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第十三話





「おーい…こりゃ駄目だね。完全に寝落ちちまってる」



「仕方無いよ。ずっと魔術を打ちっぱなしだった上に契約までしたんだ…元の魔力量が段違いに多い種族とはいえ、だいぶ無理をしたんじゃないかな」



「まさかソニードまで出てくるとは思わなかったしね…来てくれて助かったよ、ノエル」




場所を拠点に変え、訓練生は遠くで休ませつつベースキャンプの片付けを任せた。それからアタシの目の前で美しく笑って見せるノエル。本当に数年前とはえらい違いだ


まぁ、それはともかく本当に来てくれて助かった。先に戻ったアンがあの子のことを話さなかったらどうなっていたことか……見ている此方の心臓が潰れそうだった




「相変わらず、無茶をするなぁ……あ、君も彼女と会ったとき一緒に居た子だよね。私のこと、覚えてるかい?」




ノエルを変える切っ掛けになったのはレンという少女だというのはギルドの中でも有名だ。歳が近いのもあったんだろう、蝶よ花よと可愛がられてきたノエルとは真逆の性格をしているようだし


数年掛け、見事な変化をなし終え…弱々しい女の子からの脱却に思わず飲んでたものを落としたのはアタシだけじゃない。それほどまでに、変わった

ギルド長が直々に手合わせしてるとは聞いていたが……あのままお淑やかに育つことを期待してた馬鹿たちの落胆ぶりはそりゃもういい肴になった


穏やかに視線を会わせて語りかけたノエルを…鼻で笑い、レンを隠すフロウ


場所を移す際にも誰にもレンに触れさせず、今も柔らかそうな毛並みであの子を包んでいる。…あれだ、絶対触れさせないという確固たる意思が剥き出しになってる。大きさが戦闘時と同じだからわかりやすい


フロウに笑われたノエルは苦笑を浮かべ、遠巻きにレンを見ることに変えたらしい。珈琲を揺らし、眠りの中に居る彼女の方をじっと見ている




「君、覚えてるでしょその態度…まぁいいか。…本当はあの子に覚えてて欲しかったんだけどなぁ…」



「アンタ、数年前とはえらい違いだから気付いてないだけじゃないかい?この子ほぼ街に降りてないって言ってたし」



「そうかな……物凄く警戒されちゃった。ヴェセルの名前出したら大丈夫だったけど」




喋り方も思考も、だいぶ甘ったれを叩き直されたらしい。昔ならば嫌われたかもしれない!なんて泣いてたことだろう

にしても、アタシの名を出せば信用を得れるなんて…この短時間でどうやらアタシはあの子のお眼鏡には適ったようだ




「美しく、強くなったなぁ…あの子。共闘出来るなんて思わなかった」



「なんだいアンタそんなに嬉しそうにして…あの子に惚れてんのかい?」



「そういう訳じゃないよ。…ただ、昔はこの子を守りたい一心で剣を取ったんだ。憧れてた。……でも、人間って貪欲だね。守りたいどころか、一緒に戦いたいなって思うようになっちゃった」




どこか憂いを帯びた横顔。……どう見ても恋する顔な気がするんだけど、気付いてんだか無意識なんだか…

少なくともノエルにとって初めての強い願いがレンを守りたい、だったのだろう。……レンからしたらなんの事だ、って首を傾げそうだが…だが、強い願いを持つものは強い。それにこの短時間で分かったことだが彼女も彼女で簡単に守られるような性格などしてない。…多分ノエルもそれは分かってるんだろう。だから守りたいではなく共に戦いたいと思ったのか


ただ、問うのも面倒だし、答えが返ってきたとしても面倒だしで珈琲を啜っていればキャンプの片付けを終えたらしい訓練生がやってきた




「ヴェルセルトリアさん、片付け終わりました。あとはギルドでの報告ですか?」



「あぁ、御苦労さん。訓練終了後はその予定…だったんだけどねぇ。流石にこの子をこのまま帰らせるわけに行かないし、ノエルが一人着いていってもこの子は警戒するだろうし……いい機会だ。アンタ達も神父に挨拶してくかい?うちのギルドのエルフもそこに居る筈だ」




