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第二十三話





「もう一度だけ聞く。お前には部屋を出ぬよう言い付けてあった筈だ。…此処で何をしている」



「ガ、ガルシア様……」




灰色の人は、シアレスと名乗った女の子を威圧している


国王陛下と一緒に来たのを見るに身分の高い人なのは分かるが……シアレスの怯えぶりに眉間に皺が寄る

正直、別にシアレスにはそこまで怒ってない。せいぜいちょっとイラッとした程度。…だってアルトゥール嫌がってたもん。……ほんとだよ?

突っかかってくるものだからヒートアップしたのは事実だし、身分を弁えなかったのはいけないが……怒ってるというより指導のつもりだったんだよね。今思えばちょっと伝え方が悪かったと思うけど。……感情入ったってことで見逃してほしい。とくに侍女の方なんて行動がアウトすぎて下手したら家ごと取り潰しとか有り得たからね??私が相手でまだ良かったでしょう…




「貴様らもだ。俺は監視を頼んだのであって助長させるとはどういうことだ。…相応の処罰はあると思え」



「そ、そんな…!私達はシアレス様を思って…!!!」




主人を思うのなら睨むんじゃないよ。口先ばっかりだな


処罰、と言われてシアレスを睨んだのは半数以上、声を上げず俯く人は慕ってる側の人間だろうが……うるさい金切声を上げる侍女も灰色の眼に睨まれ、それを封じ込められる

シアレスに至っては……侍女達の視線からも縮ぢ込まり、怯えているように見える。…さっきの強気な姿勢が全くの嘘のようだ




「もうよい。目障りだ、失せろ」



「そんな…!!」



「……失礼。口を挟んでも宜しいでしょうか?」




私も大概だったと思うが、彼の態度はもっと酷い。婚約破棄云々を言った身としては矛盾してるけど……婚約者を大事に出来ないならそんな婚約しない方が双方の為だ。今回は特に、相手が転生者だしね。これで彼女が前の世界はただの平民で純粋にお姫様に憧れて……とかだったら目も当てられないくらい可哀想だし

というかシアレスの顔は美しいと思うし、それこそ平民ならば引き手数多だろう。……貴族階級には性格的に合わないだけで


真っ正面から喧嘩を売られたので買ったが、それが出来る令嬢は何人いるだろうか。こそこそ陰口ばかり…は、偏見だろうけど、そんなイメージしかない


まぁ、それはそれとしてまだ謝罪を受け取ってないので帰さないけど。ちゃんとごめんなさいしてから帰してあげないと後から蟠りも残るし……何より謝罪もせずに去った、という事実を責め立てる輩が居ないとも限らない。人を派閥争いの道具に使われるなんてとんでもないのでここで謝らせておきたいところ




「シアレスが迷惑を掛けた者か…構わん。何だ」



「彼女から非礼の詫びを受け取っていません。…失礼。シアレス嬢だけでなく護衛及びに侍女の方々もですが。悪いことをしたら謝るのは貴族も平民も関係なく当然では?それにこのまま立ち去るという行為が悪手なのは貴方もご存知でしょう」



「……それについては俺が謝罪しよう」




あからさまに面倒臭い、と態度に出してくる灰色の人。…ガルシアと言っていたっけ

謝罪する態度ですら無いんだけど。どういうことだと国王様に視線を向けると…困ったような顔をされた




「レン、ガルシア殿は北の国の第一王子だ」




こそ、と耳打ちしてくれたディグラートさん。……王族からの謝罪を拒否するとか、勿論出来るわけがないのでしぶしぶ了承しておく

北の国嫌いになりそうだな……絶対いかない…




「もういいか?部屋に連れ戻したいのだが」



「では迷惑を掛けられたついでにもう一つ独り言を。


先程のを見るに、確かに令嬢として礼儀知らずではありますが……部屋に閉じ込めるのは如何なものかと

他国で在れば不安やストレスもあるはず。であれば軟禁し続ければ払拭出来ぬ不安に先程のような行為もエスカレートする可能性がないわけではないでしょう


それに、侍女も護衛も、己の立場を分かっておらず、存在事態が彼女の行動を悪化させる要因かと。侍女とて誰かしらが嗜め、正しく教育をされていれば少なくともこんなことにはなりませんでしたし…

単刀直入に言うならば、幾ら婚約者相手といえど、まともな従者を付けず、教育不充分な彼女を他国に寄越すのは些か監督不充分では?」




ピシッ、と空気が凍った気がするが、大して気にすることはない。だって迷惑掛けられたのはこっち!私被害者!あとこれでシアレスを処罰させるために野放しにしてました、とかだったら利用されるのが腹立つし!


