第八話
「ねぇ、教会のジジイって神父様の事?」
「ぐっ…!」
思わぬ再会を少し前に果たし、数年前よりも断然強さを増した少女を眺める
馬鹿の相手を押し付けた自覚はあるけど……なにが琴線に触れたのか、斬りかかってきた男の武器を捻り落とし、水の魔術で拘束してる。…水辺がそれなりに近くにあるとはいえ器用だなあの子。詠唱も聞こえなかった。素早く、確実な魔術を既にものにしてるのか
「神父様がくたばれなんて言われる筋合いなんて無いんだけど……そもそも貴方達全員やる気ある?」
不思議な色合いの瞳が鋭く細まれば、騒いでた馬鹿達も多少は静かになる。……ああ、さっきのくたばれ発言が地雷か
レンが拘束してる男は、従魔術を一応使える。……といってもスライム程度しか従魔に出来ないほどの実力だし、魔術の腕を磨けばもう少しまともに扱えただろうけど……残念ながら彼はその努力をしなかった
しかも他の魔術も剣術の腕も大した事はなく…貴族間ではそこそこ強いのかもしれないが、うちのギルドなら底辺も底辺。まぁ、新米なら許される程度の実力だ。…その現実に打ちのめされたのかなんなのか知らないけれど、彼は何かと家を楯にするようになった
この遠征に来たときも、テントを自力で張るのさえ嫌がり、実家を楯に免除を願い出てきたので他の班のも手伝わせた
うちのギルドに家を楯にするしかない愚か者など要らない
この遠征中、彼にも彼以外の者にも嫌になるほど教え込んだが……まぁ、聞き入れない奴等も勿論居る
それがレンと組手をしてる相手…なのだけど、妙にずっと彼女を敵視してるんだよね
「っ……クソ…!!動けねぇ…!!」
「動けないようにしたからね。貴方はあとで聞くからいいや。…で?他の貴方達は?やる気ないならなんでギルドに入ったの?己の攻撃範囲、仲間の射程、その他諸々……調和を乱す人は実際討伐依頼とか生き残れないと思うけど。死にたいなら別に止めはしないけどね」
あの子も中々に辛辣だと思う。未だ子供の範囲から脱しない子に、さも当然とばかりに言われてしまえば……ほら、誰も口を開けない
唯一隣のヴェセルが楽しそうにしてるけど…訓練生から見たら異常に見えたんだろう。見物人の大半の顔が引き攣ってる。……あの子がヤバイやつと思われるのは流石に申し訳ないから、フォローくらいしてあげようかな
「彼女の言ってる事は本当だよ。ギルドの仕事はランクが低かろうが命の危険を伴うものだってある、寧ろわざわざ口にしてくれた彼女に感謝した方がいいよ……ギルドの他の連中は、それが当然だから誰も教えてはくれないからね」
「そりゃそうさ!アタシらはそれを承知で依頼を受けてるし、ギルドに所属してるからね……それが嫌なら冒険者ギルドに入るのなんて止めちまいな、命を無駄に捨てに行くだけだしアタシらも時間が勿体無いからねぇ」
「そ、そんな……俺は楽な仕事って聞いて……」
「お、俺も…新しく出来るギルドよりこっちの方が楽だって……」
「冒険者ギルドってそういうものだって分からなかったのかな…少し考えれば分かると思うのに」
どこの馬鹿だそんな事言った奴……確かに新しく出来る貴族専門のギルドは、主な依頼が護衛の予定だからうちで扱ってる討伐依頼より難しいには難しいけど…
ギャラリーも戦ってた連中も戦意喪失。確実に使い物にならないな……いや、何人かは使えそうなのがいるか
勝負はついた。止めよう…としたら、未だレンが男の拘束を解いてないことに気付いた。その男も最初の威勢は既にない
「で?貴方は?私理由を聞いてるのだけど。……まさか、彼ら程度の理由で神父様を愚弄したわけじゃないよね…?」
「ひッ……!!」
おっと、お怒りは継続中か。下手に手を出すのは止めておこう……猫は世話をしてくれた人にとびきり懐くものだし、子猫の爪とて痛いものは痛い
彼女の沸点は神父……いや、身内認定したもの、かな?数年前もアヴィ達の事で怒ったって聞いてるし
「応えて。貴方が弱いのはよぉく分かった、腕も頭も足りてないもの……だから理由だけ聞いてるの。くたばれ、なんて言われる筋合いのない神父様を愚弄した理由を」
「っ……あの神父とお前のせいで!!叔父と叔母は処罰されたんだ!!忘れたとは言わせねぇぞ!!!」
「………あぁ、アレの血縁か……ねぇ、アンさん、組手って続行中?」
「ん?………あぁ、誰も戦闘不能になってないからね。」
「ん。あと怪我はどれくらいさせても平気?」
「そうだね…骨折ったりとかは面倒な事になるから止めてくれると助かる。薬も勿体ないし。…お前達は戦闘不能扱いしてあげるから下がってた方がいい。巻き添えくらうぞ」
暫く思い出すような素振りを見せたレンはめんどくさいとばかりため息をついてから此方に問い掛けてくる。彼女のやろうとしてる事が分かり、拘束してる男以外を下げさせた。……あの子、しっかり神父と似た思考になってると思うんだよね
でも、その考えには同意できる
言葉の通じない馬鹿の躾は痛みが手っ取り早い
特に貴族のようなプライドだけは一丁前の奴らは特にね。痛みなんてものに慣れてないから植え付けられる恐怖は倍以上だろう。貴族全員が面倒臭いやつだとは思ってないが、元元老院側…その血縁に至るまで、面倒臭いやつは本当に面倒臭い。まだうちのギルドの馬鹿達の方が可愛く見えてくるくらいだ。性格に難ありのやつも多いが、獣人だからか上下関係が妙にしっかりしてる奴が多い。…だからこそ、俺達のギルドは受付に至るまで一定以上の戦闘ができる
ギルド長には憧れてるが、それ以外の奴は興味無いという奴がちらほら居る分…それの手網を握ってなきゃいけないのが俺達裏方の仕事
依頼人と揉めるのを防いだり、仕事の斡旋だったり…やること自体は多いがそれを聞かすのは骨が折れる。馬鹿に説明しても理解しないしね
だから、手っ取り早く俺の方が上だと分からせるために力を付けた。こうして新人教育も担当してるのは俺が総括だからでもある。…俺の部下たちの言うことも聞くよう躾られるからね
まぁ、そういう馬鹿は大抵すぐ辞めたりランクを上げるのに四苦八苦して腐っていくからギルドに残る奴らは自然と洗練されていく訳で…気のいい連中が多いと思う
地方のギルドと意見交流した際にそれは特に感じた。どこか殺伐とした空気のままのギルドもあるにはあるが……よそはよそ、うちはうちというやつ。皆の居場所で在れるようにと尽力するのが俺達の仕事だ
……つまり、それを乱すような輩は要らない
裏方の仕事とは即ち、帰ってくる場所を護る仕事。俺も他の奴らも全員がそれを誇りと思っているからこそ…それを蔑ろにする輩に慈悲も遠慮もない
さて。彼女はどこまで強くなったんだろうか。報告じゃ分かりきらないこともある、折角だからギルドの皆への土産話にでもしよう