残った彼らはエルフ軽視のない獣人や人間。それにレンもそれなりに警戒を緩めてたようだし連れていくのは問題ないだろう

特にうちのギルドに傾いてる連中はなおのことあの二人に会った方がいい


僅かな動揺の後、全員が頭を下げた。…レン程ではないけど中々見所のある連中だ。これなら上級者たちのパーティに編成して個人個人指導して貰うのもいいかもしれない。アンに伝えておいてやるか




「お願いします!…それで……そのぉ…そこの()は……?」



「ん?……あぁ!そうか。初見だと皆男って見間違えるか。この子はノエル。うちのギルドメンバーの妹さ。昔は街一の美少女だったから名前ぐらいは知ってる奴居るかも知れないね」



「はじめまして。ノエルと言います。ヴェセル達とは長い付き合いだけどギルドに所属してる訳でもないし……ましてや私の方が年下だろうから畏まらないで下さい」



「そ、そんな!私こそ勘違いしちゃってごめんなさい!その…かっこよくて…!」



「お褒めいただき光栄です」




美少女からパッと見美青年になったせいで、女性陣がやられる始末。男どもも複雑そうな顔をしてる。…さては昔のノエルを知ってるな?


ノエル自身、女の子にちやほやされるのを嫌ってない…というかわりと好ましく感じてるあたり血は争えない。アウリル路線まっしぐらだ


談笑してるのを手を叩いて止め、荷物を持ち上げる




「お喋りは後にしな。とりあえず陽が落ちる前にこの子を送り届けなきゃいけないからね。それなりの距離歩く。いくら危険度が低い森を歩くからって各自警戒を怠るんじゃないよ!」



「「はい!」」



「この子は私が守るから気にしなくていいよ。それぞれ自分の身を守ってね。一応訓練中だそうだから」




さらっとレンの隣を確保したノエルにフロウが嫌そうな顔をしたが………ま、いっか


教会までの道はそこまで険しくない。時折お喋りをしたり、野営の知識、野草や魔物の解体についていくつか話した。…レンの倒したリュエールは流されちまったけど、基本的に魔物や魔獣の解体素材の権利は倒した者にある


