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第二十話





アンさんに連れられ階を上がる。最奥の部屋に辿り着くとノックを数回…返事はない

けどアンさんが入っていくので後に続く…背中越しに見えたのはかじりつくように机で書類を進めるディグラートさんだった




「ギルド長は普段やらない分、集中すると回りが見えなくなる。戦闘スタイルもそうだしね。…適当に座って。紅茶でいい?」



「あ、はい…ミルクとお砂糖、欲しいです」




アンさんが言うならそうだろう。此方が話していても気付く気配はないし、紅茶のいい匂いが部屋に広がっても無反応。…獣人は感覚が鋭いから、余計気付きやすいのに…凄い集中力だ


ちび、と差し出された紅茶に口を付けると…ふわりと花の匂いが広がった。これ、絶対高い紅茶だぁ…




「……今日はあの狐居ないの?君、従魔術師だよね?他の魔術の腕も申し分ないと思うけど」



「フロウはお留守番。あのあと契約した他の子もお留守番。……フロウ、出てくるまで物凄く駄々捏ねて可愛かった」




朝は布団から出さないようにくっついてくるし、いざ着替えて外に行こうとすれば足許に引っ付いて切なげに鳴いてみせるのだから困った

朝はアヴィリオに、出る寸前は神父様に救出された。…後ろ髪引かれる思いで何度も教会を見てしまったのは仕方のないことだと思う




「ふぅん…君、従魔術師としてだいぶレベル高いはずだよね。ちょっとステータス見せてもらってもいい?」



「勿論、隠すことでもないし。…ステータス」




隣に席を変えたアンさんへステータスを開示する


ステータス…というか、スキルについて…この世界は少しややこしい


まず、産まれた時から持ってるスキルはレベルが存在しない


そしてスキル上限も今のところ確認できていない


そもそも産まれた瞬間に持ってるの自体が特殊だし…“固有スキル”と呼ばれるそれは世界でも解析が進んでないそう。私の『猫の千里眼』というスキルも固有スキルにあたる。発現の仕方が私も曖昧で手を着けてない。…いやだって、使って失明したら嫌だもん


種族として固有スキルを獲得してる種族も居るそうだけど…それも必ずというわけではないので、その種族は獲得しやすい、くらいの認識でいいそう


次に魔術系統


これは魔力を保有し、その力を各属性で放出…つまり魔術として発現出来た段階でスキルレベル1とステータスに表記される


簡単な話、水を生み出すことが出来たら水属性レベル1を獲得することが出来る

魔術系統のスキルは派生が多く、基礎属性に上位属性、従魔術や結界術、その他もろもろ。まぁ、全属性に適正ある人も居ればいない人も居る。私は特に火の魔術の適正は見込めない…精々いいとこ初級者向けの魔術くらいだ


……いや、もしかしたらアーシェの庇護があるから、今なら多少変わるかも?帰ったら試そう


更に掘り下げると、土の魔術スキルのレベルが高いからといって土の初級魔術が使()()()()()()()()()


矛盾してるように感じるかもしれないし、普通レベルが高ければ使えると思うものだけど、例えば先日アンさんを助けるのに使った初級の防壁、『アースシールド』。あれを土魔術のレベルが高い大工や鉱夫が使えるとは限らない

彼らが使う魔術は生活を快適にするために改良が重ねられた…一般的に生活魔術と呼ばれるもので、魔術師とは違う


つまり、魔術師と名乗るからにはそれなりの攻撃魔術、防御魔術を会得しているのが条件になるし…ギルドでも魔術師には特別な試験があるそう。……まぁ、パーティの大事な火力だしね。下手に嘘をつかれても困る


生活魔術と魔術師の魔術との違いについては……まぁ、ようは戦闘で使えるか否か、程度の認識でいいと思う。私も専門家じゃないから分からない…まぁ、いつか野営するかも、とのことで土の魔術で簡易拠点の作り方ぐらいは教わったし、ようは発想次第、というのも学んだ


次に武器関係のスキル


…これはまぁ、正直私武器をあまり使わないから理解できてない。基礎的な動きや扱い方は一通り出来るけど、身体強化ぐらいしか使わないので気が向いたら本を漁ってみよう


戦闘面ではこの二つ。スキルレベルがどう上がっていくかは……誰にも実は分かってない


一番有名な説として、スキル自体がそもそも神が授けたもので、それを可視化するために数値が出来たのではないか、と言われている。だってスキルレベルが低くても強い人は強いし、魔力の数値もその日その時の体調やら何やらで打つ魔術の消費量変わるし


