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第二十話




地面に無数の跡が残る。


一撃ごとに記録をつけて、少しずつ調節していった跡だ。時折魔力回復のために小休憩を挟んで、的に当たるまで繰り返す。まだ魔力が全快とまではいかないけど、そもそも保有魔力が多いから連発出来るのは有難い

意識して狙えば、格段に命中率が上がった




「おーい、チビスケ」




あとは威力が問題だ。木を凪ぎ払うイメージというのが実際体験したことはないから中々難しい。しかも凪ぎ払うなんて剣とかだろうし、魔術って難しいのを身をもって体感した。……ゲームはゲームなんだよ、ほんと……VRとか経験したことないもん…




「……チビ」




残ってる魔力量にも気を付けなきゃいけないし、一人で同時に考えるのも気力を使う


マルチタスクが出来る方ではあったけど慣れるまではそれでも難しい。……今はゆっくり練習できるけど、素早く動く敵だったりしたらそんな時間はない。一瞬が命取りになる。……難しいなぁ……




「…おいレン!!」



「いった!」



地面に今までの結果を纏めていれば、突然の衝撃に額を抑える。……反射的に痛いって言ったけど、全然痛くなかった


何事かと振り向けばアヴィリオが仁王立ちしてた。……よくよく見れば、太陽はとっくに真上に上がっている。………お昼までに完成できなかった…




「ったく…お昼に起こせって言ったろ。気付くかと思えば地面になんか書いてるし……どうせ完成しなかったんだろ?…まぁ、当たり前だがな」




いつ起きたのかすら分からないほど没頭してたらしい。……それでも習得出来なかったのは悔しい。ものすごく

笑って見下ろすアヴィリオを八つ当たりに睨んで、くぅう、と鳴りそうなお腹を抑える

お昼までに習得出来なかったなら、せめて今日中に完璧にしたい


じゃないと、なんか、負けた気がする


とりあえずお昼を食べに教会に戻ろう、その後また頑張らなきゃ




「そういや……お前よく暴発させなかったな。最初のうちは暴発しやすいもんなんだが」



「え……暴発するとどうなるの?」



「今やってるのは初歩だから精々辺りが吹き飛ぶくらいだが……ものによっては辺りが焼け野原になったりする」




辺りが吹き飛ぶのも結構なことでは…?

焼け野原もまずい。森林破壊とかの話じゃなくなるし……火の魔術を習うときは物凄く注意しよう




「お前は黒猫族だからな。普通の奴より魔術を使うのは難しい。…特化しては居るが、だからこそ正しく覚え、使用しないと自滅する」



「……生まれつき魔力が多いと魔術って難しい?」



「人による。でかい水槽から少しの水を出すのにどれくらい蛇口をひねればいいか感覚で分かってる奴もいれば、一生それが分からずどでかい魔術しか使えない奴もいる……一通り見てたがお前は問題なさそうだったな。一発目でありったけの魔力放出したらぶん殴ってやろうと思ってたのにな?」




本気か冗談か。笑うアヴィリオに頬が引き攣るが……アヴィリオも素直じゃない。お昼に起こせって言ったわりに、多少でもちゃんと見ててくれてたし……お昼に一人で起きても私が気付くまで待っててくれたんだろう、きっと。…分からないけど


話しながら歩いてるけど……行きも思ったけど歩幅が違うから追い付くの大変だ。長身はずるい。股下いくつだ




「……腹減ったから早く帰んぞ」



「………アヴィリオは素直じゃな、痛い!」




軽々と抱き上げた彼にそう言えば、額をべしりと叩かれた。……アヴィリオは素直じゃないだけでいい人だ


振動も少なくものの数分で教会に戻ってきた。駆け寄ってきたフロウの後ろでリムネルと神父様が手を振ってる。……リムネルはアヴィリオを見ると吹き出したけど。なんかこそこそ話してこっちを見て……というかアヴィリオのことを笑ってる。ちら、と横目で見ると眉間の皺がどんどん深くなっていってる。可哀想に




「漸く戻ってきたか。おかえり、心配したぞ」



「ごめんなさい、ちょっと集中してた」




アヴィリオに降ろして貰い、何故か今度は神父様に抱き上げられた。神父様の方が安定感あっていい。……じゃなくて、なんでまた抱き上げられたのだろうか




「殿下達がお昼を供にと。向こうの別荘も近くてな」



「そうなんだぁ…待たせちゃったよね。まだ大丈夫かな?」



「大丈夫よぉ。さっきまで王妃様とお話してて、丁度出来上がったくらいだから」



「………因みに、どんな話を?」



「乙女の内緒♡」




恐る恐る聞けば、ウインクが飛んできた。……アヴィリオが物凄く引いてる。…神父様は完全無視。…凄いなぁ。無視する神父様も凄いけど、リムネルを相手にした王妃様も凄いなぁ…


深く聞くのは止めてそのまま神父様に運ばれる。……運ばれるのって楽でいい。子供の特権だ


神父様の言う通り、少し教会から離れたところに大きな建物があった。……これが別荘って言うんだから王族って凄いなぁ……うちの教会より大きくない?