出来たら交渉していくつか素材交換したかったんだけど…まぁ、いいや。この子との縁は結ばれたし、またいずれ会うだろう

その時は仕事の時だろうか



森を抜け、少し歩けば教会が見えてきた


後方に居たフロウと共にノエルも前に出て来て…フロウの背には相変わらずぐったりとしなだれてるレン。空も藍色が侵食してきたというのによく寝てる子だ


ペイルウィング達は空に、ソニードはレンの首に居座っている。…重くないのかね、それ


ノエルも少なからず緊張してるのか顔を強張らせてる…後ろの連中はもっと酷い。…ま、ここの神父はそれなりに名が知られてるからねぇ




「ヴォルカーノ神父!アンタの所の愛娘を届けに来た!誰か居るかい?」




戸を一応叩き、声を上げれば奥から喧しい音が聞こえ、一番に出てきたのは何故かリムネルとアヴィリオで……


リムネルが倒れた




「はぁ?!」



「レンっ……!!」



驚きで声が出たと同時、切羽詰まった顔でアヴィリオが走ってきたんで




「落ち着け馬鹿!アンタ、レンに突進する気かい?!」



「ぐ、…!」




とりあえずラリアットで止めた

いやフロウが居るから避けられるとは思うけど…レンにしか意識向いてなさすぎる


どんだけ溺愛してるんだこの馬鹿どもは




「おぉ……ヴェルセルトリアか。これまた久しい。うちの子を届けてくれてありがとう」



「あ……れ、……なんでお前が居るんだ?」



「久しぶりだねぇ!ヴォルカーノ神父。…んで、アンタは随分腑抜けたね、アヴィリオ


なんでも何も届けに来たって言ったろう?この子、魔力切れで寝ちまったからね。流石に森で放置しとくわけにもいかないし、うちの訓練手伝ってくれたからね。そのお礼さ」




首を抑え尻餅つくアヴィリオに手を貸してやりながら話せば、レンが眠ってるだけということに酷く安堵した様だった。……なるほど、籠の中のお姫様状態になるのも無理はない


リムネルはどうなったか見れば、普通に神父が持ち上げて椅子に座らせてた。……あの人幾つになっても衰え知らず…というか数年前より逞しくなってないかい?




「ふむ、この子な魔力量は少なくなかった筈だったがなぁ…何かあったか」



「リュエールの戦闘前にペイルウィング5羽、クリスタルペイルウィング1羽と契約。そして戦闘中にソニードが出てきて、撤退に難航。幸いノエルが助太刀に入ってくれたから大怪我はしてないよ。…だけどまぁ、あんだけ魔術連発して契約までしたらそりゃ並の奴ならとっくに死んでるだろうね」



「ノエル…?」




神父の目がアタシからノエルに移った。居心地悪そうにするノエルに何やら思案気な神父。ちなみにアヴィリオはまだノエルと会った事がない。依頼の報告も最近少ないってアンがぼやいてたな




「アウリルの妹か。……どうにも昔の印象が強くてな。私はお前さんを知ってるが、お前さんは私を知らんだろう。教会に来た時はまだ幼くてな…何、ディグラートから話は聞いておるよ。……そうか、アウリルの道を選んだか

まぁ、何にせよ助かった。レンはどうにも無茶をしがちでなぁ」



「きょ、恐縮です…私もギルド長からいくつかお話を聞いております。それに私は魔術の隙を作っただけで然程役に立ったとは…」



「いや、随分役に立ってるぞアンタ」




一人レンの様子を見てたアヴィリオが口を挟んだ。…というか何してんだい人が話してるときに。後ろの連中なんか引いてるじゃないか




「レンが魔術の隙が必要ってことは使ったのは中級以上……こいつの傷跡と痕跡を見るに上級の魔術だろうな。まだ戦闘に不馴れな以上余計手間取っただろう……師匠として俺からも礼を言いたい。ありがとう」



「い、いえ!そんな…!」



「…へぇ?アンタ、随分丸くなったじゃないか。人様の為に頭を下げるなんて」




アヴィリオが誰かに頭を下げるなんて初めて見た


随分と顔色も明るくなったというか…表情に出るようになったように感じる

それでも茶化すよう言ってやれば昔よく見た生意気な顔に戻り




「俺の大事な弟子の事だからな。頭を下げるなんて当たり前だろ」




なんて言い放った


開いた口が塞がらないとはこの事


アンとギルド長以外に心を開かず、リムネル以外とパーティを組むこともなければ馴れ合う事も滅多にない一匹狼はどこへ行ったんだか




「んで、後ろのこいつらは何だ?ヴェセルの連れか?」



「ん?……お前さんら、貴族じゃな?ソルディの所の倅にラタキモの所の娘…公爵から子爵まで居るが、なんの集まりだ」



「貴族専門のギルドが出来るだろう?それにともなって訓練所に通うことになる。その前段階としての訓練を立候補してきた奴等さ。勿論うちに流れてくれてもいい…ここに居る奴等は全員見所あるからね」



「そうか。…まぁ、うちのギルドより是非そのまま貴族専門の方に流れてくれ。アンの負担が減る。……アイツまた貴族に難癖付けられて怒ってたぞ。あとヴェセル、貴族を乗せた船を何時も通りに運転するなってさ」