だからスキルレベルはあくまで目安


例を挙げるなら、昔アースフォクスの子供とて従魔術のスキルが1では無理、とレーヴェディアに言われたが…実際私は契約できていた


そういうことが多々あるのがこの世界。まぁ、今は従魔術は問題なく10まで伸びている。…10だとぎりぎりアースフォクスやソニードが契約できるかどうかの瀬戸際らしい。上位種強い…


スキルレベル=熟練度とかどれくらい扱えてるか、という認識の方がいいだろう


魔力の制御が出来るか出来ないか、射出速度、火力はどうか。…それのトータル目安がレベル


一般的な魔術師のレベルが3~5。ギルドに所属してそれなりに経ったもの、あるいは何処かに仕えたり師を持ってる者が4~8。10以上はそれなりに珍しく、優秀である証


まぁ、私も一応基礎属性は火を除いて7まで、上位属性…光、闇は5、氷も3まで上げている。獲得してるのはこの三つだが、属性は多岐に渡る……火?火は今見ても5止まりですが何か?アルトゥールなんかは全属性10以上ですが何か??




「へぇ……君、やるね。まだ訓練所に通ってないのにこれなら、そもそも通う必要なくない?」



「嬢ちゃんの顔合わせも兼ねてるんだ……悪ぃ、待たせたな。」



「ディグラートさん。…そんなに待ってないです」




アンさんの後ろから覗き込むように顔を下げたディグラートさん。丸っこいお耳が可愛い。…金の髪にメッシュみたいに黒髪が混ざってるのは虎の獣人の特徴なのかな。今度聞いてみよう




「嬢ちゃんの立場をそういやハッキリさせてなかったが……訓練所ではヴォルカーノの義理の娘。つまり公爵家の令嬢ってことになる

んで、公爵家っつーのはそれなりに発言力も何もかもが強い。…そこで他の貴族と顔合わせをして、嬢ちゃんの味方を増やそうって算段だ


……そのままヴォルカーノの義娘で居りゃ嬢ちゃんの夢も簡単に達成できんのに、わざわざ茨の道を歩むたぁ…肝が座ってんな」



「うん、頼りっぱなしで隣に立ちたくないもん」




ナオの隣に立つのに、確かに神父様の名を借りるのが一番楽で簡単な道なのは分かってる


でも、それは確実に後ろ指さされる。…そんなの嫌だ

だから茨の道でも乗り越えて、隣に立つ。私の居場所だもん


アンさんが何か言いたそうにするも、問うことを止められてるのか一度閉ざし、話題が変わった




「それより、馬車の手配は整ってますが…もう出ますか?」



「あ~……どうすっかね。ちと早いな。…あぁ。ギルドの案内でもするか。他の連中も嬢ちゃんを気にしてる奴が居るしな」



「分かりました」




というわけで、紅茶を飲み干し、ディグラートさんの後をアンさんと並んで追う


……コンパスの違いからか、若干私だけ早足なのが悲しい。もっと伸びて


さっきの所にとんぼ返り。ディグラートさんが降りてきたからか余計活気に溢れたギルド内…あれ、普通ギルドマスターが降りてきたら静かになるもんじゃないの?




「ギルマス!またアンに怒られたのかー?!」



「たまにゃ仕事してやらんと可哀想だぜー!」



「うるせぇ!お前らも仕事しろ!!」



「……成る程、理解」



「うちのギルドの良いところと悪いところなんだけどね……うちの馬鹿達が悪いね。耳、大丈夫?」



「成長したから大丈夫。ちょっとキーンってするけど」




威厳を振り撒くタイプじゃなくて、親しみやすいギルドマスターなのだろう。酒を片手に飛ばされる野次は揶揄うものだけで、嫌悪感が全く滲んでない


ディグラートさんも笑ってるし、祭りでもないのにこの活気は凄い


アリベルさんも受付の仕事が一旦空いたのか豊かなお胸を揺らして此方へやって来た。…この世界、動き回っても垂れ下がんないって人体構造少し地球と違うよね。魔力ある時点で知ってたけど

…月のモノは因みに来る。ファンタジーの世界なのにあるのかよ、と最初に来たときは嘆いたものだ


けど、それは忌むべきものではなくて、特にこの国は獣人の特性上女性を大事にする


子を産めるのは女だけ。だからその週は誰しも女性を敬い、労り、快適に過ごせるよう努力されている


勿論周期を知られたくない人は多い。でも獣人の鼻は鋭く、血の匂いでバレる事もあるので…それ専用の匂い消しのコロン。更にナプキンや下着、その他必要なものの開発は世界随一