「美味しそうな匂いがする。……お腹空いたぁ」



「きゅ、きゅぅ」




食欲をそそる匂いにつられて、小さく鳴ったお腹を抑えれば、神父様の足許を歩くフロウも自分も!とばかりに主張する。……可愛いなぁ


でも実はフロウって食べ物を食べずとも、主人の魔力を食べれば生きていけるらしい。なんてたって従魔なので。…というかまぁ、魔物も魔力さえあれば食事いらないらしいんだけどね、肉とか植物の微力な魔力を食べてるだけだから

勿論、術者からの魔力補給以外にも補助で食事も出来るらしいが……折角なら皆で食べたいし、美味しそうな顔をしてるフロウも好きなので是非食べてほしい


バーベキューでもしてるのか、外に置かれた丸太のテーブルと机。……国王様とナオが向かい合って座ってた。二人とも此方に気付くと手を振ってくれた……けど、なんか国王陛下の顔色が良くない気がする。…気のせいかな?


手招きされるまま駆け足で近付いて、ナオの隣に座った



「国王陛下……顔色が、よろしくないように見えますが…」



「ん?……あぁ、大丈夫だ。ありがとう。ただちょっと疲れただけだよ。……とんでもない奴に愛されてるもんだなって我が息子の事ながらちょっとな……」



「???」




ナオの事だろうか。隣のナオを見てもにこやかに笑うだけだし………うーん。何の話をしてたんだろう


そんな合間にメイドさんたちが颯爽と現れて、じゅうじゅうと美味しそうにお肉の焼ける音がし始めた。口の中が唾液で溢れそうになる

熱心に見てる間に焼けたのか、大皿にこれでもかってくらいお肉がいっぱい乗っかって…おいで、と呼ばれたからナオの隣に座った




「っ……!…!!」



「美味しい?…ふふ、良かった」




ナオが一本手にとってこちらに向けてくるので、がぶり。この間食べた串焼きより、とろって口の中で蕩けるようなお肉が美味しい

こんなお肉前世でも食べたことないし、異世界最高……




「凄いわねぇ……人目も気にせず餌付けする殿下も殿下だけど、本当に仲良しなのね。レン」



「んむ?」




絶賛餌付けされ中の所、目の前で食べてたリムネルが頬に手を当てて此方を見ていた


リムネルの隣のアヴィリオは何故か此方を凝視してる


因みに神父様と国王様達は大人の会話があるそうなので離れた所に居る。…リムネルとアヴィリオはナオ達とほぼ初対面なので此方側に




「食べないの?美味しいよ?」



「食べるが……こいつの隣は落ち着かねぇ。チビ、お前リムネルと代われ」




口の中の物を飲み込んでからアヴィリオに声を掛ければ……リムネルを顎で指して、来るように言われた


勿論ナオの隣から離れるのは嫌なのでしょげ、って顔をして拒否をしといた




「なんだその顔は」



「嫌。ナオの隣がいいの」



「アタシが隣で嬉しいの間違いでしょうが。…それに、大人の嫉妬は見苦しいわよ?」



「なっ…!嫉妬じゃねぇ!お前の隣が嫌なだけだゴリラ!!!」



「あ”???んだとおい」




勢いよく立ち上がったアヴィリオの顔に、リムネルの手がめり込む。アイアンクローってやつだ


突然の野太い声にナオもきょとりと瞳を瞬かせ……何事もなかったかのように餌付けが再開された。お肉美味しい




「レンの周りはやっぱり賑やかな人が集まるね」



「ん……んむ、……む!」




そんなことないと言いたいが、口に物が入ってる時に喋ってはいけませんと言われてるのでお口いっぱいに詰められたお肉をもぎゅもぎゅと頬張る。……美味しい。絶妙なタレの味が大変幸せな味がする


ただちょっと詰めすぎってぐらい入れられたから、噛むのが大変。ゆっくり飲み込みつつ、とりあえずアヴィリオに視線を戻す




「いだだだだだだ!!チビスケ!!見てないで助けろ!!!」



「レンは今喋れないしそちらに行けないよ、口に肉が入ってるからね」



「てめぇ…!謀ったなクソ王子…!!」




失言したのはアヴィリオでは?と思いつつも、とりあえずなんか仲良さそうで良かった。王族にタメ口とか普通処罰ものだと思うけど、ナオ自身が許しているのだろう。なんなら王妃様も国王陛下も何も言わないし


