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第二話





「ナオ、あまりレーヴェディアを苛めてはいけないぞ。最近は隠れるのも逃げるのも上達しすぎて探すのが難しいと泣き言を漏らしていたからな」



「……ごめんなさい」



楽しそうに喉を震わして笑う百獣の王は、それだけで絵になりそうなほど綺麗だった


何だか場違い感が凄くて、振り向いて神父様を見上げると、………神父様も、おなじ様な境遇らしく、眉間に皺がそれはもう深く、ふかぁく、刻まれていた

誰だって、急に家に王様がくれば思考が停止するというもの


からからと笑う王様は此方がおろおろしてるのに気付いたのか、頬杖ついたまま笑いかけてくる…そして王妃様に小突かれて此方に近寄ると、顔を下げて目線を合わせてくれた



「初めまして、お嬢さん。私はブランシュナ・ベスティード。あそこに居るのが妻のフィオルナだ」



笑い掛けてくる国王陛下に畏縮してしまう。無意識だが尻尾が足の隙間に入り込んでしまったのを見たからか、困ったような苦笑を浮かべている……どことなくナオにその表情は似ていた

ベスティード王国の国王と云えば、お祈りに来た人の噂程度でしかないが大変勇ましく、厳格な方だと聞いた。勇気と力に溢れた獅子の子だと言っていたのはどこのおばあちゃんだっけか……


半ば現実逃避していると頭上から溜め息が聞こえ、現実に戻される。神父様が溜め息をこぼすなんて珍し……くもないか。よくレーヴェディアにしてたや



「レン、大丈夫だ。国王様も王妃様もとてもお優しい方々だ……だからそう怯えずに」



そう紡いだ神父様のお顔はとても優しい。…引っ付いてるのが怖がってると思われたのだろう。声も、表情も、びっくりするくらい優しい。そして膝上に乗せられた

…怯えてるというか、圧倒的“美”なのだ。いっそ威圧されてるのかと思うくらい視界からの情報が凄い

口許がニヤケないように我慢するのに必死なだけで、断じて怖がってる訳では無い。だってナオの生みの親だし、神父様もナオも居るし



「父上も、母上も何故ここに…?」



「最近、近衛達からよくお前を見失うと共に、町外れの教会へ入り浸ってると報告を受けてな。何かあるのかと単独で来てみた」



「……父上自ら?護衛も付けず?」



ナオがじとりと国王陛下を見詰めれば、さっきまでの和やかな表情を引き締め、腰を上げるとナオを見下ろした


そう。そもそも、だ


王族が教会に入り浸ってるなんて噂が立った時点で未来は暗雲だし、ナオの言葉に自分が緩んだ考えをしていたことに気付いた。…ナオが来る時には必ずレーヴェディアが居たし、眠る時以外は片時も離れない。…護衛であり、監視役と考えるべきだろう。彼はナオの配下じゃない。…国王陛下の手駒であり、仕えるべきは国なのだから

さあぁ…と音がする勢いで血の気が引いた。いくら平和ボケした国出身とはいえ娯楽に富んだ国でもあり…王族とは何たるか。貴族とは何たるか。そして何より、国とは何たるかをほんの少しくらいは理解していた


つまり。幾ら護衛も居ない非公式の場であれど、身分制度は適応される。裁こうとおもえばいくらでも裁けるのだ



「ほぉ。……随分聡明なお嬢さんだな、お前の躾か?」



「まさか。…レン大丈夫だ。怯えるなと言ったろう?……お前を罰したり見極めに来た訳では無いのだ、陛下は」



「で、でも……!」



「本当だとも。……問題があるとしたら息子の方だ


元老院の者達に報告が行ってないから良いものの、王家の者が入り浸ってるのを知れば彼らの生活が脅かされる。しかも理由が彼女とくれば、………賢いお前なら、皆まで言わずとも意味が分かるだろう?」



八歳へ向けるには、些か厳しすぎる声色に此方が怯えてしまいそうで……肉体に精神が引き摺られてるのかもしれない。いやまぁ、そりゃあこの国の最高権力者だしね、怯えないというのが無理な話だ


神父様に抱きついて、膨らんだ尾も一緒に腕に抱く


大人になれば、感情を尾に出さないようになるというが、私はまだまだこの辺り未熟である。意識してても抑えられないものはあるし


……ただナオはそれでも怯みはせず、一度心配そうに此方を見ては、強い意思を称えたまま金色の瞳で父親を睨む



「だから、護衛さえ撒いて彼女に会いに来るんです。僕と同じで彼女は賢い。人目が無い帰り道を教えてくれるし、僕とて隠蔽工作はしておりますし、バレたことも無い。とっくに調べてるんでしょう?協力者が居るって……それよりも、こうして国王陛下と王妃様が揃ってくるほうがよっぽど元老院の者達に目をつけられると思いますが?」