冒険者はその週に依頼を受けることはなく、混合パーティなんかは仲間内だけで周期を教えることもあるそう……複数女性がいれば、周期もズレるがその辺りはパーティ内で動ける人間が依頼を受けたりとか、周期をずらす薬とか対策はあるらしい



兎も角、この世界……というか、この国は非常に女性が過ごしやすい。事業の責任者の一人は王妃様だしね

女性とて強いというのもあるけど、生理とか前世死ぬほど悩まされたからなぁ……年を重ねるごとに重くなるし、それで仕事休むなんていけないって風潮だったし


此方だと逆に休めと言われる。今のところ腹痛と体温調整が出来ないだけだが、うちの過保護は更に磨きが掛かる




「ギルマス、日中降りてくるなんて珍しいですね?仕事片付いたんですか?」



「一応な。んで、こいつの案内してんだ」



「成る程。さっきぶり、レンちゃん」




手が伸びてきたのでちょっと吃驚したが…撫でたいのだと察し、頭を差し出す

アリベルさんの方が身長と年齢高いのもあるけど、子供扱いされてる。……子供だけど、中身大人なのにな

そのまま後ろからぎゅーってされたので甘んじとく。背中が幸せ




「はぁ~……可愛いぃ。ここ、女の子少なくて癒しが足りなかったんですよぉ」



「そりゃお前、他の国ならまだしも獣人のギルドだしなぁ。女共も女傑ばっかだ。…………彼奴らにゃ、俺も敵わねぇよ」



「レンみたいに根っからの魔術師タイプって少ないからね。獣人だけの枠組みで見たらバランスよく魔術師と癒術師を編成してるパーティなんて一つか二つくらいか」



「そうなんだ。……?」




何処かから、名を呼ぶ声が聞こえた気がして視線を巡らす


喧騒の中の空耳かもしれないけど、もう一度聞こえた気がして辺りを見回すこと数秒。見覚えある人…ディグラートさんの言う女傑の一人が此方に来た




「ぶっ倒れたにしては元気そうじゃないか!」



「ヴェセル!丸一日休んだからそこそこ元気!…運んでくれてありがとう」



「アタシらは何にも。フロウが触らせやしなかったからねぇ……そういや、今日は連れてないのかい?やけにいい服着てるけど…」



「ちょっと私用。ヴェセルは………酒盛り?」




ヴェセルの片手にはジョッキ。しかも二つ。泡がもこもこしてるし…ビールかな。ディグラートさんが一個貰おうとしてアンさんに睨まれてる




「ヴェルセルトリアさんがいらっしゃるなんて珍しいですね、普段船で飲まれてるのに」



「今日は休みだからねぇ。たまにはギルドで飲もうと思ったら、見覚えある黒猫が居るもんだから……今日は運がいい」



「……黒猫族と会うと運がいいの?」



「違うの。黒猫族に限らず稀少な種族に会った日は、船乗りにとっていい日って言い伝えがあるのよ

各地を航海する船乗りにとって出会い別れは必然。そのなかで珍しいものがあったなら、それは風の神が下さった幸運。…なんて言い伝え」




撫でてくる手に甘んじながら聞けば教えてくれた。…ヴェセルは挨拶だけで満足したのか酒を一気飲みするとお代わりを求めて喧騒に紛れていった…ディグラートさん、まだ怒られてる。…可哀想だし助けてあげよう




「アンさん、アンさん。それなりに経ったけど、まだ行かない?」



「ん。……確かにいい時間か。いつまで正座してるんです?仕事行ってきて下さい」



「お前がしろって……いててて…。…わり、行くか!」




正座させられてるの面白かったけど、シュールでもあった。周りの人も爆笑してたしいつもの事なんだろう


……アリベルさんが「もうちょっとだけ!もうちょっとだけ癒しを!!」と駄々捏ねてアンさんに仕事を追加させられたのを尻目に、ギルドの裏口に通された

いつぞやに乗った馬車。御者の人もギルドの人なのか、ディグラートさんと少し話して扉を開けて……?ディグラートさんが手を出してきた




「ほれ、エスコートは必要だろ?」



「…ん。ありがとうございます」




ディグラートさんはギルド代表なので畏まった服じゃないけど、それがまた似合ってて格好いい


素直に手を借りて乗り込む。…次いでディグラートさんも乗り込んで、ゆっくり馬車が動き出した


石畳を歩く馬の蹄の音……すごく好きなんだよね


不規則なようで規則正しく、何より揺れる尻尾が好き。………馬系統の従魔。いつか契約しよう


ゆっくり進む街の風景を眺めてそう思った




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