リムネルは怒り心頭とばかりにどんどんプロレス技を掛けていく……その間接ってそっちに曲がらない筈なんだけどな……




「んー。……顎疲れた」



「ごめんね。美味しそうに頬張るの何だか可愛くて……ソースついてる」




くしくしとハンカチで口許を優しく拭われ、綺麗になれば頭を撫でられた。ナオの手で撫でられるのは好きだ。頭を擦り付けてもっと、と強請っていると足許を何かに突かれた




「きゅ」



「フロウ。…おかわり?」



「きゅぅ!」



「おいで。食べさせてあげる」




自分も食べるのに一段落着いたので、ぽんぽんと膝を示せば軽やかに登ってきた


フロウには味がついてない焼いただけのお肉を。生肉でもいいんだけど、折角だから火を通したのをあげたかった。バーベキューだし

ナオが器用にナイフで一口サイズに切ってくれて…それを掌に乗せて、フロウに差し出す


反対の手で撫でながら食べさせて居れば、隣からの視線




「ナオも食べさせたい?」



「いや。僕はいいよ。…君を眺めてる方が好き」



「むぅ……」




見詰められると照れるから嫌だと言っているんだけど……いつも聞いてくれない。…にこにこと幸せそうだから、許しちゃう私も大概なのかもしれないけど




「はぁ、いい運動したわ。動くとお腹空いちゃう」



「まだまだメイド達が持って来てくれるから食べて。…料理長が張り切っちゃってさ。あんまりエルフに腕を振る舞うことがないそうだから、良かったら後で感想言ってきてくれると嬉しい」



「勿論。……いいわねぇ、貴方達。見ていて此方がにやけてしまうぐらい幸せそう。…まぁ、何処かの馬鹿は初弟子が取られて拗ねてるけど」




完全に伸びているアヴィリオを横目で見つつ、初弟子ということに首を傾げる


今まで誰も弟子にしなかったのかもしれない。…なのに弟子にしてくれたのは何だか嬉しい気もする。……弟子を取るのが普通なのかどうか知らないけど


串焼きを頬張るリムネルも弟子を取ってるのかな?




「アヴィリオもリムネルも、今まで弟子を取らなかったの?」



「ん……そうねぇ、アタシの場合は取ろうとも思わなかったけど……アヴィリオは違うわ。魔術師として若い芽を育てるのを楽しんでる。…けど、アヴィリオってこんな性格でしょ?だから勘違いされたり、衝突したり…弟子入りしたいって言い出した人に必ず試験を課すんだけど、それが難しすぎるって話題でね


大丈夫?貴方は苛められてない?」



「苛められてない。……でも、ちょっと意外だった

……アヴィリオは照れると口悪くなるし、すぐ暴力に走るけど、何だかんだ様子見てくれたり、アドバイスくれたり、本当はやさし、痛い!!」




リムネルに力説してたらこつんとそれほど痛くなく、殴られた


でもやっぱり反射的に痛いって出ちゃうよね


ナオがくすくすと笑いながら後ろを指差す。……さっきまで伸びてた筈のアヴィリオが顔を赤らめて立っていた。握った拳はさっき頭に落とされたやつだろう




「チビスケ!ベラベラ余計なこと喋るな!」



「だって本当の事だし、チビスケじゃなくてレン。……お昼だって、先に起きたのにわざわざ待っててくれ、いたっ!」




今度はさっきより力が入ってた。でも頭じゃなくておでこをデコピンされた。…頭の傷、別にちゃんと塞がってるのにな。逃げるようにナオの後ろに隠れ、ふんす、と小さく威嚇してみた。本当の事を言ってるだけなのに殴るのは酷いと思う

流石に第二王子に手を上げられる筈もなく、けらけらとお腹を抑えて笑うリムネルにターゲットを移したらしい。……ちゃんと机から離れる辺り、やっぱり優しいし、いい人だ




「ふふ、彼が気に入ったの?」



「んー……すぐ人を殴るけど……アヴィリオ優しいから好きだよ。リムネルも」



「そっか。嬉しいけど……ちょっと妬いちゃうなぁ」



「んふふ、一番好きなのはナオだから大丈夫」




むにむにと頬を擦り重ね、乱闘騒ぎになった二人を眺める。……ドスの効いた声が聞こえる辺り、きっとアヴィリオが余計なことを言ったんだろう


うりうりと頬と耳を重ねれば、ふわふわの尻尾が顔を擽って、思わず離れたら抱き締められて膝に確保されてしまった。大人しく腰を落ち着け、格闘戦に発展……というか、一方的にリムネルにぼこぼこにされてるアヴィリオを見る。…避けるのは出来ても、やっぱり反撃がなぁ……


流石に騒ぎすぎたのか、神父様が止めに入るまで、ただ二人でくっついて眺めた


……フロウは肉を食べ終えたら速攻寝に入ったし、暴れてる音にすら起きない。……すごいなぁ……





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