彼女の行動は自国でも有名だからこそ、この国にも我が儘姫なんて伝わってるわけだし……力を利用するだけ利用したいなら、飼い殺しにするとかすればいいのに。わざわざ他国に何しに来たんだか

しかも他国に来る、なんてそれなりの身分の人が許可を出さなくては勿論着いてこれないわけだし…

ぶっちゃけ、そっちの不手際なんだからどうにかしろ。と伝えたわけで…まぁ、普通なら王族相手にそんなことを言ったらお咎めは必須。だからこの空気なのだろう。…灰色の人が睨むように見てくるが、実際此方は喧嘩を売られてるのでほんのささやかな意趣返しくらい甘んじてほしい。そっちの監督不足が原因でしょうが




「ほう……男を漁るのは俺の責任だと?」



「それに関しては彼女の資質を知らぬのでなんとも。…ただ。少なくとも、貴方の婚約者の席に座る以上、数多の令嬢から嫉妬や妬みといった感情を向けられるのは理解頂ける筈。そのストレスから見目麗しい方と話したいというのはある種女の性では?

あと正式な婚姻を済ませれば夜会等の参加も義務でしょうひ……それに対応出来るよう、礼儀作法を教えるのは貴方の管轄だと思いますが


礼儀を弁え、貴方が無闇に怯えさせねば少なからず落ち着いたのでは?彼女とて此処が他国だとは……自国のように振る舞うのが許されないというのは理解してるでしょうから。それに私への暴言も無かったでしょう。…事が起きてる中で、第一王子ともあろうお方が、責任逃れ……なんて致しませんよね」




先程から明らかに顔色が悪いシアレス。……異常な程の怯えに勿論私だけでなくアルトゥールやディグラートさんも気にかけている


小さく震え、泣くのを我慢してるのか唇を噛む様子は痛々しい


……やっぱり彼女、元から平民で、ただお姫様に憧れただけのタイプじゃないか?

庇うわけではないけど、哀れだとは思うし…少なくとも礼儀を知っていれば今回のような事は無かった訳だ。あと、正直シアレスの事をまるでモノみたいに言うこの王子が気に入らない。婚約者にしたのは貴方なんだから責任取ることを放棄するなってば。ますます強く睨んでくるので此方も応戦した。……王族を睨むなって?そもそも睨んできたのはあっち!


沈黙が落ち、睨み合うこと暫し…国王陛下がわざとらしい咳払いをした




「ん、ん”っ!……ガルシア、だから言ったであろう。お前さんの言葉は分かりにく過ぎると…全く

場所を代えよう、三人とも…そしてシアレス嬢も着いてきなさい」



「……失礼致しました。…お前たち、下がれ。処罰は追って伝える」




私としては不服だが、国王陛下に着いてこいと言われれば従わない訳にも行かず……温室から客間へ移動させられた

道中、ふらふらと足元の覚束無いシアレスを後ろから見ていたが……何度か転びそうになってひやひやした

温室と違って客間は少し涼しいように思え……国王陛下が侍女も護衛も下げてしまったので、部屋に居るのは六人だけになってしまった。…アルトゥールやディグラートさんは、国王陛下を守れるよう少しぴりぴりしてるのが直ぐに分かったが…それも朗らかに笑った国王様のおかげで落ち着いた。曰く、この二人のことを警戒しなくていいと




「さて……シアレス嬢。まずは紅茶を一口どうかね?この紅茶には蜂蜜が合うんだ」



「わ、私…っ…!」



「ひとまず落ち着きなさい。君を害す者は居ないよ、大丈夫。……ガルシア、君のせいだぞ。…あとレン、成長したのは喜ばしいが、俺でもヒヤリとするヴォルカーノの怒気と同じものを纏うのは止めてくれ」