キリッと引き締めた顔は、私の知ってる優しい顔じゃなくて……こう、第二王子としての、顔だった

きっと城の中ではこんな顔をしているのだろう。凛とした表情がすごく好きだ


大切な話をしているのに、胸が高鳴って仕方ない


格好いい。格好いい。素敵、愛しい。そんな想いがぐるぐるぐるぐると回って今すぐ抱き付きたいのを我慢する……危険なのに会いに来てくれるなんて。好きだ、大好き。きゅぅぅう、って胸が締め付けられた




「……レン、レン。嬉しいのは分かるが、尻尾下げなさい。分かったから」




「あ………ごめんなさい神父様…」




中々感情を制御するのが難しい。勝手に尻尾に出てしまう。きゅ、と自分で尻尾を抱き締めて神父様の顔にぶつからないようにカバーした……いやほら、感情が昂るとしっぽが膨れてしまうんだもの。こればっかりは仕方ない。ちなみに、しっぽの長さや太さは個々で異なる。王妃様とナオは大変ふかふかそうなしっぽの持ち主だけど、私は細いし、国王陛下も獅子らしくスラリとした尻尾だ


そんなことより。……真面目な話をしているのにこれではいけないと、頑張って表情も引き締めた。大丈夫、我慢くらいでき…………できるはず、たぶん


正直、肉体に精神が引っ張られているのだから、昔よりも感情抑止が上手くいかないのは分かってる。……だってもう頬が緩いもん



「いい眼をする。………ところで話は変わるが、あの子、可愛いな。いくつになるんだ?」



「……は?」



「お前と数個違いか?フィオの色彩とは真逆なのがまた愛らしい。…どう思うフィオ。」



「ふふ、そうねぇ……さっきからナオへ大好きって感情を素直に向けてて大変可愛らしいわ。娘が増えるのは大歓迎よ」



…………空気が、緩んだ



ぽかん、と開いた口が塞がらない。…ナオもぽかん、としてる。…あれ?さっきまで真面目な話をしてたよね?神父様を見上げても眉間を押さえて溜め息を洩らすだけ。……耳に当たってくすぐったかった


にこにこと穏やかな王妃さまの視線には気付いていた。深い深い海底の様な美しい瞳を意識してしまえば余計固まる自信があったので見ないようにしてたんだけど……そこに緩んだ金色も加わって余計恥ずかしい。なんなら2人揃って微笑ましい顔をしてくる



ほんの数秒前まで、王としての威厳に溢れていた国王陛下は、此方へ顔を近付けてきた。……神父様に抱き付いてしまったのは許してほしい。圧が、圧がすごいんだ。とても。なにせ王族だし、獅子だし、自分にとってはすごくガタイのいい大人がまじまじとこっちを凝視してくるのだ。……怖い以外何があると?




「うちの息子と仲良くしてくれてありがとう、名前は?」




「れ、レン…ですっ。」




「そうかそうか、良い名前だ。齢は?ナオより下に見えるが……」




「ご、五歳、……に、なりました。」



ビクビクしてしまう。だって相手は王族だ。迂闊に不敬な行動を取れば首が胴体とおさらばする

……穏やかに見ているだけの女王陛下で良かった、加わったら顔のよさにやられる。…いや、こんなに離れててなお麗しいんだけども



「っ…父上!顔が!近いですっ!レンが怯えるので離れてください!」




「おっと……一丁前に嫉妬か?」



逃げ場はないのが分かってか、間にナオが入ってくれ距離が空いた。……ああ、尻尾がぼわぼわになって…あとでお手入れしなきゃ

…なんて、半ば現実逃避をしていたら神父様に名前を呼ばれた




「すまない……二人とも……無類の子供好きなんだ。そして可愛いもの好きでもある」




「……うん?」




「小さいものは可愛らしい。子供は国の宝。……殿下を揶揄うのも含めて、気に入られたみたいでなぁ……」



ぽか、と開いた口が塞がらなかった


……とりあえず、首が胴体とおさらばする可能性が低くなったと認識しておこう。何だか面倒そうな気配を感じたので詮索したくない。ほら、レンちゃんいま5歳児だし。…………中身は全然違うんだけど




「レンのことより!…僕の問いに答えてください。何で二人が此処に?」



「んー……そりゃお前、大好きな息子が番を見付けたっぽい、なんて報告を受ければ親として気になるだろう?結婚するなら安全に暮らせるよう手配したりしなくてはならないし…何よりお前には王族としての勤めもある。不幸にならないためにも見極めがいるだろ?」



「私は好奇心。レーヴェディアがそれはそれは興奮気味に貴方と黒猫の少女の事を話すんですもの。気になっちゃった」



「………………………………は?」




キッと睨む様に見ていたナオが脱力した。


片や親心。片や好奇心で国のトップが揃って様子を見に来たと言うのだ。……護衛を撒いてまで会いに来てくれるナオも大概だが、陛下達も大概だった………流石ナオの製造元というべきか、国のトップというべきか……


きっと後でナオは荒れるんだろうなぁ…なんて、諦めに似た感情と共に、…窓の外を見つけた




今日は雲ひとつない良い天気だ、外でお昼寝がしたいなぁ




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