「そりゃあ無理な注文だ。アタシの船はお貴族様向きじゃないんだ、それを承知で乗ってきた連中が悪いねぇ」




わざとらしく肩を竦めて見せれば、アヴィリオの小言が続いた

もっと丁寧に運転しろだの、酒を飲みながら航海するなだの口煩い。勿論右から左へ流してるのでノエル達は苦笑してるが




「聞いてんのか!」



「あー、はいはい。聞こえてるっての。なんだいアンタ、口煩くなって」




流石に流されてるのに気付いたのかアヴィリオが吼える


突然何だとばかりに聞いてやれば口ごもる始末。…と、そこに別の声が入ってきた




「アヴィリオは……ツンデレ………心配してるって…素直に言えない子……貴族に潰されないか…心配してる、だけ……」




気怠そうな、眠そうな、のんびりした声

声の主……レンは未だフロウの上に伸びきってるけど、耳が此方へ向いている。どうやら起きたらしい


で、ツンデレと言われた本人


アタシだけでなくノエルや訓練生の視線を集中され、何を言われたのか理解してないのか呆ける事数秒


ものの見事に顔を真っ赤に染め、長い耳まで色付いた




「て、てめっ…!!何時から起きて…っ!!」



「ちょっと前~……」



「俺はツンデレじゃねぇ!!!」



「え~……ヴェセルが心配だって言えばいいのに」




必死なアヴィリオに毛並みに埋もれてた顔を彼に向けるも眠そうなレン


堪えきれず笑えば、皆我慢しきれなくなったようで次々に笑いが起こる。…そしてそれに顔を更に染めるアヴィリオ。アタシが思ってたよりもどうやら本当は取っつきやすい性格だったのかもしれない




「あ~、笑った笑った…なんだいアンタ。心配してくれてるなら素直に言いなよ。ツンデレねぇ……他の人にツンケンしてるのも、もしかして素直になれないからだったりするのかい?」



「ちがう!!」



「はいはい、そういうことにしといてやるよ。…あ~お腹いた…アンに話してやらないとねぇ?」



「だから違う!!あとアイツに話すのは止めろ!後々俺がいじられるだけだろうが!」




アンならとことんいじるだろう。アヴィリオとリムネルの親友だし、何より二人がギルドメンバーに馴染んでほしいと思ってる。アイツならギルドの中でいじりかねない

レンは言いたいことを言って満足したのか再び夢の中。やり場のない感情で顔を抑えてアヴィリオが悶えてるのを尻目に神父に向き直る


微笑ましく見てた神父を見るに、レンにアヴィリオが揶揄れるのは日常なのだろう。彼女の性格的に標的にされること間違いなしだ




「さて、そろそろ陽が落ちるしアタシらも戻るとするよ。レンにまた何時でもギルドを訪ねてくれって伝えてくれるかい?空間魔術に興味持ってたからね」



「了解した。わざわざすまんな…ノエル、お前さんもレンに何か伝言はあるか?お前さん、レンを切っ掛けに変わったんだろう?」



「そう…なんですけど、彼女は私を覚えてないようだし…まぁ、実際顔を会わせたのはたった一回きりですからね

───だから今はいいです。また会うことになりますからその時に」



「それじゃ、ギルドに帰るとしますかね。…じゃあね、アヴィリオ。リムネルに宜しく」



「……あぁ。またな。もうすぐレンとの依頼期間が終わる。その時は飲みに行こう」




なるほど、確かにツンデレだこれは


アタシだけがそう思った訳じゃないみたいで一同で生暖かい目を向けたら「とっとと帰れ!」と押し出されてしまった


中々今回の依頼は楽しいものだった。それを含めてアンとギルマスに報告しなきゃね




「よし、全員ギルドに帰るよ!ギルドに着くまでが訓練だ!気を抜くんじゃないよ!」



「「はい!」」




緊張が解けた訓練生もノエルも案外ノリがよく、意気投合した者も多数


結果、うちのギルドに半数。貴族専門のギルドに半数が流れることが決まり、訓練が終了した


勿論アヴィリオ達の事はギルマス達に報告済みである




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