第七話
アンさんがすぐやると言ったら本当にすぐやると理解しつつ、なんでこうなったんだろうと空を見上げ……結界を叩く音から意識を逸らした
複数の方向からの攻撃は、さっきの御一行のものだったりする
なんでこうなったかというと、ほんの数刻前に時間は遡る
「じゃ、彼女相手に一撃入れられたら訓練終了。合格とするよ。頑張ってね」
と、強制的に試合が組まれ、土俵に立たされた
勿論悶着はあった
「あ?こんな小娘相手に複数人なんて居るのかよ?」
「しかも彼女魔術師でしょう?……近接戦って幾らなんでも…」
反応は二パターン
一つは完全に此方をなめてる者。…問題児は此方の方だろうな。口の聞き方もなってないし
もう一つは此方を案ずるもの。魔術師は接近戦……しかも単独で複数相手を苦手とするのを分かってて心配してくれる人達。アンさんの指示でフロウを下げてるから余計不安そうにしてる
「構わないよ。というか、複数人居ないとそもそも君らじゃ近付く事もできないだろうからね。…レンもいいね?対人戦は初めてだろうけど、普段通り……は、流石にやり過ぎるから、半分くらいの実力で」
「分かった。頑張る」
「はは、君が頑張ると一瞬で結果が出ちゃうから程々にね」
わざわざ対人戦がはじめてだってバラす理由があったのかはさておき、期待には応えなくては。と思って意気込んだら盛大な毒を交えてアンさんが笑うので思わずギョッとした
……っていうかね?アンさんってば私のこと過大評価し過ぎじゃない?五人くらいを相手しろと?倒されないかな……
ほら、彼らも訝しんで……
「なんだ楽勝じゃねぇか!こんな嬢ちゃんに相手させるなんてギルドも大した事ないんだなぁ!!」
訝しんで………
「嬢ちゃんにはわりぃがこれも訓練だしなぁ……恨むなら教官様を恨むんだな!それに実践演習だからあらぬところが破けても許してくれよ?」
訝しむどころか乗り気の馬鹿だ……!!
人間、獣人問わず不躾な視線が注がれる。……主に胸部に
珍しいもんね。猫人族が胸あるの。速く動く上で邪魔だかららしいけど、私肉弾戦得意な種族じゃないからね…!!
あまりの馬鹿さ加減に最早絶句。……え?これをギルドに入れるの……?治安も依頼人との関係も絶対悪くなるでしょ…?
アンさんとヴェセルに本気か…?って視線を送れば、深く頷かれた。……そりゃギルドも拒むわけだ。いくら人手が欲しくともこんな馬鹿は必要ないし、金があるのを後ろ楯にするくらいしか出来ない無能なのだろう…なんでギルドに入りたがってるかは知らないけど、是非とも別の道を探してもらおう
大丈夫、世の中には金があればそれ以外はどうでもいいってお嬢様方も居るって…!一人二人くらいは……!!
「おー、おー、ビビって声も出せねぇか?なんならそこの狐も出していいぜ?」
「いや別に。馬鹿だなぁって思ってた」
さっきから威勢がいい馬鹿一号含め、向こう側が固まった気がした。……しまった、うっかり本音が…
あ、こら、フロウ!小馬鹿にした顔を向けるんじゃありません!馬鹿だけど!
あちらは大剣やら双剣やら……圧倒的に体格差で此方が負けてるし、向こう側はなんか意味わかんないけど完全武装だ。戦争時でもないのに。一目でいいものが使われてるのが分かるけど…身に纏ってる奴が馬鹿過ぎて防具が哀れに思えてくる。っていうか、戦争でもなければ騎士とかでもないんだからそんなに鎧纏っても仕方ないでしょ…アンさんだって必要最低限の防具だぞ、見習ってほしい。というか基本冒険者って軽装だしね、機動力の方を優先してるし
外野もざわざわしてるけど…あの馬鹿どもよりましかな。格好もそうだけど、あくまで訓練っていうのが分かってるからか、好奇の視線もあるけど、真剣に学ぼうとしてる者の視線もちらほら感じる。…誰かは分からないけど
「こ、この餓鬼……!!」
「どうでもいいけど、早く始めよう。私予定があるから」
軽く身体を解してアンさんを見る。このあとペイルウィングとリュエールとの戦闘があることを考えると…あんまり魔力は使わない方がいいか。初級程度にしておこう
……あれかな、あんまり無詠唱なのもバレないほうがいいかな…じゃあ結界張りつつ様子見が無難か……?
「そうだね、じゃあ……どちらかが戦闘不能になるまで、始め!」
「行くぞお前ら!!!喉を潰せ!!」
一気に囲まれ、距離を詰められる。…魔術師との戦闘において、最も簡単な攻略は喉を潰すこと。詠唱出来なければ魔術使えない人多いからねぇ……ま、私無詠唱なんだけど
凪ぎ払うような剣も纏めて結界を張って防いで、のんびりと腕を組んで空を見た
───なんて事があって、現在進行形で結界を叩かれてるんだけど……え?温くない?アルトゥールとか一撃で壊してくるんだけど、拳で
「くっそ……!!割れねぇ…!!」
「金属と結界がぶつかる音って案外煩いんだなぁ……初めて知った」
「ちっ…!!クソ餓鬼が…!!従魔術師のくせになんで結界も使えんだよ…!!!」
煽った訳ではないけど、ついぽろっと溢れた言葉に一人が反応する……あれだ、睨んできた人だ。だってアルトゥールが武器を使ってくる時は絶対に結界割られるんだもん、こんなにうるさいなんて思わなくてつい…
殺気をガンガン飛ばしてくるのを無視して、立ち方を直す。なんでと言われても適性あったからなんだけどな
「適性あったから…?」
「チッ…!!!」
馬鹿正直に伝えたら殺気が増した。解せぬ
……っていうかそろそろ喧しいな。どうやって倒そうかな…何となくだけど、こっちが本気で張ってもない結界にヒビすら入らない時点で実力はある程度分かる。本気で張るなら何重にも張るんだけど……アルトゥールもアヴィリオも、全部壊してくるんだから意味がわからない。実力ありすぎなのか、今目の前に居る彼らが弱すぎなのか……後者だろうな、たぶん
「レン、時間が勿体無いから伸していいよ。……あぁ、土系統の魔術は止めておきな、従魔がやった、とか余計な言い訳されるからね」
「随分硬い結界っていうのもあるが…難儀だねぇ…その武具達を使ってもヒビ一つ入らないとは。…やっぱり宝の持ち腐れか!」
信用0、期待0。……なんか、こっちが悪いことしてるみたいな気分…外野もアンさん達を思いっきり見てる。本当に心をぽっきりやる気なんだろうな…言葉に棘しかないもん。フロウも笑うんじゃありません
というかね、煽るから向こうも自棄になったのか……無闇に剣を振り回してるから仲間内で怪我が起こってる。馬鹿だ。救いようのない馬鹿だ…!!
「っ…!!テメェ!俺に向けてどうすんだ!ちゃんと狙え!」
「お前が邪魔なんだよ!!」
十歩くらい距離を空けたところで起こる怒鳴り合い。一番最初に煽ってきた馬鹿からどんどん広がり……ついには掴み合いに発展し出した。馬鹿も休み休みやってほしいんだけど…
組手の意味がないと溜め息をついて、結界を解除する。こんなのにずっと魔力消費する必要もないし
「クソ餓鬼が…!!テメエも教会のジジイもくたばれ……!!」
解除した途端、睨んできた男が一目散に剣を振りかぶってきた。……っていうかね?
聞き捨てならないことが聞こえたんだけどなぁ…?