「「……善処します」」




名を呼ばれるとは思わず、少し反応が遅れたし王子と被ったのがちょっと嫌だった


流石に睨むのは止めたけど


獅子の王ながら、威圧感ではなく優しさを纏う国王陛下に絆され…シアレスも漸く紅茶に手を付ける

一口、二口。少し落ち着いたらしく震えは収まったようだ




「おいしい…」




ホッと息を吐いたシアレス。落ち着いていればやはりその美貌は見ていて微笑ましい。年齢でいうと…私より少し上。成人は越してるだろうか




「それは良かった。落ち着いたところ申し訳ないが…さっきの話に戻ろう

その前に、レン……顔を見せてはくれまいか?成長した姿が見た、」



「いけません」




国王様の言葉に被せたのは勿論アルトゥール


名を呼んだ段階から別の意味でピリピリし出したのは分かってたのでディグラートさん側に少し寄っておく。だって……ね。私が私だとバレないようにヴェールをしてるからね…名前なんて出されたら意味ないから……


あと、とばっちりで怒られるのは嫌だからね!ここならディグラートさん盾にできる!




「いけませんし、私が許しません。何故このヴェールを着けてるか、意味はご存じでしょう?そもそも、本来彼女が来る必要は無かったんですよ、貴方が駄々を捏ねなければ!」



「分かってる分かってる……でもコイツらは大丈夫だって。俺が保証する。どうしてもって言うなら…主命だ。黙れアルトゥール」




主命というのを盾にニヤニヤする国王陛下に、アルトゥールが圧を含んだ笑みで凄む


アルトゥールは二人への警戒を解いていない。なのに王様はケラケラ笑うだけで…何だこの空間




「っ…ふ、…はは…」




それを見て、灰色の王子が笑った


目力が強く、きりっとした眉だからかキツい印象の顔立ちが笑うと眉が垂れ下がって一気に柔らかい印象になる。アルトゥールも驚いて圧を弱めてる……弱めてるけど圧を出してるって凄いね。器用だなぁ


ただ、隣に座ってるシアレスが驚いた顔をして……仄かに頬を染めて王子を見てるのを見て、おや?と思った

シアレスも絵本のような幻想が尽きてそもそも第一王子に恋慕は抱いてないから、アルトゥールに絡んだり男漁りをしてたのだと思ったが……もしかして、前提が違う?

あまりにシアレスを見詰めていたものだからまた怯えられてしまった。…ヴェール越しとはいえガン見するのは流石に悪かったか




「ふ、……失礼。我が国では少々あり得ない光景だったのでな…率直に羨ましく思ったのだ。許せ」



「あぁ、別に構わない。よく聞いてるからな北の国のことは。……それより、レンは取らないのか?」




ニコニコとご機嫌で見てくる国王様にため息を一つ。…アルトゥールも仕方無いから取りなさいって顔をしてる。…あとで国王様大丈夫かな。アルトゥールにしばかれなきゃいいけど…




「……これで、いいですか?」



「あぁ!…成長したなぁ……うん。前よりもずっとずっと愛らしい。いやぁ、ヴォルカーノの奴から定期報告は受けていたが、やっぱり対面すると違うなぁ!」




クリアになった視界に瞬きを数回。…大変嬉しそうなところ申し訳ないけど、シアレスの方が可愛いと思うのですが




「ほう……黒猫族か。魔力と引き換えに身体能力は人間と同程度、もしくはそれ以下…だったか」



「えぇ。まぁ、私は訓練してるので執務で鈍ってる人間よりかは十二分に動けますが」



「……こぉら、レン。威圧するのは止めとけ」




こう……王子の言葉はイラっと来て、何故か反論してしまう。一言多いって言うかさ…勿論私は表情を作ってるし向こうは無表情なので睨み合ってるとかではないんだけど


ディグラートさんに嗜められたので紅茶を一口




「さて、場所を変えた理由だが……シアレス嬢にかかわることだ。少し話を聞いてほしい」




ふざけた空気をしまった国王陛下。此方も背筋を改めて伸ばす…シアレスの顔色が悪くなったが…さて、どんな話になるのだろうか




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