




「おいおい、それじゃあ分からねぇって。二人だけで進めるなよ」



「ん、ごめんなさい……じゃあ、前振り、というか見付けた経緯から話すから少し聞いていて欲しい

そこの固まってる王子も。今後シアレスにも関わることだから」



「あ、……あぁ。分かった。頼む」




どうやらこの王子、不測の事態になると思考回路が止まるらしい。今も少し止まってるのだろう

ただ、シアレスは予定外の事が起きても復帰が早い

本来の彼女は切り替えの速さと強かさ、賢さを持ち合わせてるのだろう。……意外にお似合いだと思う。抜けてるところを補えるのも素敵なことだ


それはさておき、……注目するのを見て、咳払いを一つ


あまりカッコ良くはない話だけどね




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